入試 3
入試前最後の期末試験。この成績如何で俺の進学先が決まる。ここが大一番だ。
プレッシャーもあった。だが、俺は見事に学年順位を2位まで上げることに成功した。
回りは大喜びだが、朝霞に合格するのが目標でまだ道半ば。勝って兜の緒を締めよ。
俺は油断することなく、その後も猛勉強に明け暮れた。
クリスマス、年末年始、すべて返上した。
きっとこの先もうこんなに勉強することはないだろう。と思えるくらいだ。
そして迎えた入試。やれることはすべてやった。
『今のお前なら出来ないことはない! 胸張ってやってこい!』
田中先生からの激励を受けて、俺は今朝霞学園高校の目の前に立っている。
俺と同じ受験生が次々と中に入っていく。
倍率3.0倍。朝霞学園高校の入試倍率。
3人のうち1人しか受からない狭き門だ。
俺の学校からは俺を除いてもう1人ここを受ける人がいる。
倉林千鶴〔くらばやしちづる〕。
学年トップの成績を誇る才女。一度だけ会ったことがあるが、三つ編みにメガネといった一般的な勉強できる子といったイメージだ。
彼女もまた同じ高校を受ける、俺にとっては最大のライバル。だが、意地でも負けられない。
試験は1日がかりで行われた。ベストは尽くした、はずだ。
あとは結果を待つのみ。
試験は、愛姉ちゃん特製の過去問と予想問題集のお陰でほぼコンプリートできた。
さすが頭脳明晰の愛姉ちゃんだ。帰りに大好物のティラミスを買っていかなくちゃな。
朝霞を出てすぐ、校門付近で倉林さんに会った。
目が合うと軽くお辞儀をしてこちらに駆け寄ってくる。
「…お疲れ様でした。試験はいかがでしたか?」
「…え、うん、上手くいった…とは思う」
「そうですか…」
それ以来黙ってしまう。
「倉林さんはどうだったの?」
「…私は…あまり、良くなかったかな……」
俺が問いかけると俯き加減の倉林さんがか細い声で答えた。
才女の彼女でも、朝霞の入試は不安なのだろうか。
「意外だなぁ。倉林さんなら完全無敵だと思ってたよ」
おちゃらけた感じで言ってみると、ちょっとムスッと表情を歪ませる。
その表情がちょっと可愛くてつい笑ってしまう。
「なんで笑うんですか!」
「いやいや、ごめんごめん…」
そうやってむくれた顔が可愛くて。とは本人には言えまい。
納得できないのか、『むぅ』と言って口を尖らしている。こういう顔もできるんだな。意外な一面だ。
あまりからかいすぎて嫌われるのも困るので、適当に切り上げて彼女と別れた。
家に着いたら愛姉ちゃんと栞姉ちゃんから労いの言葉をもらって、早速答え合わせ。
「…へぇ、なかなかじゃない!」
あまり褒めない栞姉ちゃんが感嘆の声をあげている。
どうやら点数は期待できそうだ。
あとは、どこまで順位に食い込んでくるか、だけだろう。
「…晶なら大丈夫よ。あれだけ頑張ったんですもの」
「そうよそうよ。あたしだって、あんなに勉強したことないんだから」
愛姉ちゃんと栞姉ちゃんがお互いして慰めてくれる。
俺は、丸が見事に並んだ答案用紙をずっと睨んでいた。






