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彼と彼女たち  作者:
プロローグ
4/37

入試 3

 入試前最後の期末試験。この成績如何で俺の進学先が決まる。ここが大一番だ。

 プレッシャーもあった。だが、俺は見事に学年順位を2位まで上げることに成功した。


 回りは大喜びだが、朝霞に合格するのが目標でまだ道半ば。勝って兜の緒を締めよ。

 俺は油断することなく、その後も猛勉強に明け暮れた。


 クリスマス、年末年始、すべて返上した。

 きっとこの先もうこんなに勉強することはないだろう。と思えるくらいだ。



 そして迎えた入試。やれることはすべてやった。


『今のお前なら出来ないことはない! 胸張ってやってこい!』

 田中先生からの激励を受けて、俺は今朝霞学園高校の目の前に立っている。

 俺と同じ受験生が次々と中に入っていく。


 倍率3.0倍。朝霞学園高校の入試倍率。

 3人のうち1人しか受からない狭き門だ。


 俺の学校からは俺を除いてもう1人ここを受ける人がいる。


 倉林千鶴〔くらばやしちづる〕。

 学年トップの成績を誇る才女。一度だけ会ったことがあるが、三つ編みにメガネといった一般的な勉強できる子といったイメージだ。


 彼女もまた同じ高校を受ける、俺にとっては最大のライバル。だが、意地でも負けられない。




 試験は1日がかりで行われた。ベストは尽くした、はずだ。

 あとは結果を待つのみ。

 試験は、愛姉ちゃん特製の過去問と予想問題集のお陰でほぼコンプリートできた。

 さすが頭脳明晰の愛姉ちゃんだ。帰りに大好物のティラミスを買っていかなくちゃな。



 朝霞を出てすぐ、校門付近で倉林さんに会った。

 目が合うと軽くお辞儀をしてこちらに駆け寄ってくる。


「…お疲れ様でした。試験はいかがでしたか?」


「…え、うん、上手くいった…とは思う」


「そうですか…」


 それ以来黙ってしまう。


「倉林さんはどうだったの?」


「…私は…あまり、良くなかったかな……」


 俺が問いかけると俯き加減の倉林さんがか細い声で答えた。

 才女の彼女でも、朝霞の入試は不安なのだろうか。


「意外だなぁ。倉林さんなら完全無敵だと思ってたよ」


 おちゃらけた感じで言ってみると、ちょっとムスッと表情を歪ませる。

 その表情がちょっと可愛くてつい笑ってしまう。


「なんで笑うんですか!」


「いやいや、ごめんごめん…」


 そうやってむくれた顔が可愛くて。とは本人には言えまい。


 納得できないのか、『むぅ』と言って口を尖らしている。こういう顔もできるんだな。意外な一面だ。



 あまりからかいすぎて嫌われるのも困るので、適当に切り上げて彼女と別れた。


 家に着いたら愛姉ちゃんと栞姉ちゃんから労いの言葉をもらって、早速答え合わせ。


「…へぇ、なかなかじゃない!」


 あまり褒めない栞姉ちゃんが感嘆の声をあげている。

 どうやら点数は期待できそうだ。

 あとは、どこまで順位に食い込んでくるか、だけだろう。


「…晶なら大丈夫よ。あれだけ頑張ったんですもの」

「そうよそうよ。あたしだって、あんなに勉強したことないんだから」


 愛姉ちゃんと栞姉ちゃんがお互いして慰めてくれる。

 俺は、丸が見事に並んだ答案用紙をずっと睨んでいた。


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