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力の発現

あけましておめでとうございます。

 (ごめんなさい……)


 (ん?)


 (ごめん……なさい……)


 (……)



  


 「あー、よかったぁー、目ぇ治った」


 

 怪我してから大分時間が経ちすぎたせいか引掻かれた傷跡は少し残るも目自体は無事に治りホッとした。泉の前で体中の力を抜き仰向けに寝転がると

まるで夜空のような暗い天井に大小様々な魔方陣が煌いていて星空を見ているようで綺麗だ。

 あの後目が覚めてから体の節々や目は痛んだけど、朦朧とした感じは消え、なんとか落ち着いて集中できたおかげでウサギの部屋を渡りきれた。



 ぐごぎゅるるぅぅぅぅぅ


 「おおう」


 盛大に腹が鳴ってしまい静かな泉の空間に響き渡った。そういえばこの世界に来て以来水しか飲んでないな。何か食いたいと思い、そういえばモモ肉取得しました言ってたので手のひらに出してみた。


 (モモ肉!)


 うん、出たわ、モモ肉の生がね。声に出さなくても出るのね。


 いけるか? 見た感じプリップリでうまそうには見えるが食中毒とか大丈夫かな。豚とかはしっかり火通さないとヤバイとかいうし、杖で焼ければよかったんだが、落としたのを思い出し悔しさがこみ上げてきた。


 「……ガブッ! もぐもぐ……んん! うまいわ! 」


 どうせ腹痛起こしても水飲めば大丈夫だろうと思い食べたが予想以上に美味かった。その後腹八文目になるまで10個ほど食べた後、人心地付いたため今までのことを反省した。



 未熟者。今の自分に対して当てはまる言葉だ。

 空手やってるから俺つえーとか通用したのはウサギまでだろうし、大体空手は対人用だし所詮高校生の部活レベルなのだ。

 親父と多少は組み手をしたことはあるけど一方的にやられてただけだし、親父の技は明らかに空手ではない攻撃ばかりで何をされたかも分からず一撃で沈められたことも数え切れないほどある。親父って何者なんだろう。本人は我流だとしか言わず体で覚えろとしか言わない。もともと無口で会話も続かなかったが、どっしりと構える姿は迫力がありカッコよかった。母ちゃんもそこに惚れたとか言って惚気てたなぁ。


 いかん思考がそれた。


 全身血まみれだが戻れたのはまさに奇跡だったのだろう。やばくなったら発動すると思っていたスロー世界が立て続けに起こってくれたのが逃げ切れた要因だな。

 だがそれだけじゃこの先は生き抜けないだろう。狼は格段にウサギよりも強かったし速かったし、それ以上にカメレオンは強さを認識することもできなかった。

 狼の広間を戻る時も体格が大きくなったせいで避ける隙間を探すのも手間だったほどだ。

 切り抜けるために頭を切り替え分析をしよう。敵も知能を持っていて罠を仕掛けてくること。俺は玉砕でもいいから何故火の魔法使わなかったのか。

戦闘中に水飲まなかったのか。危険になれば自動的にスローになるけれど、どれだけ使えるのか。パニック起こさずにどんな状況に陥っても冷静でいられるか。


 「……うん、修行あるのみか」


 他にも考えることや答えはあるのだろうがこの足りない頭で思いつくのはそれぐらいだったのさ。スロー世界も結局考えても分からないし。ということでもうちょっとウサギさんにお世話になることにしよう。


 「というわけでちょっと食休みっと」


ゴロンとまた転がり煌めく魔方陣をボケッと眺める。


 (うーん……すごい泣いてたなぁ。俯いてて顔見えなかったけどあの子だったよなぁ。もしかしてカメレオンと狼にボコボコにされてたとこ見られてたとかなら恥ずかしいな。もう泣かないみたいなこと聞こえた気がしたけどその後もなんかイヤァアとか聞こえたような……)


 ずっと泣き顔しか見てないなぁ、泣かせてるのは間違いなく俺だろう。これが続くと愛想つかされて新しい使い魔召喚して俺のことはいずれ忘れ去られちまったらどうしよう。

 どういう方法かは分からないけど、どうやらあの子はこちらの様子を見る方法があるのかもしれない。


 (よし、とにかく愛想つかされないようにもっと修行して、俺は強いんだというところを見せないとな。辛くも勝利よりも圧倒的勝利の姿のほうが安心するだろうし、頑張るしかねぇな)



 それからしばらくはウサギを相手に修行する日々が続いた。正直何日経っているのかは分からないけどな。ウサギを纏めて燃やしたときに腕時計は溶解したから朝か夜かも分からん。

 そのウサギとの戦闘は問題なくできたが不思議なことに最初少し手こずったが何日か経つにつれレベルが上がると気にならなくなった。


 この時小太は知らなかったのだがテンション10で挑んだ狼とカメレオンにボコボコにされ戻ったときには4まで下がっていた。

 他にもある理由でユアナのテンションが更に下がってしまったせいでもあるのだが。だから余裕で捌いていたはずのウサギに手強いと感じたのだ。いかに小太がテンションを上げていたとしてもユアナの気分が下がればそれが反映されるのだった。


 (だめだ、もっと強くならねぇと次に進めない)


 それ以降もウサギとの戦闘は正直物足りなく感じてしまうまでレベルを上げたが狼には太刀打ちできるとはまったく思えなかった。

 たまに狼の所に行っては挑んだが結局ボロボロになり逃げ帰るを繰り返した。それでもボロボロになった分経験値となりレベルは上がるのだが、やっぱり痛いのは嫌だし運よくピンチにレベルが上がって全回復! ということも起きなかった。

 むしろ狼を追い詰め、初の討伐と調子に乗ってトドメ刺そうとした刹那に狼の体が輝き、無傷になった狼にボコボコにされたぐらいだ。

 やっぱり敵もレベル上がるのね……。


 それからは修行の内容を変えてみた。見向きもせずに手の届く範囲内に入った敵に反応できるという感覚をもっと強くしようと目を閉じてウサギと戦ってみた。途端にボコボコにされたがめげずにこれを続けていった。多勢に無勢。本来ならこういうダンジョンはパーティーを組んで挑み仲間を助け、又は助けられ進むと同時に絆も深めていくのだろう。そんなことを半泣きになりながら考え孤独感で鬱になりながらも自分の召喚主である女の子に会うためひたすら続けていった。




 そんな修行を続けてたある日、不思議なことが起こる。目を閉じた状態では相手が見えないのはあたりまえ、だが続けていくうちに輪郭が分かるようになってきた。

 こいつは頭突き、こいつは真後ろから右足の蹴りと分かり捌けるようになってきたのだ。それだけではなく、今まで手の届く範囲内でしか分からなかったことが徐々に2メートル先、3メートル先と敵がどこに居てどんな形をしてどんな攻撃を放とうとしているかが頭の中で認識できるようになっていたのだ。

 このおかげで最終的には約5メートル範囲内の敵の存在を目を閉じてても認識できるまでになった。


 だが認識できたけど対応ができないのだ。目を閉じた状態では一気に6体か7体で詰め寄られると認識もおぼろになり捌ききれずにボコボコにされた。

 だがある日また不思議なことが起きる。両手で2体のウサギを捌いてるときに後ろから突っ込んできた。

 両手は塞がってる、甘んじて受けるしかないか、でも痛いの嫌だなと思い頭の中で手で払うイメージを流した。するとどうだろう、迫っていたウサギにイメージの手とウサギの輪郭が触れたとき弾かれるようにウサギが吹っ飛んだのだ。


 「ふぁっ!? 」


 と思い目を開けるとビックリした。まるで自分を包むように半透明な白っぽいオーラがいつのまにか体を纏っており、払ったイメージの部分に目を向けるとなんとなく手の形になった状態で止まっていた。しばらく見てると自分を包むオーラの一部に戻っていった。


 それからは色々実験してみた。非戦闘中は消えてるが戦闘前に気合をいれたら音も無く全身をオーラが身に纏った。

 向かってくるウサギは俺のオーラが見えないのか関係ないと言わんばかりに突っ込んでくる。手を出したい衝動に駆られながらもぐっと我慢して手で払うイメージをすればオーラの一部が手のように伸びて払い、他にもパンチしたり蹴りを放つイメージをすれば狙いたい場所をピンポイントで攻撃してくれた。蹴りといってもムチのように伸びたオーラがなぎ払ったと言う感じだが微妙に自分の足の形に見えないことも無い。


 他にも纏っている時と纏っていない時では攻撃をもらったときのダメージが雲泥の差だった。

 無いときはかなり痛いが纏った状態ではそのオーラが緩衝材になり軽い衝撃、時には攻撃が届かないということもあった。

 さらに移動速度、攻撃力、動体視力が上がりこれはファンタジー小説で読んだ身体を強化する魔法なんじゃないかと結論ずけた。

 実際ウサギと戦わずにオーラを維持したまま多分3時間ほど放置していたら息が上がり、連続スロー後に意識が朦朧としたのと同じ状態になり鼻血が出た。


 「やっぱりMPとかあるんかな? 」


 MPとはマジックポイント、またはマジックパワーとかいってゲームなどで使われる用語だ。このポイントを消費して魔法が使えるようになる。


 それからも研鑽を積み、なんとか2本出して動かせるようになった。3本目になるとどうしてもイメージしきれず2本のオーラも曖昧になりただのオーラに戻ってしまう。他にもどこまで伸ばせるのか、威力はどれぐらいなのか、他にも使い道がないかなど検証してみると色々分かってきた。

 ずっと伸ばしていくと約5メートルあたりで伸ばせなくなった。操れているオーラの手の感覚がそこにたどり着いた途端に形が保てず霧散した。


 「5メートルか、そういえばウサギが近づいてくるのが探知できるのも5メートル以内だったな。探知できる範囲内がイメージできる範囲ってことかね? 」


 疑問に思っても答えは返ってこないのだ、手探りで己の力を探っていくしかないからそういうものだと思うことにした。

 他にも敵を払うイメージと同時に自分の手も一緒に払えば威力が格段に上がった。

 軽くはじく程度だったものがR指定レベルのことになってしまい、至近距離で『見せられないよ』な惨状を見た俺は胃の中の物を大地へリバースするハメになった。

 それを見たウサギも切れたのか怒涛の勢いで襲ってくる。しばらくそんな彼らを極力倒さずに修行をしたため楽ではなかったが、それをよしとしレベルと腕を上げていった。




 そして今俺は剣の柄を握り締め再び狼の部屋の前に佇み中を見る。最初に天井にぶら下っての不意打ちはもう通用しないと思っているのか、中では全部で10匹の狼がうろうろしては此方に目を向けていた。小馬鹿にしたようにニヤニヤした奴、見下した感じで欠伸してる奴、無表情な奴。相変わらず表情が豊かだ。

 壁際ではヲーミングアップなのか頭の剣を岩壁に斬りつけており、まるで達人が刀を振るったかのごとく綺麗な斬撃の後が残っていた。

 それを見て何度か挑んでは斬られたときの痛みを思い出し足が竦む。だが今までの修行を信じて、今日こそはと丹田に力を籠めた。

 

 (目標は殲滅といきたいけどまずはボトルと杖の奪還だな。まずはこいつらを掻き分けて奥の通路に進んで、カメレオンから取り戻して無理せず引き返してからの帰り道で状況によっては、て感じやな)


 「スゥー……、カハァァァァ…… 」


 深く吸い込んだ空気を少し緊張で震える声で吐くと同時に静かにオーラを纏い覚悟を決める。


 「いぐぞゴラァアアアアア!! 」


 ドンッ! と踏み込んだ地面を陥没させ広場に飛び込んだ。さっそく2体の狼が並んで向かってきた、それに対し手を胸の前で交差させ全力で左右に広げる動作をする。

 イメージに両手つきの2本のオーラで左右に弾き飛ばした。「ギャン」と吹き飛ばされた狼のうち1体は頭から生やした刃が根元から折れて転倒、もう一体は空中で体を捻り危なげなく着地する。

 

 (やっぱ強ぇえな、ウサギじゃ爆散したのにこいつら平然としてやがる)


 とにかく今は無視して走るスピードを落とさず走り抜けた。すると新たに両サイドから2体追従して来るがこれも無視。


 ((はや)っ!? )


 一歩一歩踏み出す力で地面に罅を入れながら走る小太の速力は決して遅くはない、身体強化でもはや短距離世界新記録など鼻で笑うレベルであったにもかかわらず目に見えて追いついてくる狼に瞠目する。

 どうやら何体かの狼は向かってこない小太に困惑したのか見ているだけだった。だがもうすぐ通路というところでその前に1体の狼が道を塞いでいた。放ってくるプレッシャーと同時に飛び掛ってくる、と同時に視界が白黒になる。

 数日振りに感じる現象に感謝しつつもスローなはずなのにプロ野球選手の剛速球レベルの速さで迫ってくる狼。


 「速いって!? 」


 向かって右側の鋭い爪で切り裂くつもりなのか振りかざしてきた。咄嗟に振り下ろす力が込められる前にオーラを爪の前に伸ばして置いた(・・・)

 すると振り下ろそうとした手が力点となり突進で勢いづいた体が慣性で目の前に迫ってきた。


 (おお、うまくいった)

  

 てこの原理でならないかと咄嗟に実行したが思ったとおりにいってよかった。


 「ぬん! 」


 迫る無防備な腹にすれ違いざまに渾身の力で剣を振るう。

 ザシュッ! と確かな手応えを感じたが構わず通路に向かった。すると頭の中で、


 『ソードウルフの刃取得シマシター』『ソードウルフ魔石取得シマシター』『ソードウルフ魂取得シマシター』


 と声が流れた。初討伐の嬉しさに思わずこみ上げるものがあったがぐっとこらえ通路に飛び込んだ。


 「ハァ、ハァ、ふうぅ、さぁ第一関門突破だ」


 上がった息をととのえ気合を入れなおしカメレオンを探す。だが探すまでもなく最初に遭遇した場所にヤツは居た。そしてその足元にボトルと杖も落ちたままだった。

 取り戻すと意気込むと同時に静かに集中する。


 (……なんだよ、そういうことだったのか)


 落ち着いて集中すると同時にあることが分かってニヤリと笑う。カメレオンもニヤついた余裕の表情で再び前足を上げ、振り下ろそうとした瞬間俺は天井(・・)に剣を突き刺した。

 上から「グギャッ」という声が聞こえると同時に体が光りレベルが上がった。

 前足を上げたまま固まっているカメレオンを見据えながら剣を抜き、こびり付いた血を払う。

 ズシャッと地面に見えない何かが落ちる音がした。そこを見ると何も無かった場所に頭が割れて絶命したカメレオンが姿を現し光の粒子となり消えた。


 『カラメレオンテの尾っぽを取得シマシター』『カラメレオンテのスキルを……』


 頭の中に声が流れる。何ということはない、こいつらはもともとタッグを組んでいたのだ。1体は姿を見せ敵の注意を引き付け、もう1体は背景に擬態し背後にゆっくり回りこむ。そして攻撃のモーションと同時に姿を消し、あたかも超スピードで背後に回ったかのように見せて攻撃していたのだ。


 (目を瞑ってウサギと修行したのが功をなしたな。てゆうか名前がなんともいえないな)


 カメレオンが搦め手で襲うからカラメ(・・・)レオン()か。

 感想は後にして、固まってるカラメレオンテに向かって一歩を踏み出すと姿を消し、遠ざかっていくのが気配で感じた。

 あの風の魔法で迎撃されたらどうしようか考えてたがどうやら戦意喪失してくれたらしい。他に擬態してるやつが居ないかを警戒しながらボトルと杖を拾う。


 「第二関門も突破だな、あっさりいけたのは嬉しい誤算だった」


 ボトルをポーチに装着し、左手に剣、右手に杖を持ち、再びソードウルフの広場の前に立つ。

 中ではまだリポップしていないのか9体のソードウルフが横一列になって待ち構えていた。

 1体を倒され頭にきているのだろう、どいつもこいつもお怒りのようだ。

絶望的だが今はこの手に杖がある。


 (さぁ最終関門だ、まずはこれで数をできるだけ減らす)


 最初が肝心、それで後々やりやすくなるかどうかだ。意を決して広場に飛び込む。すると4体が飛び掛ってきた。


 (思い通りならいけるはず、南無八幡台菩薩! )


 纏ったオーラを信じ、杖の先をできるだけ体から離し前方に掲げた。


 (まだだ、もっと引き付けて、今! )


 「うぉおおお熱くなれよぉおおお!! 」


 全力全開で力を籠める。杖の先の石が光ったと思った瞬間目の前が炎に包まれた。炎で見えないが飛び掛ってきたソードウルフは襲ってこない。


 「ふおおお、あ! やっぱあっちぃいい!? 」


 ウサギの攻撃をオーラが緩衝材になったことから炎もきっと大丈夫だろうと当たりをつけてはいたが半分正解といったところか。

 完全には防げず熱が伝わってきて、オーラが炎に押されて徐々に小さくなっていく。


 (防御力より攻撃力のほうが強いのかな俺、自分の力でダメージくらうとか……まだまだ修行あるのみだな)


 そんなことを考えながら頭に流れる声にチッと舌打ちする。


 『『『ソードウルフの刃を……』』』


 声が重なって聞こえた。どうやら今ので3~4体しとめたようだ。


 「できれば全滅期待したけどそう甘くないか」


 力を籠めるのをやめたら炎はすぐに消え、軽い酸欠になった。ここの酸素どうなってんだ? と頭の片隅に思いながら広場を見渡した。

 どうやら3体倒したようで残りは6体、その内2体が全身火傷で横たわり虫の息のようだ。4体は大分離れた場所に避難してこちらを警戒している。

 いくら苦しめられた敵とはいえ身じろぎもできないほど弱った姿を見たら心が痛む。「ごめんな」と言いもう苦しませぬよう2体に止めを刺した。

 それが終わるころにはもう四方を取り囲まれ包囲されていた。咄嗟に前方に剣、右に杖、後ろと左にはイメージの腕を創り構える。


 (さぁ、ここからは出たとこ勝負だぜ。くそ、5メートル以上距離あるか、イメージ届かねぇ)


 四方から来るプレシャーに今にも押しつぶされそうだ。緊張で息がしづらい上に膝が今にも笑いだしそうだ。

 異常に汗をかきながら突破口を模索する。ウルフどもは連係をとり時計回りでジリジリ移動してこちらの隙を伺っていた。それにあわせて俺もゆっくり回る。


 (こっちからし掛けるか、時間経ったらリポップするだろうし、なんかこいつらもそれ待ちしてそうだし)


 とにかく居つかず動き回って活路を開こうと重心をぶれさせず、スライドするような歩法でできるだけ素早く杖を構えてたウルフへ迫った。

 高校生レベルではあるが、空手の歩法を使ったおかげか、近づいたのに一瞬気づかなかったウルフは俺の接近を許してしまった。

 5メートル内に入った瞬間オーラで目潰し、突然目に痛みがはしったのか悶えるその隙に剣を左から右へと払うように顔に斬りつけた。

 しかし勘なのか後ろへ飛び退ったせいで片目を斬るに済んでしまった。


 「チィっ」


 これで状況が動いた。後ろから三つのプレッシャーが近づくのを感じ、剣を振った慣性で振り向くと同時に回転、杖に力を込める。


 「ふんぬあ! 」


 噴出した炎を出したまま回転を止めずになぎ払う、だが2体まで巻き込んだのを認めた時残りの1体が纏ったオーラなど無いかの如く右腕に噛み付いた。


 「つうぅ! 」


 ウルフも必死の形相で噛み付き「杖離せやぁあああ! 」と言わんばかりにメチャクチャ腕を振り回してくる。

 そのせいで頭から突き出た刃が顔や体に当たり浅くない傷が増えていく。どこか動脈斬れたのか大量に血が流れ出した。


 「くああああ! 」


 杖を取り落とし強引に噛み付いたままの腕でウルフを持ち上げ腹に剣を突き殺す。噛み付く力が緩み口から離すと粒子になり消えた。

 このままじゃ自分も死ぬと剣を離しボトルから急いで水を飲む、すると体中にあった傷がみるみる治っていく。

 ほっとしたのも束の間全身火傷したウルフ1体が覆いかぶさってきた。マウントポジションをとられた状態で噛み付き、爪の引っ掻きとまた新たに浅くない傷が増えていく。なんとか上体を上げ首に両腕を回し全力で首を絞めていく。徐々にウルフの力が弱まりこのまま絞め殺せるといったところで後ろから1体近づく気配がした。片目を斬りつけたやつだろう頭の刃を向けて突進してくる。


 世界がスローになる、だがウルフを絞めてるせいで身動きがとれない。腕の中からゴキリという音が聞こえるがもう間に合わない。背中にはもう数センチまで近づいていた。そして……


 ドスッ


 背中から腹に貫通する刃、明らかに致命傷、俺はにやりと口を歪ませ言葉を吐いた。


 「へへ……うまくいった」


 驚愕の顔で口から血を吐くウルフ、その腹には取り落としていたはずの剣が背中から貫かれていた。


 「オーラをイメージで殴ったり、蹴ったり、払ったりできるなら、掴む(・・)こともできるよなぁ? 」


 わずかにウルフの刃が届いてない小太の背中から、ウルフの背中へと回り込んだ2本のオーラはしっかりと柄を握りウルフを刺していた。


 「2つでやっと掴めて振り回せるとこまで出来るようになったんだ、それまで挑まないつもりだった」


 ゴクゴクと水を飲みながら消え始めるウルフを見る。説明を受けて納得したのか固まっていたウルフも納得顔で消えていく。


 「わりぃな」


 腕に噛みついたウルフに止めを刺した時点で残り2体だったのは頭に流れた声で分かっていた。すぐに水飲んで剣を拾い、仕切りなおそうと思っていたが覆いかぶされた為あまり自信がなかったこの方法しかないと思ったのだ。


 残心していると所々で魔方陣が光だしリポップの前兆が見えた。素早く剣と杖を回収し、ウサギ側の通路に飛び込み振り返る。1体、また1体とウルフが出現しはじめ、最終的にまた新たな10体がこちらを見てうろついていた。さっきまで激戦を繰り広げやっとの思いで勝利を収めた。しかしこうも何事も無かったの如く目の前でウルフが闊歩されると嬉しかった気分が一気に萎える。


 「俺……外出られるんかな? 」


 分からない、向かい側の通路の先にはどれだけこの道が続くのか想像もできない。だがレベルを上げ、一歩一歩進めばいつかは出られると信じて戦うしかない。


 「圧倒的勝利とは言えなかったけど、君が見てる前提で言わせてくれ、必ずここから出て見せる。だから泣かないで待っててほしい」


 ふんっ! と自分に渇をいれ、あらん限りの声で叫んだ。


 「この盾地小太、やってやるぜぇえええ! 」


 ウルフの広場に背を向け、杖も取り返したしモモ肉を焼いて食おうと思いながら泉に向かっていった。





 



 ジャラン ジャリン


 「グルルルルゥウウウウウウウウ……」


 ダンジョンの奥の奥深く。最終地点の仄かに蒼く光る広大な部屋から、この世の者とは思えない重低音の唸り声が響き渡る。

 その身は無数の鎖に繋がれ身動きが取れない状態になっていた。その鎖は部屋の至る所に伸び壁に縫い付けられ、最終的に天井の一か所へと延びていた。

 そこはこの部屋の唯一の光点であり、その光の中に一匹の竜が居た。その体は蒼く輝き遠目には月夜の輝きのように見えただろう。

 だがその体は傷だらけで無残な状態であり、その瞳は閉じられている。死んでいるように見えるが微かに息をしていることから生きてはいるようだ。


 そう、彼こそが300年前、邪竜アルフェルドを封印したサザンフォートの王であり勇者だった。

 そして勇者よりも何倍もの大きさをした一匹の竜。


 邪竜アルフェルド


 「まだ来ぬか……早く来い、必ず取り込んでやる(・・・・・・・)


 牙をむき出し呟いた竜は久方ぶりの挑戦者を今か今かと待ち望んでいた。


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