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まだまだ甘い

 



 ズルズル……ズルズル……


 あれから数十分と経たずにこのざまだ。そう、テンションあげてウサギを軽くあしらいながら次の道に進んだときだ。おっとどうして血まみれになって地面を這ってるかって? それはダンジョンと自分のアホさのせいなのさ。

 いやぁ敵を前にしたときはウサギ先輩の教え通りにどんなヤツでも気を引き締めてかかろうって気構えはあったんだが、レベル上がったせいか実力も上がった実感もあったしね。実際ウサギ払いながら次の通路に向かうときに気づいたんだけど、迫ってくるウサギを見なくても手が届く範囲内に入ってきたら分かるようになってたしね。これが制空圏かと、目で確認しなくても後ろから迫る攻撃を避けれたときは少年漫画の主人公になった気分で全能感に支配されていた。これでこれからの敵も乗り越えてみせる。大丈夫!待っててくれ黒髪の女の子。


 そんな感じで進むと次の道も学校の廊下ほどの広さが数十メートル続いてて、また体育館ほどの広さの部屋に出た。


 このときの俺は気分が高揚してはいたけど舐めてかかってはいなかったはずだ。でもどこかである先入観があったのかな、調子に乗ってかなり痛い目を見ることになる。親父に、おまえはすぐ調子に乗るって言われてたし。まぁウサギの次の敵はこんなヤツだった。


 体長は1メートルほどで毛色はこげ茶色した狼。だが頭からはえた片刃の刃が1メートルあり波紋も刀みたいで名刀のごとく異様な輝きだった。


 他の人がどう思うか分からないが、自分はゲームのようにダンジョンの敵は次に進むと徐々に強くなっていく、けど後れを取る程ではないという先入観があったのだろう。だからそんな頭から日本刀はやした狼が襲ってくるわけだが対処しきれるはずと思っていた。だが強さが桁外れであった。

 ウサギ以上に速く、強く、そして狡猾だった。通路から見た感じ、部屋の中央あたりに一体だけ居た。ウサギみたいに倒せばまた大量に出てくるのかなとここでも前と一緒だという先入観に囚われていた。右手に剣、左手に杖を構え近づくと向かってくるどころか少し怯えた感じに尾っぽを後ろ足の間に挟みながら後ずさりしていく。

 その姿にほくそ笑んだ自分に気づかず近づいていった。でもさすがに一体ではないだろうと警戒しながら左右、後ろを確認したが見当たらない。やはりウサギの時と一緒かと判断し狼に向き直った。

 さすがに相手は獣とはいえ無駄な殺生はしたくない俺は次に進もうかなとふと思ってしまい、ジリジリと後ずさりするのを追っていたら次に進むだろう道が見えてきたのだ。

 目の前の狼は怯えている。つまりこいつは本能で俺には勝てないと悟っているのだと、だからもう警戒をといて次に行こう。そう思った瞬間彼らは動き出した。何のことはない目の前の狼はただ怯えた演技をしていたこと。左右後ろではなく数匹の狼が四足に生えた鋭い爪で天井に張り付いて息を潜めていたこと。そして自分はまんまと入り口の反対側まで誘き出されていたのだ。


 背後から聞こえてくる ズシャッ ズシャッ という何かが着地する音と共に部屋全体がピリピリとした殺気に支配された。振り返り絶望する俺。と、同時に怯えてたと思った後ろの狼から発せられるプレッシャーと自動的に発動するスローな白黒の世界。


 (あかんっ)


 反射的に身を捻ったが背中を斬りつけられた。頭から伸びる刃でやられたのだろう背中が急に燃えるような痛みがはしる。とにかく退避だと近くの通路に飛び込んだ。頭からスライディングするように無様に転がり額を擦りむくが気にせずすぐに上体を起こし警戒する。

 広間と通路を挟むようにうっすらと魔方陣の外側に居ること。そしてこちらを睨み付ける狼達。どうやらウサギの時と同じで魔方陣の範囲からは出れないようだ。それでホッとした、してしまった。そう、この細い通路には敵は居ないのだから。


 目の前でちょっと悔しそうにこちらを見る狼を見返してはたと気づく。


 (あれ?こいつら白黒だったっけ……っ!)


 不意に背後から殺気を感じて振り返る、と同時にその場に居てはいけないと本能が座ったままの上体を寝そべるように倒した。


 「痛ったぁっ」

 

 突然左腕に痛みがはしり思わず持っていた杖を取り落とす。腕には爪で引っ掻かれたような傷ができていた。慌てて立ち上がり状況を確認するが回りには何も居なかった。が、よく探すと遠くに何かが居た。


「カメレオン? 」


 よく目を凝らすとクリクリした目が特徴的で緑色したカメレオンのような生き物がこちらを見ていた。遠目だが大きさは30センチほどか、10メートルは離れている為どんな攻撃をされたか分からない。


 (魔法か? )


 混乱した頭でその思考に行きついたとき右前足をゆっくり持ち上げこちらに振り下ろす動作と同時にその姿が掻き消えた。すると突然背中に痛みが走り前につんのめる。驚いて振り向くとすぐ足元にカメレオンがいて驚愕する。驚くのも束の間、消えると同時に左目に痛みが走る。


 「ぐぁあ」


 潰れたかもしれないと思うと同時に失明するのではという恐怖で思わず右手に持った剣を我武者羅に振り回し、右目だけで探すと最初にいた場所に距離をとられていた。

 速い、速過ぎる。明らかにウサギよりスピードが上だ。とにかく回復と、慌てて腰に提げたボトルを手に取りプルタブを上げようとした。だが痛みと焦り、そして手にベッタリとついた血で滑りうまくいかない。


 (おちつけ、おちつけおちつけおちつけ! )


 だが焦る気持ちをあざ笑うかのように突然持っていたボトルが手からはじき飛ばされた。いつの間にか細い通路の壁に張り付いたカメレオンがこちらに向かって長い舌を伸ばしていた。どうやら舌でボトルをはじき飛ばしたのだろう。


 「くっそ」


 咄嗟に剣で斬りつけるが片目で狙いが定まらず見当違いの所に振ってしまい、その隙に跳びかかられ脇腹をすれ違いざまに斬りつけられる。

 痛みをこらえなんとか剣を振るがもう近くには居らずまた最初の場所に距離をとられた。


 防戦一方で瞬く間に血塗れになってしまい、せめて回復したいと思いボトルを探すと距離的に自分よりも最初に居た場所のカメレオンの近くに杖と一緒に落ちていた。


 (取りに行くか? いや無理だ、どう考えてもたどり着く前に攻撃されてしまう。それとも……)


 撤退するかと思うがすぐ後ろには頭に刀はやした狼がいる。前門のカメレオン後門の狼。迷ってる場合じゃないのは分かっているが、早く水を飲まなきゃ目が治らないんじゃないかという恐怖があった。混乱した頭で迷っているとまた視界が白黒になる。スローになったカメレオンが口をパカァと開き尻尾を天井に向けピンと立てた瞬間、今までにないプレッシャーを感じた。もはや慣れた感覚に今までのことが頭の中を走る。最初の不意打ち以外は起きなかったのに今はこのスローが発動した。これが起きる条件がなんとなく分かってきた。これは致命傷レベルの攻撃が来る時に起こる現象、そしてこの時何も対処しなければ確実に死に繋がる。


 この瞬間ボトルと杖のことを一時頭から追い出し、後ろを向き脱兎のごとく走り出した。広間の中では狼が2体手前に居たが構わず中に入る。

 戻ってきたかと飛び掛ってきたが後ろから襲うプレッシャーが急に大きくなった感じがして咄嗟に地面に伏せて頭を抱えた。


 抱えた直後に頭上を強烈な風が吹き荒れた。見えないが前方から悲鳴となにか潰れた音がしたが、風はすぐに収まり恐る恐る顔を上げる。すると目の前にはズタボロになった狼が2体倒れておりピクリともしない。呆然と見てると光になりその場から消え何もなくなった。


 やはり魔法の攻撃だったかと、あのまま棒立ちだったらどうなっていたかと考えてしまい情けなくもちょっとチビッテシマッタ。

 とにかく泉まで戻ると決意し震える足に渇を入れ立ち上がる。幸い今の魔法で他の狼たちは少し離れて警戒している。


 走り出そうとすると後ろから、


 「シャッシャッシャー」


 と鳴き声が聞こえ、振り返ると嘲る様に笑いながらボトルをペロペロ舐めていた。それを見て頭にきたがグッとこらえ、


 「お、覚えとれよーー! 」


 と、素ではまず言わないだろう捨て台詞を吐き走り出した。



 だが広間の中を走り抜けるもまだ狼は約10体おり、危険はもうないと思ったのか突進してきては頭の刀で斬りつけてきたり爪で攻撃してくる。

 無我夢中で避け、時には剣で牽制、立て続けに起こるスローに救われながら少しづつもと来た道に近づいていく。

 やはりスローは魔力を消費するのか、何度も発動するせいで徐々に体が重くなり頭痛がしてきて両鼻からいつの間にか血を流していた。

 朦朧としてきたが何とか狼の広間も抜け出し、敵の居ない通路に辿り着けた。ホッとして全身の力を抜きその場に倒れ伏し、ぜぇぜぇと荒くなった息を整える。


「ハァ ハァ ハァ ハァ……ハァ、ぅ、ぅああ……」


 舐めたつもりはなかったが結局敵の罠にはまり、逃げ出した通路ではここには敵はいないという先入観で気を抜き不意を突かれた。

 しょうがないだろう、泉、通路、ウサギ、通路、狼と来てた中で通路には今まで出現しなかったのだから。それがここに来て現れた。それでこのとおりボロボロにされ、挙句の果て杖とボトルを落としてしまった。ここまで戻ってこれたのはひとえに危機が迫ればスローになる力のおかげだろう。

 情けねぇ、何だこのザマは。恐怖のあまりちょっと漏らした上に声まで出して泣くとは。


 「泣いてねぇし! 」


 大の男が無様に泣くなどプライドが許さず強引に涙をぬぐう。


 「痛って」


 潰れた左目に当たって自分にダメージをあたえて悶絶する。治らなかったらどうしよう、とにかく一刻も早く泉に向かおうと体を引きずっていく。

 そういえば何か忘れてるなとふと頭を上げると、目の前に広がる光景にとうとう涙を流した。


 「あー、こいつらがいたんだった」


 ニヤニヤした顔で此方を見るウサギを見てどうしようか考えたが何も思い浮かばず、朦朧とした頭と体の疲れがピークに達したのか動くのが億劫になり、とうとう意識を手放した。


 この時小太はこの世界に呼び出したであろう黒髪の女の子を初めて少しだけ恨んだ。

半年以上開いてしまい申し訳ないです。一応生存報告と言い訳は活動報告に書いてます。

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