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ウサギと少女と使い魔と

無駄に長くなってしまった。

 小太は今血反吐を吐きながら壁に体を引き摺りつつ泉に向かっていた。


 「ゴフッ! ハァハァ、胃に肋骨ざざっだなごれ」


 気を抜いていたとはいえあんなに強いとは思わなかった。なんとか泉にたどり着き、咳き込みながらなんとか胃に水を流し込む。

 

 「ガフッ! ぐぅぅ、ごくっ、ぐはぁ、ハァハァハァはぁ~よかった、治った」


 体が淡く光ったと思うと呼吸がしやすくなり治ったんだと分かった。この不思議と回復する泉がなければ俺は詰んでたんだなと思うとゾッとした。


 なぜこんな状態になったかというと目が覚めてからのことである。



 


 「クシュン!ずず……ん? 」


 小太はくしゃみで目を覚まし上体を起こす。


 「……なんで俺素っ裸なんだ? 」


 寝ぼけた頭で昨日のことを思い出す。トラックに撥ねられ意識を失った後目が覚めたら洞窟の中に居たこと。目の前にいたゴブリン達と死闘を繰り広げなんとか生き抜きここにたどり着いたこと。泉でジャージを洗い寝たこと。


 「夢じゃなかったか、はぁ、ダルイ」


 そのへんの岩に干してた生乾きの下着とジャージを着る。あんまり眠れてないのかひどく体が重たく感じた。腹がへってたが食い物なんて持っていなかったので泉の水を飲んだら腹は満たされた。耳とか食いたくないし。


 「ハァ、米食いてぇ……腹は一杯になったけど体はなんかダルイままだな。泉の力なら風邪とかも治りそうな気もするんだが違うのか? 」


 泉の前で座りボーっとする。


 (夢のせいか? 女の子がなんか手に握り締めて泣いてたんだよなぁ、あんな可愛らしい子誰が泣かしたんだよぶちのめしてやりてぇわ)


 鬱になっててもしょうがないと思い立ち上がる。


 「とりあえず出口探すか、ここが異世界なら元の世界に帰れる方法とか探さなきゃだし、そのためにもまずここ出なきゃだな」


 周りを見渡すと入ってきた場所と反対側にもう一つ横穴があるのを見つけ歩き出す。


 (夢の子に会ってみたいってのもあるなぁ、かわいかったし……空手始めたのも誰かを守るためにやりだしたんだし、守るならあんな子がいいよなぁ……お袋の願いでもあるし)


 小太は父子家庭である。小学低学年の時にあることが起き母を目の前で亡くしたのだ。その時言われたのが誰かを守れるようになりなさいだったのである。そう一人で物思いに耽りながら学校の廊下ほどの広さはあるだろう洞窟を進んでいった。


 「なんだあれ」


 しばらく進んでいくと道の真ん中に木でできた立て札が刺さっていた。分かれ道などで進行方向に向かって板が付いており町の名前などが書いているあの札だ。そこには見たことも無い文字だがなぜか読める字でこう書いてあった。


 ←ゴブリンの巣  ダンジョン最深部へ→

        ↓

       出 口


 「やった出口! 今来た方向がゴブリン居た場所だからこっち……に?」


 出口の方を見るが道など無かった。しかしよく見ると今までの通路には魔方陣のような模様があったのにその部分は何も無く岩でふさがれていたのだ。


 「崩落ぅー! ちょ、マジでシャレにならん! 誰かー、誰かいませんかー?  埋まっちゃって出られないんですけどー! 」


 聞こえないとどこかで思っていても叫ばずにはおられなかった。それから十数分ほど叫んだが虚しく小太の声が響くだけだった。


 「出してくれぇ……」


 すでに泣きが入っていたがこうしてもいられないと思い立て札を見る。


     ダンジョン最深部→


 ここは洞窟じゃなくダンジョンだったのか、ゲームならワクワクするだろうがリアルだとごめんこうむりたい。進むしかないのかとダンジョン最深部への道へ警戒しながら進んでいく。


 「罠とかありそうで怖いな、てゆうか最深部行ったとして出口あるのか? 」


 手足は小刻みに震えて呼吸も荒くなり、暑くもないのに汗が流れる。

なぜか重い体を前に進め、回りを警戒する。たまに後ろを振り向き罠が発動しないかビクビクする。頭の中では鞭を持った考古学者が鉄球に追われてるシーンが流れていた。



 そう進んでいるとまた広い空間のある場所に出てきた。ゴブリンがいた所と同じぐらいの広さだろうか。違うのは誰もいないということだが。部屋の中心あたりまで来たときに何かがあるのに気づく。


 「なんだあれ」


 ゆっくり近づいていくとだんだん分かってくる。


 「ちょっ……おいおいマジかよ」


 死体だった。それも2体で一人はボコボコに凹んだ革鎧の軽戦士っぽい人。もう一人は魔法使いなのかローブのような物を纏っており、近くに先端に赤い宝石が埋められた杖らしき物が落ちている。死んでどれだけ年月が経ったのか二人とも白骨化していた。


 それを見てショックのあまり放心していると視界の端に動くものが見えビクリと顔を向ける。そこには、

 

 一羽のウサギがいた。


 普通のウサギより一回りほど大きいだろうか、毛色は黄色っぽく黒い斑点模様だが長い耳からぱっと見ウサギに見える。つぶらな瞳でこちらを見ている姿が愛らしく、図体に似合わずかわいいもの好きな小太は状況も忘れて近づいていった。


 「うわーカワイイなぁ、なでなでしてぇ」


 ウサギまであと数メートルといった所まで近づいたとき突然その姿が掻き消えた。


 「へ? ブフォオ! 」


 消えたと思ったら次の瞬間右胸に強い衝撃を感じ肺の中の空気を強制的に排出される。体がくの字に曲がり自動的に自分の体が視界に入る。そこには一瞬前まで数メートル先にいたはずのウサギの後頭部が見えた。


 メキメキ、ボキ!


 嫌な音と共に喉から熱いものがこみ上げ口から吐き出された。赤い鮮血を他人事のように眺めながらかなりの威力で後方に飛ばされゴロゴロと転げた後ようやく止まる。


 「ぐふっ! ぉ、ぉぁあ、がはっごほっ」(痛ぇ、何がおきた? 何だこれ、こんな血の量見たこと無いぞ)


 なんとか上体を起こしぼやける視界でウサギを探す。するとさっきまで自分がいた場所に立っていた。人間ぽい動作で首を回しコキコキ鳴らしてトントンと上下に軽く飛び跳ねている。まるでこれから激しく動くためにウォーミングアップしているように見えた。その隣には二つの死体が見え、フと思い出す。


 (軽戦士っぽい人の鎧ボコボコじゃなかったか? こいつなのか! )


 把握した時ウサギからプレッシャーのようなものが発せられてきた。殺気というやつかと思った瞬間また視界から掻き消えた。


 やられると思ったその瞬間世界がスローになり視界が白黒になる。


 自分の右側からプレッシャーが迫るのを感じ目だけそちらに向けると小太の頭を蹴ろうとする足があと数十センチまで来ていた。咄嗟に寝転ぶように避けるとものすごいスピードでウサギが頭上を飛んでいく。離れた所で着地しズザザザっと数メートル地面を滑ってようやく止まった。飛距離と地面を滑らせた跡を見て恐怖を覚える。


 (あんな威力の蹴り食らってたら首折れるどころじゃねぇ、頭爆散してるわ!  て感心してる場合じゃねぇ、逃げなきゃ)


 着地した後ろ姿で何故か止まってるウサギを尻目に痛む胸を押さえ泉への道へ逃げ出す。恐怖と痛みのあまり千鳥足になりながらも必死で出口に向かう。いつ後ろから頭しばかれるか気が気じゃなかった為生きた心地がしなかった。


 (避けられたショックで固まってるのか? 頼む、間に合え)


 なんとか何事もなく部屋から通路へ来たが足が縺れ転んでしまった。ヤバイ! と痛みを堪えながらも後ろを振り向くとすぐ後ろにウサギがいた。ビクッと恐怖で体を強張らせたがどうもこちらに近づいてこない。ウサギの足元をよく見ると地面と同化してよく見えなかったが、広間と通路の境目に魔方陣があった。ゴブリンと同じようにこれ以上進めないのかと悟る。助かったと思いウサギを見ると顎を上げ静かに小太を見下していた。そしてその目は、


 (逃げ切ったんじゃない、逃がしてやったんだ)


 と語っているように小太は見えた。しばらく見詰め合っているとウサギがフンッと鼻を鳴らし部屋の奥へと去っていった。


 (あ、あいつ鼻で笑いやがった! )


 小太は笑われた悔しさより表情豊かな所にむしろ関心していた。


 (感心してる場合じゃねぇ、水飲まねぇと)


 なんとか立ち上がり、壁に体を引き摺りつつ泉に向かっていた。




 そして冒頭に戻る。




なんとか水を飲み回復はしたが相変わらず体は重いままだった。さらにウサギに殺されかけたショックで体が震え心まで重く折れそうになる。恐怖までは治せないようだ。


 「自分の身も守れないのに誰を守るんだよ……」


 ウサギと隣にあった遺体が頭に思い浮かぶ、そこに新たな自分の死体が並ぶのを幻視してしまい慌てて頭をふる。


 「駄目だ! プラス思考だ! そうだよ、俺最初はあいつの可愛さに完全に気緩めてたじゃねぇか」


 最初から気を引き締めて一個の敵に相対したつもりで挑めば、あの掻き消えるように見える動きも少しはついていけるのではないだろうか。この世界は敵を倒すとレベルが上がるんだ。レベルさえ上がればウサギでもいずれは軽く倒せるんじゃないだろうか。


 それに二撃目は避けれたじゃないか。


 「なんでボロボロになってる時の二撃目は避けれたんだ? 」


 あの時何故か世界が白黒になりスローになった気がした。蹴られる瞬間を目視で確認できたのだ。それにあの感覚は最近何度も経験したんじゃないか?


 1回目はトラックから親子を助けるとき。


 2回目はゴブリンが飛び掛ってきたとき。


 「んで3回目はさっきのか、でもあれって人間やばくなった時におきるやつじゃないのか? アドレナリンが大量に流れ出す的な」


 (異世界転移物の物語は何かしらチート能力が付属されてたから、そういうのだったらいいなと思うが)


 「あまり頼りにしない方がよさそうだな、やばくなったら自然に発動する……かもしれないと思っておこう。ここは今まで空手で鍛えた心と技と体を駆使して挑もう。気合だ気合! 」


 技と言っても基礎ぐらいしか知らないが。とにかく序盤でこのざまでは先が思いやられる。震える手を握り締め、すぅううっと空気を吸い


 「かーーーーーーーーーーーーーつっ!!(喝)」


泉の部屋中に声が響き渡りビリビリと空気が震える。同時に今の振動で洞窟が崩落しないだろうなとはたと思ったが後の祭りだ。ウサギとは違う恐怖に襲われたがダンジョンは戦う場所だし大丈夫だろうと思うことにした。気合十分、少し体が軽くなったと思うし挑みに行こうと思ったとき、そういえばボトルポーチを持っていたのを思い出す。ボトルに水を入れながら(思い出すの遅ぇーよ)と苦笑いしつつ腰に身につけ再び進んでいった。


 


 ……さて、もう数メートルもすればウサギ部屋があるというところで静かに気合を入れなおす。遠目にはさっきの一羽がこちらを見ている。どこかつまらなそうに見えるのは気のせいだろうか。だがこちらがマジな顔で見つめているとかすかに目を開いた後体を正面に向けた。


 (な、なんだこいつ、礼の作法じゃないよな? できれば舐められたままのほうがよかったんだが)


 ウサギは微動だにせず2足で立ち上がった自然体で前足をだらんと下げている。つぶらな瞳だがもはや恐ろしく感じる。小太も覚悟を決め広場に足を踏み入れるがすぐには襲ってこなかった。あと5メートルといった所で止まり試しに目を逸らさずに軽く頭を下げる。すると驚くことにウサギもわずかに頭を下げたのだ。それを見て小太は驚くと同時に畏敬の念と好感を覚えた。ウサギから見たら小太がいきなり襲ってきたようなものだと思うと途端に恥ずかしくなってしまった。魔物にもこんなやつがいるんだと、礼儀をもって接すれば見逃してくれるんじゃないかと思ったが途端にウサギが殺気を放ち始める。


 やっぱり駄目かと諦め小太は空手の受けの構えを取る。空手に先手なしとは言うが攻撃してもあのスピードについて行けるか自信がなかったというのもある。ウサギの攻撃は頭突きか跳び蹴りしか見てないがこの2パターンでありどちらも空中に飛ぶことになる。一撃を防げば空中に滞空しているときに攻撃すればいいと思った。


 しばらく睨み合っているとウサギが動いた。集中していた為目で追えたがそれでも5メートルの距離を一瞬で詰めて来た。とっさに手をクロスにして防ぎ頭突きに耐える。ミシミシと腕が鳴るがなんとか耐え、空中にいるウサギに前蹴りを放つ。だが両足の裏で受け止め蹴りの勢いを利用し後ろへ大きく距離をとられた。腕がジンジン痺れる。今のでダメージ与えておきたかったんだがなと残念に思う。受けてばかりじゃいられないと走り出した時、


 『レベルガアガリマシター』


 と頭に流れた。どういうことだ?敵倒してないのにレベルが上がった。不思議に思ったがそれどころじゃなくウサギが突進してくる。目の前まで来たと思ったら右に跳ねた。視界から消え、あわてて右を見ると左足が頭を蹴ろうと迫っていた。なんとか右腕だけで防ぐのに間に合い、ドンッという衝撃と踏ん張ろうとした小太の左足元が軽く陥没した。今のを耐えたのがさすがに驚いたのかウサギもわずかに目を見開く。千載一遇のチャンス、滞空した上にその無防備になった隙を左手で攻撃。

 

 「御免! 」


 ズッ! と正拳突きではなく貫手突きがウサギの腹を貫いた。ウサギは少し苦しんだ後どこか穏やかな目でこちらを見つめ瞳を閉じた。ウサギは光の粒子となって消え、後にはドロップ品が落ち体の中に入ってきた。


 「勝った、勝てた! 」


 『レベルガアガリマシター』『スキルヲ覚エレマスー』『モモ肉取得シマシター』『チーターラビット(ボス)魔石取得シマシター』『チーターラビット(ボス)魂取得シマシター』


 両腕で防ぐのが精一杯だった。だがレベルが上がった途端に片手で軽く防げた。随分あっけなかったと思う。侮りさえしなければ最初からいい戦いができたのではないだろうか。小太はどんな相手でも気を抜くなとウサギに教えられたんじゃないかと感謝の念を込め黙祷する。


 しかし不思議に思う。倒してもいないのにレベルが上がったのだ。ゲームのように敵を倒した後に経験値が入り上がると思っていたがどうも違うようだ。実戦に勝る修行は無い。戦っている間にも経験値が入りレベルが上がるのかどうか分からないが、自分にとって理になるのは間違いないと思った。死にさえせず防ぎ続ければレベルが上がり、いずれ敵を倒せるということだ。


 「いやいや待て、それだと敵も攻撃し続けるんだから敵もレベル上がっちゃうんじゃないか? 」


 ステータスを開けない以上は全て予想。簡単にはいかないのだろうと思うことにする。油断は死を招くとウサギ、いやチーターラビットに教えられたばかりだ。


 「名前チーターラビットだったのか。チーターみたいな俊足もったウサギだからか? ていうかこの世界チーター居るってことなんだろうか」


 なんとも安直な名前だと思った。念のため水を一口飲んだ後に次に進もうと道を探すため振り向くと、



 ウサギがいた。もうウサギって呼ぶ。しかも大量にいた。ざっと30羽はいるだろうか、それぞれの足元に穴がありそこから出てきたんだろう。ボスを倒されたせいか沢山のつぶらな瞳がこちらを無感情に見ている。


 「うそやん」


 と呟いた瞬間全員が怒涛の勢いで四方八方から頭突き、跳び蹴り、さらに噛み付きと襲ってきた。ボスより格下なのかレベルが上がったせいなのか一羽一羽の動きは遅く攻撃も重くない。だが多勢に無勢、防御し受け流しと繰り返すが、たまに攻撃をもらってしまう。我武者羅に拳と蹴りを放っていくが少しずつ押されていく。傷つきながらも少しずつ倒す。レベルが上がっては回復し、また戦う。だが倒しても視界の端で魔方陣が輝きリポップが起きる。まさにエンドレスの状態だ。


 (レベル上がってもこのままじゃ精神的に持たない)


 そう思った小太は「おおおおお! 」と気合と共に両腕をフルスイングした。纏わりついていたウサギを剥がし一端退却と泉のほうへ体を向ける。


 だがさらに予想外のことが起きた。


 そこには少女が立っていた。


 (っ!! )


 もはや声に出ない。黒髪ロングで赤と黒のオッドアイがこちらを不思議そうに見ていた。小太と目線が合い見詰め合う。頭が混乱し戦闘中にもかかわらずほおけて見ていると少女の口が動いた。


 『……つかいま? 』


 そう呟いた。


 (へ?使い魔?何を……!! )


その瞬間世界がスローになり視界が白黒になる。少女の真後ろで突進してくる一羽が見えた。


 「あぶねぇ! 」


 守らなきゃと体が勝手に動いた。少女を抱きしめ体を入れ替える。すると衝撃が背中に走り呼吸が詰まり地面に倒れ伏す。いつの間にか少女は消え訳が分からない状況に頭がおかしくなりそうになる。その隙にウサギが大量に群がってきた。手や足に噛り付き身動きが取れにくくなる。横腹や頭を蹴られ視界が歪む。


 (今の何? ていうかやばい、ヤバイヤバイ! )


 まさに蟻の大群に群がられた1個の昆虫の状態だ。なんとか地面を這って移動するがたいして進まない。頭に死という文字が浮かんだ。チクショウと思いながら少しずつでも這っていく。すると右手が何かを掴んだ。目を向けると死んだ魔法使いが使っていたであろう杖を握り締めていた。これでも鈍器になるだろうとフルスイングしようと力を込める。


 「おああああああ! 」

 

 すると杖の先端に埋め込まれた赤い宝石が輝きそれを中心に炎が円を描くように燃え広がった。そう、ウサギどころか自分も巻き込んで部屋中が炎に包まれたのだ。


 「「「キュゥウウウウ! 」」」


 「熱っつぁぁああああ! 」


 あまりの熱さにとっさに体をできるだけ縮ませ耐える。すぐに火は消えたがジャージに引火していたので転げ周り消火する。手足の袖の部分が燃え消えてしまっていた。顔は大丈夫だが手足の火傷が酷く痛みすら感じなかったが。


 『『『レベルガアガリマシター』』』


 と、頭の中に幾重にも重なった声と共に傷が治っていった。

周りを見るとあれで一気に倒したのか一羽も見当たらない。その代わり大量のドロップ品で埋め尽くされていた。助かったことにホッと息をつき杖を見ると宝石部分にまだチロチロと火が出ていた。


 「すげぇ、これがあれば大分楽に進めるんじゃないか? 」


 力を込めると火が出るんだろうということはなんとなく分かったが使うたびに自滅するんじゃないかと思うと使いこなす自信が無かった。元の持ち主を見ると今の炎のせいかローブは完全に消えていた。軽鎧の人も鎧の鉄部分を残してほとんど燃え消えている。後は刃渡り1メートル程の両刃の剣と宝石が埋められたネックレスと腕輪などのアクセサリーが無事といったところだった。


 「これから先は拳だけじゃきついだろうな」


 ゴブリンの武器は倒すと一緒に消えた為持って行けなかったのだ。

使えそうな剣と杖を貰う。ゴブリンからドロップした耳を念じれば体に消えたように剣と杖も体に消えるように念じればちゃんと消えた。


 「これアイテムボックス的なやつなのかな? 小説でもあったし」


 試しに消えた剣を思い浮かべながら「剣」と言えば目の前に出現した。

やっぱりそういう物だと取り合えず納得し二人を埋葬することにした。

よく見ると二人の腕輪はまったく一緒であった。片方は宝石が割れ、もう片方はひび割れている。恋人だったのか夫婦だったのかは分からないがペアルックなのだろうと勝手に思う。ウサギ部屋の前の通路に穴を掘り鉄部分やアクセサリー、そして腕輪をそれぞれの腕にはめ手を繋いだ状態で埋葬した。


 (男同士だったらどうしよう……でもローブの人はローブの下に何も着ていなかったはず。いやまてよ? 軽鎧の人はボーイッシュな女性の可能性もあるな)


 自信が無くなってきた為繋いだ手をほどき埋めなおした。墓の前で膝を突き手を合わせる。


 (魔法使いさん、あなたの杖のおかげで生き延びることができました。ありがとうございます。二人の剣と杖をこの先に進むため頂戴します。簡単な墓で申し訳ないが安らかにお眠りください)


 感謝の気持ちを込め二人の冥福を祈った後今までのことを思い出す。見た目で油断するなとウサギに教えられたこと。倒された本人はそんなつもりは無いと言いそうだが。そして戦闘中敵を倒さなくても戦うごとに経験値が入りレベルが上がるだろうこと。そして、


 「使い魔……か、やっぱ俺のことだよな」


 一番不思議なことが少女のことだ。幻覚かとも思ったがどうしてもあれを幻とは思いたくなかった。夢で泣いてた子は顔が見えなかったが服装と髪で一緒だろうと分かる。この世界に来たのが小説で読む勇者召喚や神による転位なのかと思っていたが違うのだろう。他にも使い魔を召喚したなどの物語も読んだことがあるからそれの可能性が出てきたということだ。だが今小太の頭を占めていたことは。


 (可愛かったなぁ、やべぇ、あの子に呼び出されたってことは俺あの子のそばに居られるってことか。やっぱ守るなら可愛い子がいいよね! )


 お墓の前で真顔で黙っているが頭の中ではどんどん妄想が膨らんでいく。


 (魔物や盗賊に襲われそうになる少女、そこに颯爽と現れ拳でスタイリッシュに天誅を下す俺、小さく怯える彼女を優しく巨体で包む。「もう大丈夫だよ」そして彼女は「ああ小太怖かったようぅ」と俺にすがり付く。そして彼女は「お礼がしたいの」と呟き夢で見た部屋へ俺を招きいれベッドに腰掛ける。恥じらいながらとうとうその言葉を呟く! 「来て」)


 「フォオオオオオオオ! 」


 顔を手で押さえ墓の前で突然ゴロゴロと転がりだし手の間から鼻血が飛び散ちった。ここに第三者が居れば間違いなく救急車か警察を呼ぶだろう。転がりながらも妄想は続いていく。「以外に積極的だね! 」などと人が居ない事をいいことにこの状態が数十分続いた……




 ……「行かなきゃ」


 小太はすっくと立ち上がる。その顔は精悍せいかんで何もない虚空を見つめていた。なぜか重かった体は今は軽く感じる。今ならどんな障害でも乗り越えられる自信があった。元の世界では怖がられてきた姿だが、この世界では頼りになる存在であろう姿だった。


 顔面鼻血まみれでなければだが。


 埋葬した後妄想にふけり大分時間が経っていた為、小太の目の前の広場ではウサギがリポップしていた。だがそんな物には見向きもせず部屋の反対側に見える通路を見てニタリと笑い広場へと踏み出す。小太の顔を見たウサギたちは少し引いたが、攻撃範囲内に入ってきたため襲い掛かっていった。だが小太があんなにも苦戦したウサギを見向きもせずに手の届く範囲内に入ってきたウサギを適当に払い落としながらズンズンと次への道へ目指し進んでいく。急激にレベルが上がったこととテンションが上がり体が軽くなったことでできる芸当なのだが小太にはもはやどうでもいい事だった。


 「待っててくれ、俺のハニー」


 盾地小太 17歳 童○


 都合よく解釈し短期間で恋に落ちた男を止められるものは今の現時点では居なかった。



 



 時は遡り小太が消えて数時間後の某府某所。


 小太が消えた道路には隕石が落ちたような巨大なクレーターができており野次馬だらけになっていた。今は警察の現場検証のため通行止めとなっておりこれ以上近づかないよう警察が野次馬を押し留めていた。


 母子は目の前で人が突然消えると同時にクレーターができた為パニックになりながらも警察に通報したのだ。今は警察と事情聴取しているところである。


 そこに野次馬を掻き分け一人の男が母子へと近づいていった。警察は止めるが母親はその人を見て理解する。


 その男は身長2メートル、顔は鬼のように強面であり助けてくれた青年によく似ていたため父親だと悟った。


 小太の父親、名を幸太こうたという。止める警察を無視しながら母子に近付く間にクレーターとそれを囲むようにうっすらと描かれた魔法陣を渋い顔で見る。


 (転移の場所はここだったか、日食で最高の条件だと思ってはいたが場所だけは特定できなかった)


 幸太は母親に尋ねる。


 「失礼奥方、消えた男は身長180センチほどで私みたいな強面ではありませんでしたかな?」

 「は、はいそうです。やっぱりあなたが父親でしたか」

 「ええ」


 止めていた警察は事情を知り同情する。


 「なんとも運がありませんでしたね、轢かれそうになった親子を助けたと思ったら隕石が直撃とは、なんとも浮かばれない」


 母子は消えた後にクレーターができたと言うが信じてもらえず隕石が落ちた事に収まりそうであった。


 「大丈夫、息子は生きています」

 「「え?」」

 「息子は異世界に召喚されたんです」

 「「……」」


 真顔で予想外のことを言い切った幸太に二人はかわいそうな人を見るような目で見る。そんな二人を無視し来た道を戻っていく幸太。


 (やはり人間にはあの魔方陣は見えないか。まさか小太だけが行くことになろうとは、くそっ、また一年後か)


 現場から離れた後立ち止まり空を見る。


 (気張れよ! 小太! )


 幸太は心配でしょうがない顔で息子の無事をいのるのだった。

チーターラビットの名前が他の方の小説で既出だったら考え直します。

適当に考えたので一応オリジナルのつもりです。

これからも安直な名前のモンスターが出てくる予定であります。

この駄文を読んでいただける皆様に感謝を!長い目で見守ってください。


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