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ラストバトル 反乱




 津波の如く押し寄せる魔物たち。その一番前を駆けていた魔物が高く跳躍した。

 

 それは片手に握った剣を振り上げ、今から殺す者に狙いを定める。慈悲は無い、そいつはなんの躊躇いも無く血走った眼で敵を見据え剣を振り下ろした。


 ガキィン!


 「……なんのマネだ? ゴブリン」


 アルフェルドは何が起きたのか分からない。自分はフェンリスヴォルフに向かって「コロセ」と命じたはずだ。しかし命令をされたそのゴブリンは怒りに満ちた目を血走らせて、アルフェルドの環に剣を叩き付けていた。


 それだけではない、顕現された全ての魔物達はライエルではなくアルフェルドに群がり攻撃を仕掛けはじめたのだ。


 終わりを悟っていたライエルもその光景を見て理解が追いつかない顔になる。


 そうしているあいだにも魔物たちは環の結界に阻まれているにも拘わらずアルフェルドの巨体を包囲しはじめていた。


 「なんのつもりだ貴様ら!」


 アルフェルドは身にたかるハエを払うかのように翼を羽ばたかせた。それだけで包囲していた魔物は吹き飛び、近くに居た数百体は消滅し、魂となってアルフェルドの中に消えていった。それでも残った魔物達は怯まず向かっていく。その姿にアルフェルドは戸惑いながらも応戦していった。


 その光景を見ていたライエルは一つの推測をしていた。


 召喚獣に倒された魔物は顕現石により姿を現し、一つの命令を実行し消えていく。そしてその命令は本来一度だけのはずだと聞いた。

 しかしこの魔物達はアルフェルドに魂を捕らえられ、このダンジョン内で今まで何度も命令を聞いてきたのだろう。

 魔物たちにも感情はある。本来自分を殺したものの命令を一度聞くことすら嫌なはずなのに、それを何度も強いられているのだ。

 そんな時に先ほどのアルフェルドの命令は「コロセ」というだけの言葉。たとえ簡単な命令でも魔物は顕現した者の心を汲み取り実行する。一度目の命令ならば目の前のライエル達を殺すことだと理解して襲っていただろう。それが完了すれば、自分を倒したものに義理を果たしたという事で天へと(かえ)るのだ。


 何度も繰り返し強いられる命令を嫌がった魔物達はそのあいまいな言葉を逃げ道に、強引に体を縛る命令を振り払い、ライエル達ではなくアルフェルドをコロセとごまかしたのではないか。


 「あの魔物達の怒りに満ちた表情。怒っているのではなく、身を縛る命令を必死に振りほどいているように見えるの」


 ライエルは自分の推測が当たっていてほしい想いでそう呟いた。


 「その通りだ」


 ライエルの横から突然聞き覚えの無い声が発せられる。まさか、自分の呟きに受け応えが返ってくるとは思わず驚いてそちらを仰ぎ見た。

 そこに立っていた者を視界に入れ驚愕する。不思議なことが連続で起こり、ライエルは固まることしかできなかった。








 「何なのだ貴様ら! 我はあのフェンリスヴォルフを殺せと命じたのだぞ。何故我に向かってくる!?」


 アルフェルドは戸惑いながらも向かってくる魔物たちを全力で屠っていく。自分の力を分け与えている分、力を増した魔物達はかなり強力になっているからだ。

 それでも所詮は格下。自分の赤黒い環の結界を超えて一撃を当ててくるものは一体も居ない。それでも思い通りに動かない魔物達にイライラがつのっていく。


 苛立ちをぶつけるように大半の魔物たちを殺したあたりで、背後から強い魔力の高ぶりを感じ振り向いた。目前にはまるで三日月のような形で飛翔してくる炎の刃が迫り、環に着弾。その攻撃はアルフェルドには届かなかったが、ほんの僅かだけ赤黒い環に亀裂をつくっていた。

 

 しかしアルフェルドはそんな事よりも、その存在がそこに居て、自分を攻撃したことに驚愕する。


 「何故貴様がそこに居る?」


 ライエルたちの横には紅炎刀を振り下ろした鬼が居た。


 「オニオニ!?」


 オニオニは無言で刀の切先を、大きな穴が空いた小太の胸に持っていく。そこは本来心臓があったであろう場所。今や空洞になってしまったそこにあったのは銀色に輝く太陽。それは小太の魔力の根源であり、今にも消えそうなほど小さくなっていた。

 それを見てアルフェルドは思案する。使い魔が死んだとき、ストックされた魔物の魂は解放されるのだ。


 「タテチショータが死んだから中に居た貴様は枷がはずれ、外に出てこれたというわけか?」


 その問いに答える様に小さな太陽から四つの光が外に飛び出し、それぞれが巨大な形へと形成されていく。


 黒いヘビのアニコンダ。それに対となる白いヘビのアネコンダ。

紫色の毛に覆われたイノシシのブヒーモス。最後に七色に輝く翼を広げた怪鳥レインボウバードが出現した。


 「何体かの魂が回帰できなかったが貴様らだったか」


 小太の胸から出てきたその五体は小太達を庇うかのように前面に立ち、それぞれが魔力を高め臨戦態勢をとる。その魔力はまるで小太と同じ銀色のオーラをその身に纏っていた。その姿を見てアルフェルドは半狂乱になり叫んだ。


 「何故その死んだ男の味方をする! 貴様らだけではない、他の奴らも我の命令をきかない!?」


 その問いにオニオニは静かに答える。


 「まだ死んでおらぬ」


 そして刀の切先をアルフェルドに向け、この広場に居る全ての魔物達の思いを代弁するかのように言った。


 「オヌシは気に入らぬ」


 「ふざけるな! 弱者は弱者らしく、我に従っておればよいのだ」


 アルフェルドの怒りの咆哮と同時に、五体と残りの魔物達がアルフェルドへ殺到する。それをライエルとカイは小太に寄り添い見ていることしかできなかった。






 ――――――――――――







 あれ? 俺って、どうなっちまったんだっけ。


 確か、カイが俺の中から飛び出していった後、襲い来る魔物達を必死で迎撃してたんだよな。そして……そうだ、アイツが、ゴブが居たんだ。

 水を飲む暇も無くボロボロになった俺は、ゴブが振り下ろしてきた剣を避けれなかったんだ。それなのにアイツ、刃が俺に当たる直前に止めやがった。

 疑問に思うと同時に流れ込んでくる感情で俺は理解したんだ。怒りの形相で戦っているのはアルフェルドの力によって強化されたからじゃない。操られるのが嫌で嫌で全力で抵抗しているからなんだってな。


 そしてそれは周りにいるやつらも同じようだった。どいつもこいつも襲っては来るが、致命的な攻撃が当たる瞬間だけその動きが鈍る。

 おかげで俺は傷つきながらも致命傷を受けることはなく、皆を掻き分けライエルを何とか視界に納めることができた。

 しかしそこで見たのはライエル親子に迫るアルフェルドの爪。それを見た瞬間俺は庇う事しか考えられず親子の前に焦点縮地を発動したんだ。そして……。




 目の前にはぽっかりと空いた穴がある。本来なら見事に盛り上がった胸筋があった場所だ。

 俺はどうやら壁にもたれ、うなだれる様になっているのだろう。途中カイが顔を舐めているのが視界の端に映ったがもはや反応を返すこともできない。


 (体動かねぇ、オーラを操ろうと思っても何の反応もしねぇ)


 目は一点を集中して動かすこともできない。穴が空いた胸の中には小さく銀色に輝く太陽みたいなのが見える。何となくだが、これが俺の魔力の源なんじゃないかなと思った。そこから漏れ出すオーラを必死に止めようとしても止まらない。まるで壊れた蛇口から吹き出す水を手で必死に止めようとしている感じだ。


 徐々に小さくなっていく太陽。


 (ああ、これが消えたら。俺、死ぬんかな)


 体の感覚はとっくに無くなっていた。徐々に視界が白黒になり、感覚が無いはずなのに寒くなってきた。


 (寒い……嫌だな、死にたくない……せっかく……せっかくここまで来たのにな……)


 まだ涙は出るのか、徐々に視界が歪み涙が零れ落ちた。


 その後、視界は完全に暗くなり、何も分からなくなった……。


 …………

 ……

 …











 『条件クリア、覚醒シマス…………やっと……現れた……』 




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