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枯れない涙

短いです。

 「おおおおおおおおおおお! 」


 凶悪な顔をした青年が半泣きでゴブリンの中に突っ込んでいく。


 「ギィィィイイイイイイイ! 」


 それを迎え撃つ大量のゴブリン達。


 青年は体術で挑み倒していき、倒した敵の武器を拾っては自分の武器にする。


 武器を振るう姿は意地汚く滑稽で型もなく我武者羅に振り回す、カッコイイとはいえない。


 敵の攻撃を食らい顔から地面に転がる。止まってはいけないと四つんばいで移動し逃げ回りまた武器を振るう。


 でもどんな苦境も乗り越え、必死に何かを掴み取ろうと足掻く姿は



 カッコイイ姿だった。





 「……夢」


 学生寮の一室で少女は目覚める。


 横になったまま窓の外をボーっと眺める。朝日が差し込みとても晴れ渡り、一羽のスズメがチュンチュンと囀っている。ベッドの上で上体を起こすと腰まで伸びた黒髪がさらりと肩を撫でる。気だるそうにベッドから抜け出し、皺くちゃになった学園の制服姿でトテトテと鏡台に向かう。


 その姿は16歳を前にしては少々幼いほうだろうか身長も150センチを少し越えたあたりだろう。スレンダー、悪く言ってガリガリで吹けば飛んでいきそうな印象だ。


 鏡台に座り鏡を見る。少々釣り目で気が強そうに見えるが可愛らしい部類に入るだろうがなぜか泣き腫らした後があった。


 そして印象的なのがその目である。


 左目が黒、右目が赤のオッドアイ。


 少女はその目を睨み付ける。この赤い目が嫌いだからだ。ふと目をそらし鏡台に置いてあった魔石が嵌った腕輪を左手首に着け一言呟く。


 「ステータス」


 すると体から微量の魔力が魔石に流れ映写機のように目の前に何か文字が書いてある映像が出てくる。




 ユアナ・オープナー 15歳 女


 Lv 25 闇 火 属性


 体力:630


 魔力:2300


 テンション:3/10

 

 攻撃力:58/193


 魔法力:135/450


 防御力:37/125


 魔防御:112/375


 俊敏力:22/75



 ギフト:色心眼しきしんがん


 称号:・疎まれ者  ・泣き虫  ・演じる者




 自分のステータスを無感情に流し読みしていく。


 そして称号の下に書いてあるものを見たとき一瞬にして泣き出すのを必死で我慢する表情を浮かべた。





 契約使い魔:無し




 「……ッ!……くぅ!……ふぇぇ」


 とうとう我慢できず一筋の涙を流す。


 闇属性を持って生まれたせいで疎まれ、あるいは恐怖された。それが理由なのか分からないが赤ん坊のときに孤児院に捨てられ彼女はそこで育ったのだ。幼少の頃は保母おかあさんだけが唯一優しくしてくれたが病で亡くなりもういない。それからはずっと一人ぼっちだった。


 でも一つ希望が持てたことがある。いつも気に懸けてくれたおかあさんが亡くなる前に教えてくれたのだ。


 「いいかいユアナ、魔法を学べる学園がある。そこでは授業の一環で使い魔召喚の儀があるそうな。使い魔は召喚した主と生涯を供に居てくれる」


 「ほんとにぃ! あ、でもでも、ガクエンにはいるにはおかねがいるんでしょ? ユアナそんなのもってないからいけないよお」


 「ほっほっほ、大丈夫だよ。お金のことなら心配はいらない。魔法の素質を持つものは10人に1人と言われて数が少ない。素質ある者は国が学園に入れてくれるのさね。そしてユアナ、お前にはその素質が十分にある」


 「でもユアナ……闇ぞくせいなんでしょ?闇ぞくせいはほんらいまぞくのひとしかしゅちゅげんしないって。だからみんなユアナをこわがるんでしょ? そんなでもいけるの? 」


 「大丈夫、属性なんてものはただの個性だよ、闇だからって悪とは言ってないじゃないかい。それにいつもユアナは私を色々手伝ってくれるいい子なんだ。そしていつも私に笑いかけてくれる。こんな可愛らしい子が悪だなんて思えないよ」


 そういっておかあさんはユアナの頭を優しく撫で、ユアナも心地よさそうにヘニャっと笑う。


 「じゃあユアナいっぱいべんきょうしてちゅかいましょーかんしておともだちになる! 」


 「そのいきだよ、それにユアナ、使い魔だけじゃない、きっとお前のことを分かってくれる人も現れるだろうよ? 」


 「そんなのおかあさんだけでじゅーぶんだもん! 」


 「おやおや、これは困ったねぇ」


  



 泣きながら思い出す。

 

 おかあさんが居なくなってからはずっと一人ぼっちだった。周りの人は私を怖がり疎む人ばかりだし私から近づこうとも思わなかった。


 学園に入ってからはひたすら勉強し魔法の修行に励んだ。闇属性なんて教えてくれる先生なんて居なかったし使いたくもなかった。でも幸いもう一つの属性 火 が扱えたのはうれしかった。


 そして昨日、ついにその日がやってきたのだ。

 

 季節は春、新学期が始まって大体10~20日後あたりに年に1度世界中で魔力が活性化する日に召喚の儀が行われたのだ。

 

 念願だった。おかあさんが亡くなってからは何時の日か使い魔を召喚し友達になることを夢見て頑張ってきた。


 ステータスのテンションも滅多にならない10/10


 体中が活力と魔力で満たされ、いける! そう思った。


 呪文を唱え、本来なら少しの魔力でいいのに私は全力で魔力を注いだ。その瞬間もともと活性化している世界中の魔力がさらに強くなり大地まで震え、部屋が光に包まれた。


 そして光がおさまり視界が開けたとき。



 そこにはなにもいなかった。




 その後は自分でもよく覚えていなかったし自分の足で部屋に帰って来たのはなんとなく覚えているが、頭の中を占めていたのは


 絶望


 その一色だったろう、誰かが部屋へ向かうユアナを見たら幽鬼にしか見えなかったのではないだろうか。


 部屋に着いたら着替えもせずベッドに突っ伏し幼児のようにわんわん泣いたのだった。


これからどうしようかステータス画面を見ながら考える。使い魔召喚の為に生きてきたといっても過言じゃなかった。今のテンションをなんとなくみると3/10だったのがいつのまにか2/10と1/10をいったりきたりしていた。そのせいでテンションの数値に影響を受ける他のステータスの数値も減ったり増えたりと荒ぶっていた。


 目がチカチカしてきたので画面を消し、また鏡を見る。昨日さんざん泣いたのに今もぽろぽろと涙が頬をながれている。男性からすればなんとも庇護欲をそそる姿だろうが、彼女にとっては醜く酷い顔だった。


 (こんな顔で教室になんて行きたくない)


 鏡台にもう一つ置いてあったハンカチを手に取り涙をぬぐう。それは元々柄がなかったのだが刺繍が繕われていた。


 <ユアナの使い魔>


 どんな使い魔でもどこかに着けようと思い作ったものだったが今はユアナの涙を拭くという本来の使い道になってしまった。作った意味が無くなったと思うとまたこみ上げてきた。ハンカチを握り締めたまま、またベッドへ突っ伏し泣き疲れ眠るのだった。


 

 彼女にとって学園入学以来初めての欠席だった。



 外では空は晴れ渡り、青空が広がる中、一羽のスズメがチュンチュンと囀っていた。

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