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 「んん……」


 目が覚めた。俺は気だるげに体を起こす。


 ここはゴブリンと戦った場所。どうやら俺はあのまま泣きつかれて眠ってしまったようだ。


 「…………あー……」


 我ながらなんとも覇気のない、寝起き特有の怠そうな声だ。


 「……夢か」


 眠っている間、断片的だったけどずっと夢を見ていたのを覚えている。最初は暖かい風が吹く草原のなかで今まで倒してきた魔物達がたむろしてた。

 その中にはゴブリンたちも居たな。なんか楽しそうにフゴフゴ(わめ)いてた。その中にゴブも居た気がする。


 場面が切り替わり次はあの少女だ。少女を見たのは随分前だったせいでその姿は朧気だったけど、あの艶やか黒髪とオッドアイが印象に残っていたから彼女だろう。

 何か黒い奴と必死に戦っている姿が見えた。ずい分と不気味な敵と戦っていたな大丈夫かな。


 またすぐ切り替わったと思ったら知らない人たちが町中で祈る姿。

 そこからどんどん切り替わっていく。路地で座り込む浮浪者みたいな人。泣いている子供。ひろい教会の中で人がすし詰め状態でこっちに頭を見せて跪き祈っていた。その中に目が白く濁った婆さんだけが俺をずっとガン見してたのが正直怖かったな。


 次が森の中。なんか真っ黒なでかいやつがのそのそ歩いてる姿。そこで夢が終わる。

 でも覚める直前に少女の声が聞こえた。


 (一人じゃない…………どうか、どうか……)


 途切れ途切れでここぐらいしか聞こえなかった。


 リアルな夢だった。あれだ、俺だけかもしれないが、なんか二度寝した時って変な夢見て、内容をいつまでも覚えてるときがある。そんな感じの夢だった。やけに生々しい感じがしたけどなんだったのかね。


 「あの眼力はハンパなかったなぁ、婆ちゃん」


 なにげに少女よりあの婆ちゃんの方が印象が強い。せっかく久しぶりに少女を見れたのにあの眼力のほうが頭の中でチラつくのが残念だ。




 胡坐をかいたまま長い時間ボケっとしていた。大分落ち着いたと思う。悲しいことがあったら一度思いきり泣いて眠れば落ち着くと聞くが本当かもしれん。

 右手を開くとゴブの耳を持ったままだった。夢の中でゴブが他の仲間と居たように見えた。あの世で会えたのか、はたまた俺がそうあってほしいという願望が見せたのかもしれない。でも、仲間と再会できてたならいいなぁ。


 「一人じゃない……かぁ」


 少女が言ったこの言葉も俺の願望なのかな。孤独感で一杯だった俺の防衛本能が見せたのか、なんとも都合のいい夢だ。

 でも随分楽になったと思う。

 

 「さて……行くか!」


 ゴブの耳をアイテム内に入れてから鼓舞するようにでかい声を出して立ち上がる。寝て固まっていた体を柔軟でほぐしてから出口へと向かった。


 「おっといけねぇ、礼を忘れてた」


 今まで戦ってきた広場から出ていく時は必ず礼をしていた。まぁ余裕がある時だけだけどな。敵とはいえ己を高めてくれた相手だ。生き抜くため、強くなるために頑張ってきたが、そもそも憎しみがあって倒してきたわけじゃない。というか、敵から見たら平穏に生活しているこの場所に来た俺の方が悪い奴だろう。

 そんな思いがあったから俺はせめて礼儀だけは大事にしておきたかった。


 「……」


 言葉は無い。空手の組手を終わった後のように軽く頭を下げる礼。


 ここがスタート地点だったこと。ここで生き抜くため、魔物とはいえ初めて生き物を殺したこと。後で感触を思い出して吐きそうになったこと。いつか魔物を殺すことに抵抗が無くなるんじゃないかと恐怖したこと。でも外に出ればそれにも慣れて普通になるのかもしれない。

 だからせめて、ここであったことは忘れないようにしよう。俺はこいつらの死のおかげで今ここに立っているんだと。


 (ありがとうございました)


 万感の思いを込めてしばらく頭を下げていた。




 泉の広場に到着。空になったボトルに水を補給する。ヘビ革にも大量に補給しているから、もうここに来るのも最後かもしれない。


 この水のおかげで俺は生きられた。この場所が安心して眠れる心の拠り所だった。もう戻ってこないかもしれない、そう思うと何故か涙目になった。


 出ていく前に俺は部屋に向かって礼をする。


 「今まで……お世話になりました。ありがとうございました!」


 ウサギの広場に入る前の通路。そこに埋めた二人の墓の前でも手を合わせた。ウサギの広場を出ていくときも礼をする。

 ウサギも何か感じ取ったのか、俺が離れていくと穴から出てこっちを見ていた。ソードウウルフは相変わらず攻めて来たけど最後という事で構わず思いきりモフりまくった。

 いつもは超スピードで行ったり来たりしていた場所を時間をかけて俺は歩く。それからも各広場で最後に礼をして進んでいった。


 進むにつれ、じょじょに通路の奥からの鬼の威圧感が増してくる。俺もお返しと言わんばかりに闘気を開放していく。


 さぁ、あばれようぜ!




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