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必ず俺は




 王都の城下町を一人の青年が歩いていた。目にかかるほどの長い金髪で男性の平均身長165~170センチよりすこし高い背丈。ヒョロリとしてはいるがその甘いマスクで女性受けがよさそうな風貌。

 一年前ユアナとぶつかったあの青年だ。


 他の都市から避難してきた人が溢れかえり、そこらじゅうに人が居る。道のわきには汚らしい格好で座り込む者も居る。

 どこかで怒号がすれば憔悴しきった顔の衛兵が走っていく。すすり泣く声や喚き散らすもの。裏道に入れば最後、身ぐるみを剥がれるのは必至だろう。


 そんな街並みを無表情で眺めながら歩く。

 突然服の裾をクイッと引っ張られるのを感じた。振り返り見てみると、恐らく孤児なのだろう。汚れた衣服を着た一人の少女が潤んだ目でこちらを見てくる。

 物乞いか。そう思った青年はにこりと笑い言った。


 「無駄だ」


 少女を見ながら肩から後ろに提げたバッグに伸びてきた手を掴む。その手の主は少女と同じぐらいの少年だった。少女に気を取られた隙に物を盗む。単純かつ初見では引っかかりやすい手だろう。


 「手馴れてるなガキ」


 「くそっ、離せ!」


 少年は空いた手に持つナイフを振るう、咄嗟に手を離した隙に少女の手を掴み路地裏へと逃げていった。


 「ふん」


 哀れな生き物だ。所々で炊き出しをしているようだが、体が大きく厳つい奴らが我先にと奪い合う。おかげで小さくか弱い、最も食事を必要としているものに行き渡らない。だから子供のスリが横行。成功した子供は路地から見ていた大人に見つかり脅しとられる。

 人目もはばからず殴り合いがそこらで頻発。溜まった鬱憤を自分より弱い女性を見つけては無理やり発散。秩序は無く、中には取り締まる衛兵ですら金を握らせられ目をつぶる始末。


 なんとも、人族はこうも追い詰められるとここまで醜くなるのか。


 (まぁ、追い詰めているのは俺なんだがな)


 「ククッ」


 青年は顔を伏せ密かに笑う。


 



 青年は歩き回る。


 (しかし、ゴミどもが多すぎだ。落ち着ける場所が無い。学園じゃメスどもがうるさいしな)


 なんとか追い剥ぎの居ない路地裏を見つけ身を潜める。気配が無いのを確認後、腕輪に魔石を嵌め魔力を流した。


 「ふぅ……俺だ」


 『……ハッ!? わ、若? わかぁ~!』


 「ライラ? どうした」


 通信石を繋げた途端なんとも情けない声が聞こえてくる。


 『心配してたんですよぉ、一人で大丈夫ですか? 言い寄ってくる女は居ないでしょうか?』


 「……大丈夫だそんな『何ですか今の間は!』話を聞け、だいたい人族の女に興味は無い」


 「『言い寄っては来るってことで』それよりそっちは順調なのか?」


 『むぅ……はい、魔力活性のおかげで《死兵隊》は順調に成長しております。ですが一つ懸念事項が、どうもアルフェルドダンジョンをこの1年間、未だに攻略しているものが居ると噂されています』


 「ああ、それはこちらも聞いている。どうもあの地響きはそいつが戦闘中に引き起こしている余波だとか」


 『はい、特にアルフェルドが封印されている山の麓のこの街の人間は地響きが起きるたびに士気が上がっております』


 「そうか、しかしそれは捨て置け、手の出しようが無いのだからな。300年アルフェルドは討たれなかったんだ。伝承では最強の竜種だろう、俺がヤツを呼び出したら迎えに行くんだ。それまでに死んでなければいい。兎に角、転移石の準備を怠るなよ」


 『分かりました』


 「魔力活性も佳境だ。ヤツの目(・・・・)も解放しろ。そうすればイースネルはすぐ落ちるだろう。

くれぐれもあのネックレスを外すなよ。たちまち飲み込まれるからな」


 『……心配してくださるんですか?』


 「何を、当たり前だ。お前は大事な手駒だ」


 『グフ、グフヘヘ』


 「……切るぞ」


 『アアン、待っ』


 ブッ。


 「ふぅ」


 お前は優秀な手駒だが俺を見る目が少々怖いな。1年前に任せた召喚陣の分析も難なくこなした。おかげで門外不出どころか、この場以外での召喚は不可能だということが分かった。広大に広がる魔方陣をたどって行くのは正直骨が折れたが。


 「まさかあそこに繋がっていたとはな」


 通信を終えた青年は寮へ歩き出す。その途中教会の前を通った。そこは他にないほど人が溢れていた。あまりに人が居るせいで、大扉は開かれ外の道までごった返していた。

 何事だと遠目から教会内を覗くと、人々が竜のシンボルに向かって両膝を床につき、手を合わせ必死に拝んでいる。


 「どうか、お救い下さい」


 「神竜様。どうか最前線で頑張っている息子をお守りください」


 神竜様。神竜様……。


 (ふん、情けない。普段平和なときは祈りもしない奴らが、なんとも都合のいい奴らだ)


 蔑んで眺めていたら教会の中からババアが出てきた。孫娘なのだろうか、そいつに手を引かれている。どうやら目が見えないようだ。


 「おお、婆さん、どうだ、未来は見えたのか?」


 「私たちは助かるのですか?」


 そのババアに祈っていたヤツらが群がる。


 (なんだ? 有名なのかあのババア)


 そのババアは群がる奴らを気にもとめず呟きだす。


 「魔が満ちる……山ぁ崩れる時、銀と黒と様々混ざる。神竜様ぁ、ああ、神竜様現る……」


 (大丈夫かこのババア、何を言ってるか分からんぞ)


 どこを向いているのかも分からない白く濁った目が見開かれ、俺を向いた。


 「神竜様現る、邪悪を眩き光にて浄化せん」

 

 ゾクリとした。目は見えていないはずだ。ゆらゆらと体を揺らしながらその目だけはしっかりと俺の方を向いたままなのだ。


 「ちっ」


 俺は舌打ちをして逃げるかのように顔を逸らし学園へと歩き出す。


 (せいぜい神頼みをしていればいいさ。俺は必ずヤツの召喚を成功させてみせる。そして人族を滅ぼし、この地を手に入れる)


 そして俺は。


 「魔族の頂点に立ってやる!」





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