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原点へ



 「休憩しない?」


 そう提案してみると鬼は落ちていた二つの刀を拾い上げた。また戦いが始まるのかと身構えたがそんなことはなく、鞘にチンと納めてなんか怠そうに扉の前まで歩いていった。そして最初ここに来た時の位置にあった段差になっている岩にどかりと座り込んだ。


 「……」


 「……」


 ああ、休憩か。言葉通じたのかな? 俺も休憩しようかな。そういえばボトルの水も心もとない量になってるし汲みに戻るか。遠いなぁ……。


 俺は元来た道に向かって歩き出した。鬼も黙ってこっちを見ているだけ。それでふとさっき思ったことを何気なく提案してみようと思ってまた振り返った。


 「なぁ、一緒に手を組んでここから……」


 出ないか? そう言おうと思ったらおもむろに刀に手をやって抜くと同時に三日月の刃が俺の足元に飛んできた。


 「うおお危ねぇ!」


 俺を狙ったわけじゃないようだ。刀はもう鞘に納められている。

 馴れ合いはしない、はやくあっち行けと言わんばかりの態度が感じられた。


 「分かったよ、行くよ……バーカ!」


 なんとも子供みたいな捨て台詞を吐いて俺は元来た道を歩いて行った。





 一旦戻って水汲んで一眠りしようかなと歩いていく。レインボウバードたち4体が居た広場にはもう何も居ない。

 その前の広場ももう出現はしないようだ。ここの魔物はヤバかったなぁ。初見で来た時は久しぶりに死にかけたよこいつの能力と無駄に高い耐久力のせいで。そいつも12体倒したらでてこなくなった。


 敵を倒して先に進む。普通のことをしているにもかかわらず、このがらんとした空間に一人だけで居ると孤独感が襲ってくる。


 「早く戻ろう」


 リポップして敵だらけの広場もある。そこはスピードにものを言わせ通り過ぎる。敵達が一瞬気づいては通り過ぎる俺を見ていた。


 (いいなぁ、仲間いっぱいでお前らはよ……)


 今俺が主流に使っている武器をドロップしてくれる敵たちだ。ここもドーム球場の広さだが敵の大きさは俺と同じぐらいの人型。

 でもその数は一度に5~600体ぐらいが隊列をとって襲ってきたよ。倒せども倒せどもリポップして来て終わりが見えなかったから余裕を感じるようになるまで戦ったらスルーするようになった。


 懐かしみながらどんどん戻って行く。蜘蛛とサソリが合体したやつとか映画で観たエイリアンみたいなグロイ系のやつ。なんと海中ステージの広場もここにはある。広場全体が水に浸かっていた。敵はもちろん魚系だった。


 ここにいるやつらが俺を強くしてくれた。死に物狂いで戦ってきた敵だけど強くなれたのはこいつ達のおかげだ今では感謝すらしている。


 途中から広場が体育館ほどになった。ここはキシリトロール鬼の広場。ここで銀環使えるようになったんだよな。もうここまで来たら魔物達は俺を恐れるのか近づいてこなくなる。寂しいじゃねぇかチキショー。


 通路の隅で背景に擬態して俺が通り過ぎるのをじっと待つカラメレオンテ。相変わらずだなてめぇら。


 ソードウルフの広場。こいつらだけは相変わらず向かってくるなぁ。


 「ギャウギャウギャウ!」


 「よーしよしよしよしよし、盛んな時期でございます!」


 襲ってくるソードウルフを俺は撫でまわしモフモフする。気持ちいいんだよなこの毛の手触りが。傍から見たらじゃれ合っているように見えるがソードウルフは俺に必死で攻撃している。しかし額の刃も俺に触れることなくオーラに遮られている。最初はあんなに手こずっていたのに今ではこんなものだ。なにげに俺の癒しタイムだ。


 「ギャウギャウギャウ……クゥーンクゥーン……」


 「よーしよしよしよしよし、ここかー? ここがええのんかー?」


 しつこく撫でまわしていたらこのとおり腹を差し出してくる。服従したわけじゃなく諦めた感が半端ないけどな。まぁ俺が無理やり手を抑えて腹向けさせてるからそうなるか。


 最後がチーターラビットの広場だ。


 「……うん、居ないな」


 ただ皆地面の下に避難しているだけだ。


 「腹減ったな……」


 そう呟けば地面からなんだか緊張感のようなものを感じた。こいつらはもも肉をドロップするからな。

でも俺はもうずっともも肉を食べていない。というか固形物を食べていない。ずっと泉の水だけを飲んでいる。

 最初にウサギと戦ったことでもも肉のストックは大量にあった。アイテムボックス内に納めていればいつでも取り出して食べられる。

 アイテムボックス内は時間が経過しない(・・・・・・・・)から腐ることはないだろうと、本やゲームでの先入観がまたしてもここで仇になった。

 はい、しっかり時間が経過していたようで、俺の中で肉は順調に腐っていました。そのせいか腹痛に襲われ悶絶したのは苦い思い出だ。


 (あれはヤバかったなぁ、水飲んでも痛み和らぐの一瞬だし、とうとう変な病気になったのかもって思った)


 腐った肉を全部出せば腹痛は収まった。どうやら腐ったものをアイテムボックスに入れていると体調を崩すようだ。

 だから肉が食いたくなったら殺してから食べなきゃならなくなった。でも俺にはもう、それができなかった。


 すでに俺は大分先にまで進んでいたせいでウサギには恐れられていた。一度どうしても肉が食べたくなって穴を掘り返しウサギを捕まえたことがある。

 目の高さまで持ち上げ、さぁ一撃でしとめよう。そう思って抜き手を放とうと思ったらウサギと目が合った。

 目は潤み、足はプルプルと震え怯えきっていた。そんな姿を見て躊躇っているといつの間にか足元には家族なのか数羽の小さいウサギが俺の体をキューキュー鳴きながらペチペチ蹴っていた。


 「やめて、ママを殺さないで!」


 鳴き声はそう脳内変換されて聞こえた。そして手に持つウサギが目をギュッと閉じた。その目の端から一粒涙が零れ落ちたのだった。


 無理でしょ? これでも殺せるほど俺は残酷にはなれなかった。生きるには仕方ないかもしれないけど水を飲めば腹は満たされる。

 殺すつもりで襲ってくるヤツなら遠慮なく倒せるが、無抵抗のヤツを倒すのは俺にはできない。そんなに切羽詰った状況でもなかったからもも肉は諦めた。


 だから他に食い物をドロップするやつを俺は待ち続けた。しかしウサギ以降でドロップする物は(ことごと)く素材系の物だった。

刃、尾っぽ、針、牙、目玉、酒、歯、鱗、インゴット、貝殻、糸、武器、牙……。もう牙と歯がごちゃ混ぜでどれがどいつのか見分けが付かない。そして見事に食い物が無い。酒があるけどあれは嗜好品だしな。新たな敵を倒すたびに食い物を求めたがイジメかというぐらい出ないままここまで来てしまった。


 でもここに来て戦闘以外でとうとう有用なアイテムが出たぞ! それは黒ヘビと白ヘビからドロップしたヘビ革だ。

 このヘビ革、顔の口部分が穴でありそのまま30メートルぐらいある尾っぽの先まで穴が無い。こ、これならいける。


 「水入れられる」


 本来の使用用途は別にあるのだろうが、俺にとってはボトル以外で補給できるものは喉から手が欲しいものだった。そうすれば水が無くなるたびに補給の為いちいち長距離をダッシュすることもなくなる。あれは地味にしんどい。まぁ、今更感はすごいが二つのヘビ革には大量の水をストックしようと思う。


 水が無かったらと思うと改めてゾッとする。戦って進む以前に餓死してたわ。そのかわり怯えるウサギを殺すことになってたんだよな。貴重なタンパク質を水ではとれないけど贅沢は言ってられないしな。

 おかげでちょっと痩せたかもしれない、ゴリマッチョとホソマッチョの中間みたいな体型になっちまった。

 いいさ、ここから出たら少女にいい店紹介してもらって暴食してやる。


 そのままウサギの広場を通り過ぎ、久々の泉に到着。ボトルとヘビ革に水を汲んだ。


 「うーん、迫力あるな」


 水を入れた二つのヘビ革は巨大だ。戦っていた時のヘビそのものの姿に戻ったから正直怖い。

 ちょろちょろと少しずつ湧いていた泉がほとんど無くなってしまった。リットルでは計るよりもう1立米(りゅーべ)で計った方がいいなこれ。


ぱんぱんに膨れた蛇革の顔の部分をしっかり縛ってアイテム内に入れてゴロリと寝転がる。

 ボケっと魔方陣だらけの天井を見ながら感慨に耽る。とうとう終わりが見えてきた。よくここまで五体満足でこれたと自分を褒めてやりたい。

 どれだけの日数が経ったのかな、広場の隅には疲れては寝てを繰り返すたびにデンジャーホーネットの針を地面に突き刺していた。

 それで一日と定めていたけど正確ではないだろう。体感的に最近じゃ数日間ぶっ通しで戦ってる時もある気がする。針を数えてみると200本そこそこしかなかった。本当はもっと多いのかもしれない。そう思いながら新しい針を出して突き刺した。


 その後、軽く一睡してそろそろ行くかなー、ヤダなー怖いなーとゴロゴロしながら現実逃避してたらここに来た時のことを思い出していた。


 「トラックに轢かれたと思ったら目の前にゴブリンが居たんだよな」


 あのころは弱かったなぁとしみじみしていたらふと思った。


 「今でもゴブリン居るのかな?」


 ずっと泉と先への道しか往復していなかった為、ゴブリンとは最初以降会っていない。もう最後になるかもと思ったら無性に確認したくなってきた。


 敵の中には倒しすぎたのかリポップしなくなったやつも居る。レインボウバード達やその前の広場の魔物。それにデンジャーホーネットもどうやら狩りつくしたのかもう居ない。

 ゴブリンはまだ居るだろうか、逃げるようにここに来たからそれは分からない。あの時は生き抜くことしか頭になく余裕が無かった。

 もし居るのなら仲良くなれないだろうか。物語の中では女性を襲っては繁殖に使うというおぞましい設定が多いらしい。しかしそんな先入観をここでは悉く裏切られてきた。確かに見た目キモイけど表情豊かだったのを思い出すと可能なんじゃないかと思い始めてきた。


 普通の人ならゴブリンと仲良くしようとは思わないだろう。孤独とはここまで人を変えるものなのか、小太はそうと決まればと立ち上がり、ゴブリンが居るであろう広場へと歩いて行った。


 この世界に来た原点へと……。 




 1立米(1りゅーべ)は1立方メートルの略で1m×1m×1m。ヘビ胴回りが約1㎡とする1×1×30=30りゅーべ。

 1りゅーべの水なら1000リットルで1トンだから30トン。それが二つだから約60トンの水を手に入れました(笑)

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