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今?!




 広場中には轟音がいつまでも続いていた。封鎖された空間にもかかわらず暴風が荒れ狂う。

 音速を超えているのか、二人の動きで空気の爆ぜる音が鳴り響き、地面は抉れ、吹き飛んだ岩の塊は地に落ちる前に二人の巻き起こす余波で粉々になる。


 「せぃやぁあ!」


 「ゴオオオオ!」


 二人の気合の声が広場中に響くが常人では目視できないほどの速度で動き回っていた、ゆえに。


 「くそ、狭い(・・)!!」


 小太も鬼も、ドーム球場ていどの広さでは十二分に動き回れなかった。壁が爆ぜたと思った瞬間には反対側の壁が吹き飛び、天井が崩れたかと思えば地面にクレーターができた。

 小太にとってはもはや二、三歩で広場の反対側に到達できてしまう。なんだか相撲をとる土俵の中で戦っているような気分に陥っていた……。






 「ハー、ハー、ハー……」


 (もう、限界近いな、どれだけ戦ってたのかな。スタミナがもたない)


 「フー、フー、フー……」


 (まぁ、相手も同じようなものか)


 お互い血まみれではあったが致命傷は無く、体力さえあればまだまだ戦えるほどではある。しかし血を流しすぎたせいか軽い貧血気味になっていた。

 銀郭はとっくの昔に消えた、というか消した。自然に消えるという事は魔力枯渇だからな。鬼の動きが鈍くなってきたのを境に力を温存する為に消したけど正解だったようだ。鬼も本気で戦う前とはうって変わって疲れ切っていた。今は覇気を感じられず片方の刀を杖代わりにしてるぐらいだ。


 (水飲めばすぐ回復するんだけど、なんだかなぁ……)


 今まで多対一で戦っていた時はなんの躊躇いもなく飲んで回復してきたが、こいつと戦い始めてからは一度も飲んでいない。ここに来て初めての人型で一対一での殺し合い。

 一歩間違えれば死ぬだろうから悠長なことは言ってられないのだがそれは相手も同じこと。この鬼もなにか回復するアイテムか魔法でも使えば遠慮なく飲んだだろうがそんなことは無かった。それに戦っている最中はどこか空手の試合を思い出してしまい、懐かしい気分になってしい楽しんでいた。

 ここで水を飲んで回復すれば難なくこの鬼は倒せるだろう。しかしそれをやったら男として負けた気がする。そんな自分でもよく分からないプライドが水を飲むことを邪魔していた。


 それに鬼の顔を見てみると、どうやら同じ気分なようだった。


 (笑ってやがる)


 不思議な気分だった。俺はフと頭に思い浮かんだ。拳を交えたやつは強敵と書いて友と読むっていうやつを。相手は魔物だろう。しかし鬼というけど人型だし、なんか言葉通じるんじゃないかと思い始めた。こいつも俺との戦いが楽しいと感じてくれていたら、俺のことを認めてくれていたら、こんな嬉しいことは無い。


 小太は自分でも気づかないほど心の限界が近かった。ここまで少女に会うため必死に頑張ってきたが、彼女を見たのはチーターラビットと戦っていた時に一目見ただけ。

 それ以降はたまに気配を感じてはいたが気のせいともとれる。本当は存在しないんじゃないか? というマイナス思考に陥るときもあり、孤独感に押し潰されそうになってしまいそうになる時もあった。


 だから誰でもいい、心を通わせる誰かを求めていた。敵と戦う恐怖よりも孤独の恐怖が大きくなりつつあったのだ。


 鬼の後方に視線を向ける。そこには今までにはなかった巨大な扉があった。赤く炎のような彫刻が施されたおどろおどろしい扉。その前にこの鬼は座して俺を待ち受けていた。

 戦っていた間もその扉の奥から異様な気配が漂っていた。おそらくこのダンジョンのボス的な存在が待ち受けているだろうと予想される。

 正直この気配を相手に一人で挑める自信が無い。だがこいつと共闘すれば行けるんじゃないかという気がしていた。


 だから意を決して話しかけようと思った。ここから一緒に出ないか? こんな狭いところで暴れるより外でのびのびと戦った方が楽しいと思うんだ。


 そう言おうとした。しかし目の前の敵はそれを(さえぎ)るように片方の剣を地面にいきなり突き刺した。

 そしてもう片方の赤い刀を鞘に納め、ゆっくりと体を前項姿勢に沈め右手を柄に軽く添えた。それは居合の構え、ここで勝負を付けるという意思表示だった。


 (だよなぁ……)


 甘い考えだったか、仕方ないと俺も迎え撃つように気を引き締め構えをとり、ありったけの魔力を全身に纏わせた。


 僅かな膠着のあと、同時に踏み込んだ。地面を吹き飛ばし互いに向かって一撃を放つ。スロー状態の中、ただ狙うは顔面に正拳突き。


 「しっ!」


 「フッ!」


 二人が一瞬交差し離れる。小太は右拳を突き出し、鬼は刀を振りぬいた状態で動きを止めた。


 「ぐぅぁあ……」


 俺は右わき腹を抑えてガクリと膝を付く。そこからはおびただしいほど血が流れ出していた。


 (おおお……これはアカンやつや! プライドとか言ってる場合じゃねぇな、内臓出る! ていうか何か出てき始めてる!)


 このダンジョンに来てから幾度もこれぐらいの深手を受けてきたせいかあまり焦りは無い。しかし死ぬつもりはないためプライドを捨てて水を飲むことにした。

 ボトルを出したところで後方からズシャリと(くずお)れる音が聞こえた。そこには両膝を付いてプルプル震える手を顔に持っていこうとしている。その顔は首が折れ曲がりありえない方向を向いていた。


 相打ちだ。どちらも初の致命傷。俺は水を飲めばいいがこの鬼はそうはいかないだろう。何か回復する術があるなら別だけど。

 だから俺は水を飲んだ後、鬼にも無理やり飲ませてやろうと思った。命かけた勝負に無粋だと思われてもいい。俺はこいつを気に入っている。


 序盤では同じ魔物を倒しても倒しても次々リポップしていたが、この終盤に来たあたりで強い個体を倒してもリポップしてこなくなった広場もある。

 現に前の広場の4体はいつまで経ってもリポップしなかった。きっとこの鬼も唯一の存在だろう。だからなんとかして懐柔したい思いで一杯だった。


 そう決めて俺は鬼を視界に入れつつボトルを口にもっていこうとした。


 『レベルガアガリマシター』


 「はぁ?」


 俺の体は光に包まれた。俺だけじゃない、鬼も光ってた。しばらく光り続けフッと消えた時には無傷で呆然とする二人がいた。


 「……」


 「……」


 無言で見つめあう二人。久方ぶりに、しかもこのタイミングで上がるとは思わなかった。


 「フー……」


 鬼は何を考えているのか分からないが、完全に回復したにもかかわらず疲れ切ったため息を吐いたように見えた。

 俺もなんだか居たたまれなくなって頭をゴリゴリ掻いてしまう。さっきまでの緊迫した空気が完全に今のレベルアップで弛緩(しかん)されてしまった。

 だから俺は通じるかどうかも分からないが提案してみる。


 「休憩しない?」 



目標、年内じゅうに小太を外に出す!

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