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シルビア・キャロル





 ワタクシはシルビア・キャロル。キャロル侯爵家の長女ですわ。両親と兄が二人とまだ小さい双子の姉弟がいます。家族全員が火属性をもって生まれ、全員が火に魅せられていますわ。

 火っていいですわよね、情熱的で力強く、ポジティブなイメージがありますわ。ワタクシの家族はそんなイメージ通りです。両親と兄二人も召喚の儀をおこなったのですが失敗に終わり、ワタクシが成功した時も

嫉妬の影すら見せずとても喜んでくれて褒め称えてくれましたわ。弟と妹も何度か帰郷した時はフェニーと沢山遊んで楽しんでいましたわ。

 だからワタクシはこの家に生まれてきて本当によかったと思います。皆が大好きですわ。


 ですがこんなワタクシにも悩みがあります。それは家を離れ王都の学園に入ってからしばらくたって気が付きましたの。それは友達がいないことですわ。

 もちろん幼馴染であるシャンは気心が知れている分、気兼ねなく話せる。というか最近パシリ扱いが酷いかしら? 彼は男性ですしね。まぁそれはいいとして、ワタクシは同い年の女の子の友達が居ないのですわ。

 それで目を付けたのが、いつも一人でいたユアナさんでしたわ。





 ワタクシ達が無事イースネルに到着してから数日経ちました、間近にそびえる山からは相変わらず地響きがしておりますわ。

 それは昼夜問わず響いて来て、時々おさまったかなと思って気を抜いた途端また鳴り響きますわ。まったく、山のふもとにあるイースネルでは黒い魔物と替わりばんこで戦って疲れ果てた者も眠っているというのに、これでは疲れが取れないのではないでしょうか。

 まぁ、この地響きの(とら)えられかたも今では大分変りましたけど。


 イースネルを守る結界の媒介となる魔石はどうやらもうすぐで魔力が枯渇するところだったようですわ。指揮を執っていたカーネルは、


 「…………ありがと、助かった」


 と、いつも以上に覇気がありませんでしたわ。周りの兵たちもかなり焦燥しているのかどいつもこいつも目が濁っていて覇気がありません。

 そんな時にも地響きがおきて、兵たちはさらに苦虫をかんだり、重いため息をついていました。つい先日のワタクシのようにアルフェルドが復活する前兆だと思い込んでるようでしたわ。


 なのでワタクシ、皆さんに教えて差し上げました。

 1年前にダンジョンの入り口に結界が張られた、それはダンジョン攻略の挑戦者が入ったということ。その後から黒い魔物の襲撃のせいでその事実を皆さん忘れているだろうこと。なんと未だに結界は張られていること。まぁこれは確かめたわけではなくユアナさんを信じてるからなんですけどね。

 この1年でその挑戦者は実力をつけ、今まさにアルフェルドの元まで辿り着こうとしている。この地響きはその挑戦者が戦っているせいで起きているものなのだと。ユアナさんの使い魔のことだけを伏せて伝えましたわ。

 話を聞いている人たちの顔が徐々に元気になっていくのが分かりましたわ。


 「皆さん、この地響きはアルフェルド復活の、絶望の前兆ではありません。我々にとって希望の地響きなのですわ!」


 「「「うおぉぉおおおお!!」」」


 雄たけびがあがり、さっきまでとは打って変わって目に光が戻りました。誰も疑わずワタクシの言った事を信じてくれたのは、藁にもすがる気持ちがそうさせたのかもしれません。

 

 それからその話は街中に広がり、皆に活気がでました。通話石を使い、各都市にも伝えたようです。これで士気は上がったはずですわ。


 「挑戦者が出てくるまで持ちこたえるんだ!」


 「まだだ、まだ希望はある」


 「結界媒介の魔石はどうだ」

 

 「今度の魔石は今使用しているものより高純度です。おそらく半月ほどはもつと思われます。使い魔召喚の日までは持つかと」


 「「「いぇぁああああ!!」」」


 もう、すごい元気になってしまいましたわ。今では地響きが起きるたびにどこかで雄たけびが聞こえてくるほどですわ。



 さて、これでワタクシの任務は終了……シャンから横取りした任務ですけどねオホホ。

 用意された部屋でお茶を飲みながら、さてこれからどうしようかと思い悩んでいました。

王都に戻って新しい仕事を探すか、ここで迎撃に加わるか、家族の元に戻るか。フェニーにどうしましょ? と意識を向けたら『休ませろ』という意識が流れ込んできましたわ。

 そうですわね、この半年間ずいぶん働いたと思いますわ。各地を飛び回り、物資を運んだり。その途中魔物から逃げる避難民の保護もしたりと大変でしたが、これも召喚が成功し、フェニーが居たからこその活躍ですわね。

 こんな事態に陥っているにもかかわらず少し嬉しくなりましたわ。不謹慎ではありますが、今ワタクシは世の中の役に立てていることに喜んでいました。


 「ユアナさん、あなたが召喚にこだわっていた気持ち、少し分かったような気がしますわ」


 フェニーの頭を撫でながら、隣の部屋に引きこもっている彼女のことを思いました。



 少し前、キャロル領のお父様に魔法石と物資を渡して王都に戻ってみたらユアナさんが部屋から出てるではありませんの。

 半年前から部屋に引きこもってなにやらしていたようですが、次は何をするのかしら? 何日かコッソリ後を追っていたらなにやら冒険者ギルドに出入りしていた。

 いつもの制服にとんがり帽子に右目を隠す眼帯。どうも黒髪を見られたくないようで髪をアップにして帽子に隠しているようですわね。今日もギルドの扉の前で立ち止まり両こぶしを胸の前にもってきて、フン! と小さく気合をいれるようなしぐさをする。


 ……可愛い。


 どうやら彼女は厳つい冒険者がたむろしている場所に行くのが怖いようですわ。普段彼女は隙を見せないように振る舞っているつもりのようですが、正直言って隠せてない。

 自分では風をきるようにスタスタ歩いてるつもりでも実際は肩を縮ませ、両こぶしを無意識に胸の前に添えている。その姿は夜、人気のない道を怖がりながら歩くような姿。なんとも庇護欲をそそる姿ですわ。身長も150センチほどしかない小柄で余計に可愛らしい。

 受付の人に何かを訪ねた後、いい返事ではなかったのか、はたから見ていても分かりやすいほどシュンと肩を落とす。用が無くなったのかそそくさと出ていこうとする。周りにいたおっさん冒険者が下卑た顔で手をユアナさんの肩に伸ばそうとしていた。

 その手をワタクシは掴んだ。


 ((あぶ)るぞ)


 という想いを込めて睨めば慌てて引き下がった。ワタクシが侯爵令嬢ということは周知の事実でもある上に肩には使い魔であるフェニックスも(がん)を飛ばしている。そんな人物に逆らおうという気概のある者はここにはいないようでしたわ。


 コッソリ後をつけてるとはいえかなり近づいていたワタクシに気づかずユアナさんはギルドから出ていく。それもそのはず、帽子のつばを両手で掴んでうつむき、顔を隠してるからなのですけど。

 まったく、魔法の模擬戦の授業の時は隙もなく手強いというのに、それ以外の時は隙だらけですわね。


 受付に彼女が何を訪ねていたのか聞いてみた。最初は守秘義務に反すると言われましたが、侯爵令嬢であることと同じクラスの親友だと言ったら教えてくれましたわ。どうやら彼女はイースネルへ行きたがっているらしく、頼み込むかたちで行く場合は金貨1枚が必要であり、運び手はシャン・スリングで今日決まったらしい。

 なるほど、おそらくお金が無くて沈んでいたようですわね。それにしてもこの受付のお姉さんは意地悪ですわね、何日も訪ねてきたユアナさんに今は居ないという事しか伝えず、いざ運び手が決まれば金貨1枚必要だと伝えるとは。前もって伝えておけばこの数日で用意できたかもしれませんのに。

 ただ単に抜けているのかしら?


 てことでシャンを見つけてサクッと仕事を横取りしてユアナさんに詰め寄りました。

 壁に追いやり手をついて顎に指をそえて顔を上げると少し怯えた目を潤ませていた。はふぅ、食べてしまいたい。

 どうも後払いで何とかならないかと言ってましたが行きたがる理由を教える条件を耳元に囁けば体をビクリと震わせた。ああ、いい匂い。う、いけない、これ以上はワタクシの鼻の奥が決壊する。

 かつてないほど密着したせいでユアナさんは涙目になってしまいましたわ。これはやりすぎたかしらと思いましたが、それでも載せてほしいとおっしゃりました。がぜんイースネルへ行きたい理由に興味が湧きましたわ。



 そしてその理由を聞いた時は、しばらく思考が停止しました。

 なんと1年前の召喚が実は成功していたうえに、我ら人族のライフワークといっても過言ではない、超最高難易度のアルフェルドダンジョンで使い魔が戦い続けているというじゃありませんの。


 話すだけでは信じてもらえないだろうと思ったのか、どこかドヤ顔でステータス画面も見せてくれました。そこには未契約使い魔の横に見たことのない文字で名前が載っていましたわ。


 この時のワタクシは情けなくも怯えていましたわ。サザンフォートはどこからともなく現れる黒い魔物に攻め入られ防戦一方。安全な土地は徐々に狭まれ、国庫にある魔法石もあとわずかだとお父様が言っておられましたわ。

 まだ希望はあるとはいいますが、新たな召喚程度ではこの状況を覆せるとは思えませんわ。ましてや神頼みなど。いくら占いで黒い魔物の出現を当てたとはいえ、この世界を創造したと()われる神竜が助けてくれるとはさすがに思えませんわ。


 そして同じように考える方たちは大勢いるとワタクシは思いますの。

 先日キャロル家へ物資を運んだ時。怯えて縋り付いてくる下の姉弟を抱きしめて慰めた時もこの二つの希望を語り聞かせましたが、元気が出たようには見えず、二人の笑顔はどこか泣き笑いに見えました。やはり信じ切れていないのか、それとも聡い二人のことだから、慰めているはずのワタクシが信じきれてないのが顔にでてしまい分かってしまったのかもしれません。希望を語る私の傍にいたお父様やメイド達も浮かばない顔をしておりました。

 何もかもを力ずよく、燃やし尽くす炎のような、全てを覆す決定的な希望が欲しい。そんなことを願っていましたわ。そんな時に新たな希望を知らされた。この希望をみんなに、家族に、下の姉弟に伝えられていれば……。


 「そ、そんな大事なこと、何故今まで隠していたのですか! そうすれば皆さんの不安が少しは解消できますのに」


 そんな言葉が口からこぼれていましたわ。封印されて300年。名のある召喚士と使い魔が幾度となく挑み、誰も攻略できなかったダンジョン。それをほぼ1年もの間一人で戦い続け、最終地点と言われているアルフェルドの元に到達しようとする者が居る。最後のアルフェルドを倒せるのかというのがボトルネックではありますが、それでも今まで恐怖の対象だったはずの地響きがなんとも力強く、頼もしいものに感じてしまいます。そんな素晴らしい情報を何故公表しないのか、この時のワタクシは本当に分かっていませんでした。


 「私を魔族と言って怖がり、避ける人たちがどうなろうと……正直どうでもいいです」


 「それに言ったところでどうなったでしょうね、魔族が召喚獣を呼び出した。これで人族を攻めてくるぞーとでも言われそうで怖いです」


 頭をガツンと殴られた思いでしたわ。彼女のことを分かっていたのならば言えるはずがありませんでしたわね。入園当初に何やらひどい目にあったという事は聞いたことがありましたわ。ひどいイジメにあっていたこと。闇の属性をもっている、漆黒の髪から魔族と言われ、オッドアイも気味悪がられ眼帯で隠したのだと。

 数年たってからワタクシも興味本位でちょっかいをかけてしまいましたわね。あなたがどんな思いで隠したのかも分からずズケズケと目をみせろだの言ってしまいましたわ。


 闇の属性をもった人族は居ない。居るとしたら魔族だけだと言われています。周りの大人たちもそう思っているのは確かですわ。それで恐怖したり避けたりする気持ちも分からないでもありません。でもねユアナさん。過去に魔族が何度か人族にちょっかいをかけてきたという歴史がありますが、もう何十年も前の話ですのよ? 実際に見たことも無いくせに魔族といっていじめてくるバカどものことなど無視すればよろしいのよ。他にも闇属性をもっていて隠している人も居るかもしれないじゃありませんの。

 入園の時にちょっかいをかけてきた男子はただ単に可愛らしいあなたにどう接すればいいか分からなかっただけではないのかしら。

 それがあなたの心を深く気づ付けてしまったのですわね。


 だからワタクシは言ってやりましたわ。魔族だなんて思っていないと。ほかの方たちはただイジメる材料が欲しかっただけ。

 ワタクシもイジメとまではいかないながらも陰口叩かれてますのよ? 侯爵令嬢という立場だからこそ話しかけてきますが上辺だけで本音が見えなくて気持ち悪いったらありゃしない。普段ニコニコと話しかけてくる子が陰で、あのグルグル髪ありえなーいなんてことを言っているのが聞こえてきたことがありましたわね。

 まったく、陰口は本人に聞こえないように言ってくれないかしら。ワタクシもあなたたちのことなどどうでもいいのよ本当は。


 ああ、どんどん愚痴になってしまいましたわね。


 なのでワタクシは友達にするならユアナさんがいいと思いましたの。広く浅い知り合いより掛け替えのない一人がいいんですの。孤立した者どうしなかよくなれないかとワタクシがんばっているつもりですのよ。

 1年ほど前の食堂でもあなたを見てクスクス笑っている者どもに殺気を飛ばして黙らせたり、ドアの張り紙も密かに燃やしたりしましたわ。

 教室では極力あなたに纏わりつき他の者どもを近づけさせないようにしました。今ではあなたをイジメたり陰口を叩くのはもっぱら女子だけですわ。その理由もあなたを気にしている男子に恋心を持った女子の嫉妬ですわね。その男子も近づけさせやしませんわ。ワタクシのユアナさんなのよ。


 私を避ける人は正直どうでもいいですって? 同感ですわ。ならあなたを避けずに近づくワタクシのことはどう思って下さるのかしら?

 あなたはワタクシを遠ざけたつもりなのかもしれませんがそうはいきませんわよ。フェニーに載せた条件とはいえあなたの秘密を知りましたわ。

 今現在あなたのことを一番よく知っているのはワタクシなのですわ。こんな嬉しいことがありますでしょうか。


 決めましたわ。とりあえずイースネルに残ってユアナさんと使い魔の彼が出てくるのを待ちましょうか。


 ワタクシは残りの紅茶を飲みほし隣の部屋に居るユアナさんのもとに向かいます。

 フフフ、嫌というほど付きまとってやりますわよ、それにここに到着してからフェニーに聞いたことを確かめなければね。


 ユアナさんがまた引きこもって何やらしている扉の前でワタクシは足を振り上げた。


 「ダラッシャァア! ですわ!」


 ズドーンと鍵のかかった扉を蹴破ると裁縫をしていたのか針と布を持ったユアナさんが驚いた顔でこちらを見ていた。


 「ユアナさん! 人の使い魔の中で発情していたってどうゆうことですの?!」


 「……ふぇえええ?!」


 キョトンとした顔が赤く染まって慌て始めた。

 フフ、可愛いすぎて食っちまいたいですわ。彼とやらが出てくるまで忙しくも楽しい日々になりそうですわ。




 ……ん? 彼? 使い魔を彼って言うことは人間ですの?

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