表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

半年後

地理の説明伝わりにくかったらスイマセン



 情報石ニュース   甲(9)の月 22日


 ・『黒い魔物が街を壊滅』……先日サザンフォートの北東に位置するコリンズ領にあるノールス街が黒い影に包まれた魔物の大群により壊滅されました。何度かの襲撃で街の防壁が劣化していたことと数が増えてきたことからコリンズ氏が事前に民達を避難させていた為、被害は最小限に止まっております。他の街でも相次ぎ目撃されるこの魔物は黒一色の姿であり、触れるだけで死に至るという極めて危険な魔物である。

 討伐の際には魔法などの遠距離攻撃に重視し、けして近接攻撃は行わないよう冒険者などに呼び掛けています。なおこの事態に女王陛下は魔法騎士、及び召喚士をコリンズ領に派遣。無所属の召喚士や冒険者へもギルドより依頼として申請し……。提供:冒険者ギルド



 ユアナたち生徒が召喚の儀を行ってから半年の月日が経った。この半年で国の情勢は変わりつつある。当初は森の奥で見かけるだけの魔物だったが、数か月前から街を襲いはじめた。


 サザンフォート王国の北部にはコリンズ領がある。

 コリンズ領は三角形の様な大地になっており、領主の街から北西、北、北東に幾つかの村を経由して馬車で約5日行った場所にはそれぞれ冒険者街がある。

 そして北にある最も盛んな冒険者街ノールスが黒い魔物により壊滅させられた。ノールス街の北からは広大な森と山になっており魔物たちの領域となっている。その森から先は開拓されていない。


 コリンズ家は建国からある一族で狩猟を生業としてきた。生まれてくる子はみな魔法の特性を持ち、必ず風の属性をもって生まれるという。


 もちろんコリンズ家の次男のカーネルも風の属性を持ち、さらに召喚の成功者だ。


 長年森から国へと流れてくる魔物を一挙に引き受け守護してきた功績を称えられ今では公爵まで上り詰めた。絶えることのない魔物の討伐により魔石の生産では右に出る領は無く、多くの冒険者や召喚士が集まり国を潤していた。


 そんな堅固な領にある一つの街が壊滅してしまった。

  

 コリンズ領の一番北にある街。最初は森の中を1~2体ほどが目撃されるだけだったが、月を追うごとに数を増やし街を攻め込むようになってきた。

現地を守る兵士や多くの冒険者たちの奮闘もむなしくとうとう一つの街が壊滅されたのである。このニュースは国中の人々を震わせた。


 コリンズ領の森の奥をずっと行った先には魔族が納める場所があり、当初覚醒種の魔物と思われていたが今では魔族が生み出した魔物なのではないかと噂され始めていた。まだ確証は無いが襲ってくる方角を思えば無理もないことだろう。今も続々と魔物は増え、このままでは領主の兵士だけではもたない可能性が出てきた為国も動き出した。


 魔族とは他種属には持たない闇の属性を扱い、戦闘力は高く他の種族を下に見ている者たちであり、我ら魔族こそが世界を支配するべきと考えている連中と思われている。過去にもサザンフォートだけではなく、荒野を挟んだ北西にある帝国領にも戦をしかけ多大な被害を及ぼしたとか。

 ここ数十年は大人しくしていたが、過去のこともあり噂でしかなかったものが、半年後では魔族の仕業だと誰もが思っていた。



 その魔族のせいで責められる人物が人間族の住むサザンフォート王国に一人居る。


 ユアナ・オープナー彼女であった。


 

 一日の授業を終えて私は真っ直ぐ自分の部屋へと帰っていた。その手にはいつも授業で使われる教科書が入っているバッグの他に、魔道具の製作に必要な沢山の資料や道具を重そうに持っていた。私は半年前に受け入れがたい話に思わず気を失ってしまいました。

 気づいた後は半狂乱になり、学園のことなどほっぽりだして有り金をかき集めスリング領にあるアルフェルドダンジョンの入り口へ向かった。

 行っても意味がない。結界の貼られた入り口を目の当たりにするだけだ。そう分かっていても行かずにはいられなかった。

 馬車で向かうのに数日かかるのですが、起きていたのか寝ていたのかすら覚えておらず、いつの間にかスリング領に着いていた。後から思うとあの時のテンションは酷かったかもしれない。また彼に申し訳ないことをしてしまった。

 案の定ダンジョンの入り口には結界が張られていた。それを見て私は愕然としました。闇色の複雑怪奇な小さな魔方陣が無数に入り口を覆うようにフワフワと浮いていたのです。

 人が扱う防御結界は単純な一つの丸い魔方陣です。だから最初は時間をかけて解読して破ってやろうと思っていました。

 このダンジョンは300年前からあるのです。結界を解読しようとする人は今までも居たことでしょう。でも今日まで解かれていないことからどれだけ難解なのか考えれば分かることでした。それすら分からないほど私は取り乱していたのです。

 思わず両膝を付いてまた泣いてしまいました。もう何もする気力も湧かず結界前で体を横たえいつの間にか眠ってしまいました。そこは街の外で魔物が出てもおかしくない場所。よく無事だったと今でも思います。


 でもその時夢を見たのです。彼が傷つきながらも戦いソードウルフを倒す姿を。

 そして彼は言った。その時私は彼の目の前に立っていた。彼からは私の姿が見えているのか見えていないのかは分からない。でも私に向かって、


 『圧倒的勝利とは言えなかったけど、君が見てる前提で言わせてくれ、必ずここから出て見せる。だから泣かないで待っててほしい』


 体が一気に熱くなった。夢の中でも私は泣いた。でもこれは悲しみではなくうれし涙。過酷な状況に置かれてなお私を励ましてくれた。

 泣いていてはだめだ。彼が泣かないで待っていてほしいと言ったんだ。だから次に会うまで絶対に泣かないと誓おう。グシグシと袖で涙を拭き、聞こえないだろうけど私も彼に言った。


 「うん!もう泣かない、だから無事に出てきてね! 」


 そして彼は背を向けてダンジョンの通路を歩いて行った。私は姿が見えなくなるまで彼を見送った。


 それからの私は急いで学園に帰り、無断で欠席したことをバーバラ先生に謝り、魔道具製作、製造の補助科を選んだ。寝る間も惜しんで勉強し、時に休日願いを出しギルドで魔物の討伐や素材採集の依頼を受けてお金を稼いだ。


 そして今日目的の品物を買い部屋に戻ってきたのです。ヒーコラと重い荷物を抱えてたどり着いた部屋の扉には何やら張り紙がされていた。


 (魔族は魔族領へ帰れ)(私の故郷を返せ)(学園に来るな)と他にも大小様々な罵詈雑言が書かれている。重い荷物を運んだせいでフゥフゥと息を吐きながらそれを醒めたジト目で読んでいく。

 数日前、コリンズ領のノールスを壊滅したのは魔族の仕業だということで、魔族の一員と勝手に思われてる私に向けてのメッセージだ。

 数か月前から魔族の仕業と噂され、当時入園した直後に受けてたイジメをまた私は受けていた。入園時はまだ13歳と子供だったせいか手加減をせず直接扉に罵詈雑言を書かれていた。他にも教科書を隠されたり、足を引っかけられたりとされたこともある。ある時を境に物理的なイジメはピタリと無くなり、代わりに避けられたり陰口だけになったけど。

 当時は気にしないふりをしながらも部屋で一人涙を流したが、今ではふ~んと流している。証拠が残らないように張り紙にしてるあたりちょっと大人になったかしら?と余裕を感じるほどです。それもこれも彼の存在のおかげです。

 剥がすの面倒くさいなぁ、後で剥がすかそのままにしておくか考えていると。


 ズーン……ズズーン……


 突然大地が震えた。僅かに振動するだけだけど、数日前から授業中に突然なりだしたものです。先生達はこれを地が震えるということで地震と言っていました。

 今まで経験したことのない人達はこれも魔族の仕業ではないかと思い、地震が起きるたび私を忌避の目で見てくる。それも無理もないことです。

 この地震が起きるたびに私は嬉しさのあまり口角を上げていました。そんな私を見た人は怖かっただろうな。異常なことが起きてるのに一人だけ笑ってるとか私でも怖いです。他の人たちはこの地震の原因が何なのか知らない。


 でも私は知っている。なぜならこの地震は彼がダンジョン内で大暴れして引き起こされる現象なのだからだ。


 アルフェルドダンジョンはスリング領の東にある大きな山脈内にあります。その山脈はずっと北に真っ直ぐ伸びて、王都の東を横切り、最北端はコリンズ領の東側まであります。

 山脈の標高は500メートルから1000メートルで連なっており、最北端は2000メートルあります。

 スリング領がスタートで最北端がゴール地点。つまりアルフェルドが眠っているのではないかと思われています。

 誰もが常識と思っていますが真実は誰にもわかりませんが、私だけがそれが真実で間違いないと思い始めています。

 この半年で彼はどんどん力をつけて一歩一歩進んでいます。そして少しづつ少しづつ近づいてくるのが分かるのです。

 まだ彼とは契約していない、でも近くにいると感じるのです。自室の窓からも遠目に連なる山脈が見えるので魔道具製作の合間に眺めては彼の無事を祈ってます。


 そして今、山脈の中間あたりから地震が起きているようです。彼の夢を見たのは数週間前のことでした。

その時は何体もいるトロール鬼のような魔物と戦っていました。トロール鬼とはゴブリンを大きくした感じの魔物です。

 身長2メートルから大きいのでは5メートルはある人型で巨大な棍棒や剣、斧を装備しており、動きは鈍重ですが力も耐久力もとても高いです。

 ギルドで定められた討伐ランクはCランク。種によってはBランクと高くなります。一撃でも攻撃を食らえば熟練の冒険者でも重傷を負うでしょう。でも夢で見た彼の動きは、もはや目にも止まらぬスピードで広場を駆け回り、気づけば何体ものトロールが吹き飛ばされていました。そして残りひときわ体格の大きい一体だけになり、彼は余裕綽々と近づいていきます。トロール鬼はこれ幸いと左手に持った斧を彼に振り下ろす。見ていた私は思わず身を強張らせました。ですが次の瞬間彼の左手が一瞬消えたようにブレたのです。

すると振り下ろしていたはずの斧が粉々に砕かれていました。呆然とするトロール鬼に彼は一言。


 『わりぃな』


 と言って次は右腕がブレました。ドンッッ!という広場中に響く音を響かせ、またもいつの間にかトロール鬼が吹き飛ばされていました。

 地と垂直に飛んでいった巨体は天井にぶち当たり光の粒子となり消えました。どんな攻撃をしたのか分からない。

 単純に拳で殴っただけなのだろうか。どれだけの力が込められていたのだろうかは分かりませんが、殴る前までは無かった彼の足元には、彼を中心に巨大なクモの巣状のひび割れができていました。攻撃の反動でできたのだろうか?


 着実に強くなっていくそんな彼を見て私の目はハートになっていたことでしょう。そして彼は元来た通路へ戻って行きます。

 すると通路前に来た時くるりとトロール鬼の居なくなった広場のほうに体を向け軽く頭を下げてから戻って行きました。

 ボロボロになって余裕の無いときはやりませんでしたが、この半年間で何度か見たことのある光景です。

私は最初あの行動が分からなかったのです。冒険者や召喚士達は魔物を討伐するのは当たり前であり、日々の糧にしかすぎません。もちろん私もそうでした。

 ですが、何度も彼のその姿を見て思ったのです。自分を高めてくれた相手に敬意を表しているのではないかと。


 修行を積んで初めてやっと倒した時は喜びはしゃいでいました。でもその魔物と戦い続け余裕を感じるころになるになるにつれ彼は少しづつ辛そうな顔になるのです。そして止めを刺すときは苦しまないように極力一撃で決めていく。そして言うのです。


 わりぃな……と。


 彼はとても誠実な人なのだろう。勝ち進んで行くのを見るのは嬉しい。でも彼は勝っても負けても辛い事には変わりないのだろう。

 こんな場所に送り付けたのは私だ。出てきたらこの身を尽くしてでも彼を慰めようと思いました。


 目が覚め教室に行くと生徒同士の会話で、昨夜大地が震えたのを感じたという内容が聞こえてきました。




 ズズーン……と未だに震えるのを感じながら部屋に入ります。部屋の中は半年前は女の子の部屋とは思えないほど質素な部屋でした。今は打って変わって研究者の部屋のごとく研究道具やガラクタで一杯です。でも整理整頓はちゃんとしていますよ。でもこの部屋を彼には見せたくないなぁ。


 そう思いながら作業用の机に荷物を置いて、やっと手に入れた品物を取り出します。


 小石ほどの大きさの小さな魔石です。でも純度が高くBランクの魔物から採取した高級品。そう、彼のために造るステータス魔石です。

 私たち生徒が付けている魔石はDランクであり低品質であればあるほど体から読み取れる情報は少なくなると言います。Fランクなどは名前と健康か健康でないかしか表示されないとか。なのでBランクであれば詳細なところまで表示されるうえに色々カスタマイズできます。

 私は今日から引き籠って製作に取り掛かろうと思っています。皮肉なことに先ほど見た(学園に来るな)の張り紙に従うことになっちゃうなぁ。


 製作に入る前に部屋着に着替え、未だ地が震える音を聞きながら窓辺に向かい山脈を眺めます。


 「ステータス」


 そしてステータス画面を開きます。テンションは8/10でまぁまぁかな? そしてスクロールしていきます。そして目に映る文字を見る。

 未だにその文字は読めないけど、半年前彼が最後に言ったことを思い出し祈るように呟きました。


 「頑張って、無事に出てきて、待ってるよ、タテチショータ」

読み手の方にちゃんと伝わっているか、頭の中に風景は浮かんでいるか、ただただ心配です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ