桜の国09
桜の国きっての大商都についた。
ただし嵐と一緒に。
厚い雲が空を曇天にし、「バケツをひっくり返したような」と表現できる雨が窓ガラスをバシバシと叩いていた。
ちなみに中世ヨーロッパを模した世界故かガラスは貴重なモノらしい。
そんな窓ガラスのある宿に泊まっているのだ。
宿泊料金……推して知るべし。
まぁ金を出すのはフォトンとツナデなんだけどね。
駄目だなぁ僕。
とまれ僕たちは四階のスイートの四人部屋に泊まるのだった。
ここなら僕と相部屋になる人間を選定しなくて済むので楽と言えば楽ではある。
「雨、止みませんね」
フォトンがそう言って八のカードをきる。
八切りだ。
リセットされる掃き溜め。
そしてフォトンは四のペアを切る。
「まぁこちらに来て初めての嵐ともなれば感慨深くもありますが」
ツナデが七のペアをきる。
「イナフはお兄ちゃんと一緒に寝れる機会が増えるからこのまま雨でもいいけどね!」
イナフが十のペアをきる。
「パパ! パパ! パパの番!」
ウーニャーが僕の頭の上で嬉しそうに尻尾を振り回す。
ペシペシと後頭部にウーニャーの尻尾が打たれる。
それを心地よく感じながら僕はキングのペアをきる。
「「「パス」」」
そしてリセットされる掃き溜め。
「なんか雨をしのいで移動できる方法とか無いの?」
僕は五のカードをきる。
「無いでは無いですが……」
フォトンがジャックのカードをきる。
「あるならそれで移動しましょうよ」
クイーンのカードをきりながらツナデ。
「馬車を借りればいいんじゃないかな? パス」
とイナフ。
「馬車ね……」
なるほどと思いながら僕はエースをきる。
「どうせ馬車に乗るなら護衛で乗った方が安上がりですよ。なんならこの後冒険者ギルドに行きますか? 商人の馬車の護衛なんてありふれていますよ?」
二のカードをきりながらフォトン。
「「「パス」」」
と僕たちは言う。
掃き溜めがリセットされる。
ちなみに今宿屋のスイートルームで何をしているのかと言えば大貧民だ。
プラスチックが木火土金水のどの属性に当てはまるのかわからなかったから木属性の厚紙のトランプである。
ちなみに僕の魔術ね。
そんなこんなでこっちの世界にトランプという文化を取り入れた僕はフォトンとイナフとウーニャーを驚かせた。
カードゲームという概念が無かったらしい。
閑話休題。
「冒険者ギルド?」
「はい。冒険者ギルド」
「ゲーム的要素が増えたなぁ」
本音でぼやく僕。
「ていうかそんなシステムがあるなら先に言ってよ」
「光の国ではしがらみが多いから名乗るわけにもいきませんでしたし……それ以降は慎重をきさねばなりませんでしたし……」
「でも冒険者ギルドは無茶だとイナフは思うなぁ」
「何故です?」
これはツナデ。
「だってお兄ちゃんは優男だしイナフもフォトンお姉ちゃんもツナデお姉ちゃんも女の子だし……誰が護衛に選ぶって言うの?」
なるほど。
実際の力量はともあれ、見た感じでは冒険者とは思われないだろう。
それこそ虫も殺せない集団だと思われても仕方ない。
「じゃあ純粋に馬車を借りるっていうのは?」
「高貴な身分じゃないとそれはそれで……」
「フォトンは宮廷魔術師じゃん」
「多分もう蜘蛛巣のネットワークで私とマサムネ様はお尋ね者になっていますよ」
「…………」
それはゾッとするなぁ。
僕はジョーカーをきる。
そして五のカードをきってあがった。
大富豪である。
「ウーニャー! パパ一番!」
ペシペシと僕の後頭部を尻尾で叩くウーニャー。
そんなウーニャーの頭を撫でてやると、
「えへへぇ」
とウーニャーは脱力した声を出すのだった。
閑話休題。
「でもそれなら冒険者ギルドで実力を示せばいいんじゃない?」
「それも一案ですが……」
フォトンはどこまでも消極的だ。
ちなみに単純な身体能力なら僕>ツナデ>イナフ>フォトンである。
魔術や遁術を加えるならばフォトン>僕>ツナデ>イナフとなるだろう。
それほどまでにフォトンの魔術は強力なのだ。
身を以て思い知ったしね。
ともあれ最弱のイナフであっても山賊の集団に後れをとるとは思えない。
ならば馬車の護衛を承っても問題ないと思うんだけどどうだろう?
「まず問題はありませんが……やはり信用度と金銭取引で不利になるのは否めませんね」
「別に金は有り余るほど持ってるからいいじゃん」
「それは……そうですが……」
「じゃ今日までこの宿に泊まって、明日晴れていても嵐であっても冒険者ギルドに顔を出すってことで」
「「「はい」」」
フォトンとツナデとイナフは僕の言葉に頷いた。