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桜の国07

「堕天使とは、大神デミウルゴスが人類に向ける愛憎……その内において憎しみが具現化した存在です」


「デミウルゴスは人間を憎んでるの?」


「決して憎んでいるわけではありません」


 諭すようにフォトン。


「愛があるところに憎しみが共存するのは当然のことです。デミウルゴスは確かに人類を愛しているのですよ。ですから同時に憎くもあるんです」


「愛憎入り混じってるってこと?」


「そう捉えてもらって構わないかと」


「堕天使が人類に対する憎しみを持っている以上、堕天使は人類に被害をもたらすために動くんだよ」


 口を挟んできたのはイナフ。


「そして天使がデミウルゴスの人類に対する愛を受け継いでいる以上、天使は人類を守るために動くんだよ」


「天使が愛を、堕天使が憎悪を、それぞれ具現化する形でこの世界に現れるってことでいいのかな?」


「合ってますよ」


「合ってるね」


 僕の疑問にフォトンとイナフは肯定した。


「じゃあ、あの堕天使は……」


「ええ」


「この村の人間を殲滅するまで止まらないね」


 最悪だ。


「ラ――――――!」


 と堕天使は吼える。


 堕天使の翼から切り離された羽が炎の槍となって雨霰と降り注ぐ。


 それらは全てフォトンに向けられるのだった。


 しかしてフォトンは平然と突っ立ったままで堕天使の炎の雨を受け止めるのだった。


「あの堕天使……フォトンの魔術で軽快に吹っ飛ばせないの?」


「やってもいいですけど……この村がクレーターになりますよ?」


「やめて」


 本心から僕が言う。


 結局こうするしかないのか。


 僕はオーラを展開すると堕天使をオーラの中に含ませる。


 そして両手で複雑な印を結んで術名を発する。


「刃遁の術」


 次の瞬間……堕天使を幻覚の斬撃が襲うはずだったが……しかして、


「…………」


 堕天使は何の痛痒も感じなかった。


「あれ?」


「無駄だよ。お兄ちゃん」


「なんでさ?」


「天使は自己を持ってないの。ただデミウルゴスの命令通りに動く存在だから」


「哲学的ゾンビってこと!?」


「その『てつがくてきぞんび』って云うのはわからないけど……天使は自意識を持っていないんだよ。だからエルフ魔術は効かない」


 自意識を持っていない……。


 哲学的ゾンビ……。


 たしかに遁術は相手のクオリアに干渉することで発現する。


 哲学的ゾンビには……クオリアを持ち合わせていない存在にとっては……無用の長物と言っても過言ではない。


「じゃあどうやって倒すのさ!?」


「天使はエネルギー体だから等価の害的エネルギーで相殺すれば消えるよ」


 なるほどね。


 攻撃あるのみか。


 そして僕とツナデとイナフとで攻撃魔術を堕天使目掛けて乱発する。


 しかして堕天使は翼で風を打ち空中で器用に僕たちの魔術を避けるのだった。


「いやぁ……大変ですね」


 気楽そうにフォトンが言う。


 自身の魔術が使えないとはいえ、その気楽さは憎たらしい。


 まぁ愚痴っても始まらないんだろうけどさ。


 何発か僕たちの魔術が堕天使に当たることもあったけど、それでも相殺されている感触は無い。


 一体どれほどのエネルギーを保有しているのか想像もつかないのだ。


 堕天使はというと攻撃をくわえる僕たちも敵性と認識したのか炎の羽をこちらに放ってくるのだった。


 それを避けながら僕たちは魔術を撃ちつづける。


 しかしてはたまたやっぱりと言った具合に堕天使の含有するエネルギーに対して僕たちの魔術では出力が小さいらしい。


 もっとスカッと堕天使を消滅させうる手段は無いものか。


 僕がそう思った瞬間、月夜の空に虹が閃いた。


 青赤黄白黒金銀の七色を混じり合せた閃光が堕天使を襲った。


「ラ――――――!」


 と甲高い悲鳴を上げて堕天使が消滅する。


 それほどのエネルギーが堕天使を対消滅へと導いたのだ。


 虹の閃光の元を辿った先には宿屋の屋根があった。


「ウーニャー! さっきから爆音がうるさい! ウーニャー寝れないじゃん!」


 虹色の鱗を持つドラゴン……ウーニャーが不機嫌そうにそう言うのだった。


「「「「…………」」」」


 僕たちは沈黙するしかない。


 ウーニャーの吐息は神の使いである堕天使を一発で消し飛ばしたのだ。


 驚くなという方が無茶だ。


 ウーニャーはパタパタと翼を羽ばたかせて飛んで来て、僕の頭上に体を安置する。


「パパ。ウーニャーと一緒に寝よ?」


 どこまでも無邪気にウーニャーは言うのだった。


 ウーニャーのドラゴンブレスは七属性全てを兼ね備えたソレだ。


 堕天使と言えどデミウルゴスの取り決めた七属性の縛りからは避けられないのだろう。


 そういう意味ではウーニャーは堕天使に対するジョーカーとなり得る。


「ウーニャー……助かったよ」


 そう言って僕は僕の頭に乗っているウーニャーを撫でる。


「ウーニャー何かした?」


 不思議そうにウーニャーは言う。


 ウーニャーにとっては堕天使を消し去ったことなど気に留めることでもないのだろう。


「ううん。何でもない。それより一緒に寝ようねウーニャー」


「ウーニャー!」


 ウーニャーは嬉しそうに翼をぱたつかせる。


 それがとても愛おしかった。


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