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桜の国06

「天使……」


 僕はそう呆けたように呟いた。


 そう。


 天使だった。


 天使がそこにはいた。


 人型で……ツナデに勝るとも劣らない美貌を持ち……一枚布で全身を覆い……背中の翼で風を打ち空に浮いている。


 これを天使と呼ばずに何と呼ぶ。


 天使の周りは蛍火のような燐光が浮かび上がっては消えていき、消え去っては浮かび上がっていた。


 荘厳な光景だ。


 桜と月にこの上なく似合う高貴な存在に思えた。


 しかしそれは僕とツナデだけらしく、


「アガペカウンター……!」


 フォトンと、


「なるほど……それでゴブリンとサイクロプスが……」


 イナフは戦慄していた。


 アガペカウンター?


 僕がそれを問う前に、


「ラ――――――!」


 オペラ歌手にも劣らぬ高音の声を張り上げて天使は動いた。


 天使の背中の翼から十数本の羽が切り離されると、その羽は炎を纏って炎槍となり、執行者に降り注いだ。


 執行者は避けようともしなかった。


 灼熱の弾丸を一斉に浴びて骨も残らず燃え尽きる。


 あまりに圧倒的。


 あまりに衝撃的。


 そしてあまりに神威的だった。


「あの天使は何なんですの!?」


 ツナデは驚愕を隠そうともしていない。


 それほど威圧的で異質な存在なのだ……天使は。


「天使です。大神デミウルゴスの使いです。聖なる者です」


 フォトンが言う。


「人に危害を加えるからアレはアガペカウンター……堕天使フォーリンエンジェルだね」


 イナフが言う。


「堕天使!?」


 僕は素っ頓狂な声を上げた。


「はい。堕天使です」


 力強くフォトンは頷く。


「アガペカウンターって何さ!」


「言葉の通りアガペに対する反逆者のことです」


「わかんないから!」


「そもそも天使というモノは天使であろうと堕天使であろうと大神デミウルゴスの遣わされた存在なのです。私たちはアレをマンデミウルゴスインタフェースと呼んでいます」


 マンデミウルゴスインタフェース?


「わからない」


 と言う僕に、


「わかっていますよ」


 とフォトンは返す。


 その間にも天使……いや、堕天使か……は僕たちに狙いを定めるのだった。


「おいおいおいおい……!」


 僕が冷や汗を流すのも気にせず、


「ラ――――――!」


 と堕天使は吼える。


 そして翼から羽を切り離し、炎を纏わせてこちらに目掛けて降り注がせる。


「どわあああああああああああっ!」


 と叫んで炎の豪雨を避ける僕。


 それはツナデもそうだったし……イナフもそうだった。


 一人フォトンだけがその場につっ立ったまま炎の雨を受け続けた。


 まぁ無限復元がある以上問題ないのだろうけど。


「ラ――――――?」


 甲高い声を上げながら堕天使はフォトンという異質の存在に意識を向けるのだった。


「堕天使って何!?」


 僕は問う。


「アガペカウンターって何さ!?」


 問い続ける。


 答えてフォトン。


「天使とは大神デミウルゴスの人間に対する愛憎が生み出した人間とデミウルゴスとを繋ぐインタフェースです」


「だからそれじゃわからないって!」


「つまりデミウルゴスにとっての……そうですね……触角のようなものだと思ってもらえればわかりやすいですか?」


「触角?」


 僕の問いに、


「はいな」


 フォトンは頷く。


「高次の空間にいるデミウルゴスがこの世界に対して遣わし触角として機能しうる存在……それを指して天使と呼ぶのです」


「じゃあ何であの天使は攻撃を加えてくるのさ!」


「堕天使だからです」


 堕天使……。


 フォーリンエンジェル……!


「つまり神に対する反逆者ってこと?」


「いいえ? 堕天使も神の使いですよ?」


「だって……それじゃあ……!」


 それならば……!


「デミウルゴスは人間を殺したいと思っているの!?」


「一面的にはその通りです」


「一面的?」


「はい。一面的には。先にも言いましたが天使はデミウルゴスの人間に対する愛憎が具現化した存在です。つまり人間を愛するデミウルゴスの感情と……人間を憎むデミウルゴスの感情が……両立しているんです」


「じゃあ……堕天使って……!」


「その通りです」


 フォトンは力強く頷いた。


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