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桜の国05

「はい。これで元通りです」


 フォトンはイナフの体に触れてそう言った。


 無限復元が適応されたのだろう。


「すご……」


 イナフはしきりに驚いた。


「体の痛みが一瞬で消えた……」


「まぁそれが私の無限復元だから」


 あははとフォトンは笑う。


「それにしても……」


 とこれはツナデ。


「お兄様……手合せならツナデがいつでもして差し上げますものに……」


「ツナデとはあっちの世界でだいぶやり尽くしたからね」


「むぅ……」


 とツナデは不満げだった。


「けれどもお兄様は体裁を気にしていつもツナデに華を持たせてばかりではありませんでしたか」


「そりゃ本家筋が馬の骨に負けるわけにはいかないでしょ?」


「こちらの世界でならお兄様の全力が見られるということですか?」


「どうとでも」


 そんな優劣に興味はない。


「お兄ちゃんすごく強いんだね……イナフの半分しか生きてないのに……」


「まぁ鍛えてるからね」


 当たり前のことを僕は言った。


 ちなみに場所は村の宿屋の裏手だ。


 月の出る夜。


 桜散る夜。


 そこに僕とフォトンとツナデとイナフはいた。


 ちなみにウーニャーは宿で寝ている。


 ツナデが口を開く。


「お兄様。本気でツナデと対峙してくれませんこと?」


「骨の一本でも覚悟が出来てるのならそれもいいけどさ」


「ちょうどよく無限復元がいるのですから問題に……」


 ならないでしょう、という言葉は発されなかった。


 ツナデの声をかき消すように悲鳴が聞こえたからだ。


 女性の絶望に染まった声だ。


 次の瞬間、


「「「……っ!」」」


 僕とツナデとイナフはオーラを展開した。


 ツナデとイナフは直径一キロ、僕は直径二キロのオーラの展開だ。


 そしてだいたいの要領を得る僕たちだった。


「何かわかったんですか?」


 オーラの広げ方を知らないフォトン特有の質問と言えただろう。


「ゴブリンが十体。それから一つ目の巨人が一体。この村を襲っている」


「一つ目の巨人……サイクロプスですね」


 サイクロプス……。


 まぁデミウルゴスにポセイドン……ドラゴンにエルフにゴブリンがいるんだ。


 サイクロプスがいてもおかしくはない。


「ともあれ放ってはおけないね。様子を見にいこっか」


「それは賛成ですが……多分出る幕は無いと思いますよ?」


 走ってゴブリンとサイクロプスに近付きながら僕はフォトンの疑問に疑問を返す。


「何ゆえ?」


「騎士と執行者のバーサスがこの村には滞在していましたから。確認済みです」


「騎士……はともかくとして……」


 そして月光の冴えわたる明るい夜にゴブリン十体と巨人サイクロプス一体を見つけるのだった。


 そしてそれと戦っている二人の戦士も。


 一人は軽装備の騎士で、もう一人はカソックを着ていた。


 カソックを着ている方は魔術師らしく、


「我光を以て大神デミウルゴスに願い奉る。聖釘」


 そう世界宣言をして釘……聖釘と言っていたね……を生み出してゴブリンに投げつける。


「それで? 騎士はともかくとして執行者って何さ?」


「広義には魔術師に属するカテゴリーです。その中でも光属性の魔術……聖釘を扱い大神デミウルゴスの名の下に異端狩りを行なう者を執行者と呼ぶのです」


「あっちの世界での魔女狩りですね」


 これはツナデ。


「いや。厳密には違うんじゃないかな? こっちの世界の魔術は向こうの世界と違って大神デミウルゴスを介したソレだからね。魔術は異端じゃない」


「その通りです」


 これはフォトン。


「特に亜人を中心に狩るのが執行者の仕事です。人間以外の霊長類を根絶することを目的とした集団ですよ。神威執行機関は……」


 神威執行機関ときたか……。


 まぁあえて突っ込むまい。


 そうこうしている間にも村に駐在している騎士と執行者はゴブリンを殲滅してサイクロプスに襲い掛かった。


 魔術で聖釘を生み出してサイクロプスに投擲する執行者。


 しかして巨体の割に軽いフットワークでサイクロプスはそれを避ける。


 そして手に持った棍棒で執行者に襲い掛かる。


 そんな騎士と執行者とサイクロプスの戦いを眺めながら僕は問うた。


「光属性って要するに時間関係だよね? 聖釘もそうなの?」


「はい。聖釘は刺された対象の傷口の時間を加速させて治癒不可能な傷を負わせるマジックアイテムです」


 なるほどね。


「無限復元でも無理?」


「いえ、無限復元の方が優先されます」


 ふむ……。


 僕が思案する間にも騎士はサイクロプスのアキレス腱を断ち切ってその体勢を崩す。


 そして執行者が聖釘をサイクロプスの頭部に突き刺した。


「グ……ギャアアアアアアアアッ!」


 サイクロプスがそう吼えて死に至るのだった。


 たしかにフォトンの言った通り僕たちの出番は無かったようだ。


 そう僕が安堵した瞬間、空から炎の濁流が降ってきて騎士を焼くのだった。


「「「「……っ!」」」」


 驚愕する僕たち。


 炎の降ってきた月夜の空を見上げる。


 そこには天使がいた。


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