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桜の国04

「夜の散策?」


 イナフは僕にそう問うてきた。


「夜桜が綺麗だもんね」


 たしかに永久桜が月光に冴えわたるのは見ていて風流ではある。


「けど残念」


 僕は肩をすくめる。


「訓練の一環で出てきただけだよ」


 弓張り月を見ながら僕はそう言った。


 金色の髪に碧眼を備えた美少女……ハーフエルフのイナフは逆立ちのままでの腕立て伏せを止めて立ち上がる。


「じゃあお兄ちゃん」


 とイナフが提案する。


「イナフと手合せしない?」


「それは構わないけど……」


 僕はガシガシと後頭部を掻く。


「じゃ、そういうことで……」


 コキッと首を鳴らすと、


「いくよお兄ちゃん!」


 イナフは加速した。


 速度は中々。


 訓練を積んでいるだけはある。


 けど僕にしてみればまだアラがある。


 身を低くして間合いを詰め蹴り上げてくるイナフに対して、身をのけぞらせることで攻撃を回避する僕。


 僕とイナフが一回転する。


 イナフの手刀が僕を襲った。


「お兄ちゃん」


「何さ?」


 イナフの手刀をいなしながら僕は答える。


「お兄ちゃんはフォトンお姉ちゃんとツナデお姉ちゃんとイナフとウーニャーの誰が好きなの?」


 僕は合気の要領でクルリとイナフを回転させる。


「ツナデは僕の世界での恩人だし」


 イナフが回転に適応するのを見届ける。


「フォトンも僕を異世界に逃げさせてくれた恩人だし」


 イナフは地に足をつけると回し蹴りを放った。


「ウーニャーは僕を慕ってくれているしね」


 イナフの回し蹴りをバックステップで避ける。


 ジリジリと間合いを測る僕とイナフ。


「じゃあイナフは?」


「僕と同じく血統によって排斥されている身という意味では同情の余地は十二分にあるとは思うけどさ……」


 イナフが間合いを詰める。


 繰り出してきたのは手刀。


 一閃、二閃、三閃。


 全て払う。


 どうやらイナフは手刀がメインの戦い方らしい。


 多少未熟だけど並大抵の人間になら効果的だろう。


「じゃあ聞き方を変えるね」


 身を低くして足払いをかけるイナフ。


 僕は横にそれることで足払いを避けた。


「お兄ちゃんは私たちの中で誰が一番好き?」


 そう言ったイナフは、


「……っ!」


 僕を見失ったことに驚いた。


 僕が一瞬でイナフの背後に回ったからだ。


「一番を決めるなんておこがましくてできないよ」


 そんな僕の声に反応して、イナフは背後に裏拳を放つ。


 僕はそれを受け止める。


「でもイナフもフォトンお姉ちゃんもツナデお姉ちゃんもウーニャーもお兄ちゃんのことが好きだよ?」


「そうだねぇ……」


 僕はイナフの裏拳を受け止めた手でイナフの腕を掴み上空へと放り投げた。


「僕の好意の五割はツナデで占められているね」


 イナフは空中で器用に身を捻って体勢を整える。


「半分はツナデお姉ちゃんを想ってるってこと?」


「否定はしないよ」


 落下してきたイナフに蹴りをくわえる。


 防御を固めてその蹴りを受けると、衝撃のままに真横に吹っ飛ぶイナフ。


 こうして間合いはまた広がる。


「ツナデは向こうの世界で唯一僕の味方だった人間だからね。僕に優しさを与えてくれたただ一人の人間だ」


「じゃあイナフとフォトンお姉ちゃんとウーニャーは?」


 イナフは間合いを詰める。


「フォトンが三割、イナフが二割ってところかな?」


「ウーニャーは?」


「埒外だよ。好意的ではあるけどね」


「じゃあ一番目があるのはツナデお姉ちゃんってこと?」


 手刀を繰り出してくるイナフ。


 僕はそれを受け流す。


「そういうことになるのかな?」


 僕は手刀を返す。


 イナフはバックステップでソレを避けた。


「ちょっと嫉妬……」


 ムスッとしてイナフ。


 そしてまたイナフが襲い掛かる。


 そんなイナフの襲撃を軽くあしらって僕は言う。


「こればっかりはしょうがないよ。ツナデは僕にとって特別な人間だからね」


 そしてトンとイナフの胸板に拳を触れさせる。


 同時に「ふっ」と呼気一つ……寸勁を放つ僕。


「が……っ!」


 と息を吐き出して吹っ飛ばされるイナフだった。


 僕は言う。


「決着かな?」


「ですね」


 イナフもそれを認めた。


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