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桜の国02

「それにしても……」


 僕は煙をフーッと吐く。


 そして感嘆として言った。


「壮観だね」


 何がって?


 桜の国の在り方がだよ。


 逆方向へ行けば竜の国の山道に続く桜の国の街道を僕たちは東へと進んでいた。


 そこは桜花の乱舞だった。


 桜吹雪だった。


 三百六十度見回しても……どこもかしこも桜の樹だらけ。


 風が吹く度に桜の花弁が散って舞い踊る。


 桜の国というだけのことはある。


 どこまでも桜の続く道は風情と情緒の混在した素晴らしい風景だった。


「桃源郷がこんな感じなのかな?」


 僕が煙をフーッと吐いて、そんな感想を口にすると、


「桃源郷ならぬ桜源郷ですね」


 ツナデがクスリと笑ってそう言った。


 僕は煙を吸って吐く。


「いい季節に来たってことかな? 桜の乱舞が見れるなんて」


「それは違うよお兄ちゃん」


 僕の感想をイナフが否定する。


「違うって何が?」


「どんな季節に来ようとこの風景に変わりはないよ?」


「へ?」


 ポカンとしてしまう僕。


「どゆことさ?」


 答えたのはイナフではなくフォトン。


「桜の国の桜は一年中どんな季節の日も咲き続けるんです」


「一年中桜が見れるってこと?」


「そういうことですね」


 コクリとフォトンは首肯する。


「故に桜の国の桜は永久桜とこしえざくらと呼ばれています」


「永久桜……ね」


 桜の乱舞を見ながら僕はスーッと煙を吸う。


「もしかしてこの国って永久桜に浸食されてる?」


「はい」


「ふーん」


 煙をフーッと吐く僕。


「無論のこと村や町……特に王都は伐採と開発が進んでいますけど……それでも永久桜の浸食に四苦八苦しているみたいですね」


「桜が支配する国ってことかな?」


「はい」


 やっぱりフォトンはコクリと首肯する。


「永久桜との共存……それがこの国の第一義です故」


「なるほどね」


 僕は薬効煙を嗜む。


 ちなみに言ってなかったけど地面も桜色だ。


 散っては咲き続ける桜の花弁が地面を覆い隠して……本当に空間的に桜色を演出してみせている。


「良い国だね」


 率直に僕が感想を述べると、


「ですね」


 とフォトンが同意し、


「観光旅行という意味ではそうでしょう」


 とツナデがひねくれ、


「でも桜ばっかり見続けたらその内飽きると思うな」


 イナフが真実を突きつける。


 ま、否定はしないけどさ。


「ウーニャー! ウーニャーもいい景色だと思うな!」


 僕の頭にチョコンと乗っているウーニャー。


 ポワポワとした声でそう言う。


「ひさかたの、光のどけき、春の日に、しづ心なく、花の散るらむ……なぁんてね」


 クツクツと笑って僕は煙を吸う。


「「「?」」」


 フォトンとイナフとウーニャーが不思議がる。


「良い詩ですね」


 一人理解しているツナデが微笑んだ。


「詩……ですか?」


 問うフォトンに、


「うん」


 僕は答える。


 煙をフーッと吐いて言葉を続ける。


「和歌って呼ばれる僕とツナデの世界の文学。五七五七七のリズムに合わせて森羅万象を表現する芸術だよ」


「和歌……」


「そ」


「パパの世界にも桜があったの?」


「うん。まぁね」


 僕は煙をプカプカ。


「特に僕とツナデの住んでいる国は桜を愛でる文化に特化していてね。花見って行事もあるくらい」


「花見?」


「春に咲いて春に散る刹那の桜を見ながらお酒を呑もうっていうイベントのこと」


「風流だね」


「散るが定めの桜故にその一瞬を楽しむんだよ」


「ウーニャー!」


「そういう意味では四六時中咲かれると……イナフの言葉じゃないけど……有難味は少ないなぁ」


 不平不満を言ってもしょうがないんだけどさ。


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