表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/512

桜の国01

 前にレッドドラゴンに乗った時も思ったけど、翼を羽ばたかせているにしてはドラゴンの体は揺れない。


 五十メートルを超える巨体のドラゴン……金竜王の背に乗って僕は思考を冴えわたらせていた。


 通常羽ばたきというモノは振動を伴う。


 上から下へと翼で風を打ちつければ身体は逆に上昇する。


 下から上へと翼を持ち上げれば先ほどではないにしても身体は下降する。


 羽ばたきはこの二つの運動から成る。


 だというのに金竜王……ゴールドドラゴンの身体はいっさいまったく微塵も揺れるということが無かった。


 フォトン曰く「魔術です」とのこと。


 ともあれ。


「ツナデ」


「何でしょうお兄様?」


「雲海をみるとさ」


「はいはい」


「ワンピの空島ってあるんじゃないかって思わない?」


「あー……」


 ツナデは肯定も否定もしなかった。


 僕は金竜王の背中から眼下に広がる雲海を眺めていた。


 なんとなく金色の鱗を一枚記念に引っぺがそうかなどと不埒な考えもよぎったけど、逆鱗に触れてもアレなのでそれは我慢。


「世界樹を登った時も思ったけど眼下に雲が広がるっていうのは一種の高揚感さえ覚えるね」


 答えたのはフォトンでもツナデでもイナフでもウーニャーでもなかった。


「なんと。マサムネ様は世界樹に登ったことがおありで?」


 言葉を発したのは金竜王。


「まーねー」


 僕は軽く肯定。


「世界樹の実は美味しゅうございましたか?」


「格別に。ていうか雲の上を飛べるんだから金竜王だって世界樹に行こうと思えば行けるんじゃないの?」


「可能か不可能かで言えば可能ですが……」


「なら行けばいいじゃん」


「世界樹はエルフの聖域です故……」


「思想で差別するのはインテリの悪い癖だと思うな」


「それはごもっとも」


 金竜王は「グルル」と喉を鳴らした。


 苦笑なのだろう。


 僕はといえば、


「あー、良い風……」


 と呟いた後、ふと思いつく。


 そして想像創造。


 後の世界宣言。


「木を以て命ず。薬効煙」


 宣言通りに世界が変質して僕の手に薬効煙が生まれる。


 さらに想像創造。


 後の世界宣言。


「火を以て命ず。ファイヤー」


 宣言通りに世界が変質して僕の手に炎が生まれる。


 口にくわえた薬効煙を炎に当ててスーッと吸う。


 薬効煙に火がつくと同時に炎をかき消す。


 煙を楽しむ僕。


「はふ」


 落ち着く。


「ウーニャー。パパは本当に薬が好きだね」


 多分に誤解を受けそうなウーニャーの言に、


「中毒患者だね」


 僕は笑って答える。


「そろそろ桜の国との国境線です。下降しますよ」


 金竜王がそう言うと、羽ばたきを止めて滑空に入った。


 雲の中を突っ切って眼下に大陸を捉える僕たち。


「「……っ!」」


 僕とツナデが絶句した。


 竜の国と桜の国の国境線は空からなら明確に確認できた。


 竜の国は山岳国家だ。


 故に緑が多く山には木々が生い茂っていた。


 対して桜の国は平野……らしい。


 フォトンに聞いた話だけど。


 ともあれ明確だった。


 桜の国は一面咲き誇っている桜の樹に埋め尽くされて桜色をしているのだから。


 壮観な光景だった。


 そして落下と減速を同時に行ない金竜王は緑色と桜色の境界線緑色側に降り立つのだった。


 ていうか「このまま金竜王に乗って桜の国の王都にまで行った方が早いんじゃあ」という僕の案は「ドラゴンは立派な戦力だから国境を越えると国際問題になる」と一蹴された。


 そんなものかなぁ?


 僕は煙を嗜むと、金竜王の背中から降りる。


 ウーニャーがパタパタと羽ばたいて僕の頭にとまる。


 続く形でフォトンとツナデとイナフも金竜王の背中から降りるのだった。


「ではマサムネ様……ウーニャー様をよろしく頼みます。万が一のことがあれば私がマサムネ様を殺しに行きます故」


 そこまで責任は持てないなぁ……。


 言わないんだけどさ。


「大丈夫! ウーニャー強いよ!」


「はい。ウーニャー様は古今無双の強者にございます」


 ウーニャーを持ち上げる金竜王は、それからフォトンへと視線をやり、


「火竜王の復元、まっこと有難くございました」


 頭を低くする。


「いえ。人として当然のことをしたまでです」


 フォトンが格式張ってそう言うと、


「では」


 と言い残して金竜王は飛び去っていくのだった。


 そして僕たちは桜の国へと入国する。


 僕は煙をスーッと吸ってフーッと吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ