光の国04
「とりあえずお茶にしませんか?」
と提案してくるフォトンに、
「そうだね」
僕は頷く。
現状を受け入れる前に一服くらいはしたい。
「そう言えばマサムネ様の世界にタバコや異法ハーブを嗜む文化はありますか?」
「あるけど犯罪だね」
「マサムネ様は嗜みますか?」
「薬効煙は毎度吸っていたけど」
「薬効煙?」
クネリと首を傾げるフォトン。
薬効煙は諸々のハーブを調合した煙を吸うタイプの精神薬だ。
オーラを用いて忍術を使う際に精神を統一するために使われる。
もっとも、そんなことをフォトンに説明するのも面倒だけど。
「ともあれ」
僕は言う。
「お茶を出してくれるんでしょ?」
「はいな」
にっこり笑うとフォトンはゴシック調のテーブルに着いて、チリンチリンとベルを鳴らすのだった。
次の瞬間、コンコンとノックがあり、
「失礼します」
と水色の髪を持ったメイドが入ってきた。
どうやら僕の召喚された異世界は髪の色が多彩らしい。
水色の髪のメイドは、
「フォトン様……」
とフォトンを呼ぶ。
「如何様な事案でございましょう?」
「お茶が欲しいです。二人分」
「承りました。しばしお待ちください」
そう言って一礼するとメイドさんは部屋から出ていった。
「本物のメイドなんて初めて見た……」
僕は驚愕せざるを得なかった。
エプロンドレスにメイドカチューシャ。
メイドさんがそこにいたのだ。
「そちらの世界に使用人はいないのですか?」
これはフォトン。
「まぁいはするけど本物はお目にかかれないね」
特に日本では。
メイド喫茶くらいか。
本物ではないけど。
そうこうフォトンとメイドについて語り合っていると、
「お茶をお持ちしました」
先ほどの水色の髪のメイドさんがティーセットを持って現れた。
そして洗練された手さばきで紅茶を淹れて僕とフォトンに差し出してくる。
「こっちの世界にも紅茶はあるんだね」
僕は感心する。
「マサムネ様の世界にもあるのですか?」
「あるよー」
「茶葉を発酵させて?」
「発酵させない緑茶もあるけどね」
「リョクチャ?」
「ん」
紅茶を飲みながら頷いてやる。
「茶葉を発酵させないで淹れるお茶のこと」
「それで茶が出るんですの?」
「出るよ。味に深みが出て日本人の僕としては紅茶より好きだな。つまにゃ日本の茶にならぬ……ってね」
「ニホン……ですか」
「そ。日本」
そこで僕はふと気づいた。
「そういえば僕とフォトンはこうして喋れているよね。何で日本語が使えるのさ?」
「ニホンゴ?」
「僕の世界の日本と云う国で使われている言葉だよ。さっきからペラペラ喋ってるけど翻訳の魔術でもあるの?」
「いえ……何の事だか……」
フォトンは困惑していた。
僕は紅茶を飲んで、そして言う。
「ちょっとした確認になるんだけど……」
「なんでしょう?」
「こちらの世界って国によって言葉が違ったりしないの?」
「それはそうでしょう。国によって言葉が違うなら商人は全滅ですよ」
あっさりとフォトン。
「つまりこの世界はすべからく日本語を使っていると」
「そのニホンゴというのはわかりませんけど……少なくともこの世界においてはこの言葉が唯一ですね」
「バベルの塔が崩壊する前の世界ってことかな?」
「バベルの塔?」
神の怒りに触れて言語を分割された世界のことなど……この世界の住人にとっては感じ入れることの出来ない神話だろう。
「ともあれ僕はこの世界に馴染むにあたって言語の壁は突破したわけだ」
「そちらの世界は……」
おずおずとフォトンが問う。
「国によって言語が違うのですか?」
「うん」
あっさりと僕。
「だから翻訳する必要がある」
「翻訳……ですか……」
「そっちにはないの? 別言語とか……」
「エルフ語やドワーフ語はありますけど……」
「なんだ。別言語もあるんじゃないか。それが国ごとに行われているって言うのが僕の世界での常識なんだよ」
「はあ……」
困惑しながら頷くフォトンだった。
そして僕はクイとティーカップを傾ける。
紅茶を飲みほして一息つく僕だった。