竜の国21
「なんだ? その武器は……」
「クナイっていう忍特有の道具だよ」
そう言って疾駆する。
短刀……クナイを両手で振るう僕に、
「ちぃ……!」
と舌打ちして迎撃する銀竜王。
結果として両手で行なったクナイの斬撃は全て防がれた。
「もう一つギアを上げるぞ」
気合も十分にそう言う銀竜王。
「どうぞ」
僕は簡単に受諾した。
そして僕と銀竜王はギアをもう一つ上げる。
亜音速にも届かんばかりの高速戦闘が繰り広げられる。
僕の右手のクナイが銀竜王の喉を狙う。
のけ反る形で銀竜王はそれを避けると、持っている片手を水平に振るう。
それを左のクナイで受け止めると、僕は銀竜王に間近とも呼べるほど間合いを詰める。
右手のクナイを上空へと放ると同時に右手で拳を作り銀竜王の胸当ての鎧に接触させる。
そして寸勁を打ちこむ。
鎧抜きと呼ばれる技術だ。
鎧の上からも衝撃を人体に浸透させる技である。
「が……あ……っ!」
心臓を狙った鎧抜きの寸勁は銀竜王に衝撃を与えるのだった。
「げ……が……っ!」
それだけで銀竜王は苦しげに呻く。
そして僕は放り投げたクナイを右手で掴みとった。
銀竜王は苦しげに呻いて、それから、
「グアアアアアアアアアアッ!」
と咆哮をあげた。
それが何を意味するのか……次の瞬間に僕は理解した。
銀髪銀眼の人間だった銀竜王は銀色の鱗を持つ五十メートル級の巨大なドラゴンへと姿を変えるのだった。
膨大な質量の増加。
肉が膨れあがり、銀の鱗が全身を包み、牙と爪とが生えそろう。
七竜王が一角……銀竜王が本気を出したのだろう。
まぁたしかに人化したままで僕に勝とうというのが無謀だったのだけど。
しかして人間の姿から五十メートル級のドラゴンの姿に変化するのは時間がかかる。
それを見逃す僕ではない。
僕はオーラを半径一万メートルまで広げると、両手のクナイを捨てて、複雑な印を結ぶ。
そして術名。
「透遁の術」
次の瞬間、僕の姿はかき消えた。
認識しているのは僕と同じく遁術を使えるツナデとイナフくらいのものだろう。
さらに印を結んで術名。
「分身の術」
幻覚としてのもう一体の僕が僕から離れたところに生み出される。
ほぼ同時に銀竜王は完全にドラゴンの姿へと変貌する。
そして、「グルル……!」と威嚇するように喉を鳴らすと、ドラゴンブレスを放った。
銀色のレーザーのようなドラゴンブレスだ。
後でフォトンに聞いたのだけど闇の属性を持つ銀竜王のブレスは本来なら空間ごと万物を薙ぎ払う吐息とのことだったらしい。
闇属性……空間の属性を持つ銀竜王らしいブレスだった。
しかして銀竜王が放ったブレスはレーザー状に出力を抑えられており、その先にあるのは幻覚としての僕の分身……その心臓だ。
水面に映る月を掴もうとしても無理なように、幻覚としての僕の分身にドラゴンブレスを放っても意味は無い。
現実の僕は分身とはかけ離れた場所にいるのだから。
「何故死なない……!」
驚愕する銀竜王に付き合うつもりはない。
僕はさらに印を結び術名を放つ。
「雷遁の術」
幻覚としての雷撃が銀竜王を襲う。
「が……っ!」
と幻覚の雷撃に思考を断絶する銀竜王。
僕はさらに印を結び術名を放つ。
「火遁の術」
幻覚としての炎が銀竜王を襲う。
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!」
と炎にまみれて苦悶を吐き出す銀竜王。
巨体を悶えさせて炎から逃れようとするが如何せん僕のオーラの範疇ではそれもままならない。
言うつもりは毛頭ないけど。
僕はさらに印を結び術名を放つ。
「刃遁の術」
幻覚としての斬撃が銀竜王の全身を襲う。
過負荷を与えられた銀竜王の全身は、
「が……!」
その負荷に耐え切れず気絶するのだった。
これで倒れなきゃ何でって話ではある。
銀竜王が完全に気絶したのを見届けてから僕は遁術を解いた。
いきなり現れた僕に七竜王が驚く。
僕は審判代わりの金竜王に問いかけた。
「あー……一応これで僕の勝ちってことになるのかな?」
「そうですね。然りです」
金竜王はコクコクと頷いた。
「ウーニャー! パパ! すごく強いんだね!」
人化したウーニャーがそう言って僕に抱きついてくる。
「ということでウーニャーは僕たちの旅のお供として連れていきますよ?」
「構いませんよ。無限復元……フォトン様が一緒にいる以上安全は保障されたようなモノでしょうし」
金竜王はそう言って、
「ところで銀竜王を修復してはもらえませんか?」
フォトンにせがむ。
「それは構いませんが……」
そう言ってフォトンは銀竜王の体に触れる。
すると時間逆行によって銀竜王は万事何事もなく。
眼を覚ました銀竜王に結果を報告するのは疲れる作業だった。
まぁ一度倒れたのだから負けを認めさせるのはしょうがない事ではあったのだけど。