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竜の国16

 竜王谷を北上していると日が暮れたので僕たちは宿を探した。


 ちなみにお供についてきたブラックドラゴンさんはドラゴンの姿のまま宿の外で待機である。


 これあるを警戒して自らの鱗を以て僕たち……正確には七色竜王ウーニャーを守るつもりなのだろう。


 その戦力戦略級と呼ばれる大竜が護衛してくれるのだ。


 これほど心強いモノもない。


 そんなわけで安心して僕たちは宿にてくつろぐのだった。


 今回の部屋割りは二人部屋が二つ。


 僕とツナデ。


 フォトンとイナフ。


 そういう割り振りだ。


 ちなみにこの割り振りは交代制で、こういう状況に陥った時は交代で「僕と一緒に寝れる権利」を行使することになっている。


 今夜はツナデの番ということだ。


 風呂に入ってさあ寝るだけとなった時、


「お兄様……」


 ツナデがうるんだ瞳で僕を見つめるのだった。


「どうかした?」


「……っ!」


 ツナデは何も言わずに僕に抱きついた。


「こらこら」


 と言いながら抱きついてきたツナデの頭を撫でる僕。


「「「…………」」」


 しばし沈黙が場を支配する。


 ちなみにウーニャーは既に寝ている。


 念のため。


 ツナデは僕をギュッと抱きしめて感じ入っているようだった。


 唐突に、


「ツナデでは不足ですか?」


 僕を抱きしめたままツナデがそう言った。


「不足って何がさ?」


「始めは天上の夢を見ているようでした……」


「…………」


 ツナデの言葉の真意が読み取れない。


「もうお兄様はその血統に杞憂されることのない存在になったのだと……そんなことすら思いました」


「…………」


「そしてツナデはきっとこの世界でお兄様と……もはや禁じられることのない恋が出来るのではと思っていました」


「…………なるほどね。あながち間違ってはいないよ」


 少なくとも義父の視線はもうない。


 雌犬の子などと呼ばれることもない。


 僕とツナデが愛し合うのに遠慮はいらない。


「でも……」


 ツナデはギュッと僕を抱きしめる。


「お兄様はフォトンやイナフやウーニャーに心を開いていらっしゃる……」


「優しくされた経験が少ないからね」


 苦笑する他ない。


「優しくされたら優しさを返してあげたくなるんだよ」


「フォトンもイナフもお兄様に恋しています」


 知ってるよ。


 口に出さずに思念だけで答える僕。


「これではどっちが良かったのか量りきれません」


「どゆこと?」


「向こうの世界ではお兄様は迫害され……でもそれが故にお兄様を理解できていたのはツナデだけでした」


「うん。いっぱい助けてもらったね」


 僕はツナデの頭を撫でる。


「こっちの世界ではお兄様は認められ……代わりにお兄様はツナデ以外の多くの人に好かれています」


「多くってのは言い過ぎじゃない? フォトンとイナフとウーニャーだけだよ?」


「過分です!」


 ツナデは言い放った。


 ブラックシルクのように黒く長い髪が悲しみに揺れる。


 抱きついているツナデを引きはがして僕はツナデのおとがいを持つとクイと自分の視線と交錯できるほどに持ち上げた。


 見ればツナデは泣いていた。


「ほら、泣かないの」


 僕はツナデの瞳にキスをして、涙を舐めとった。


「お兄様は優しいですね……」


「それはツナデが優しいからだよ」


「いいえ。ツナデは優しくなんてありません。いつも嫉妬に狂っています。出来うることなら人類を殲滅してツナデとお兄様だけになりたいほどに」


「それはつまり僕に優しいってことだよ?」


「お兄様……ツナデの手の届かないところへ行かないでください。いつまでもツナデに想わせてください」


「うん」


 小さく頷いて、僕はツナデに軽いキスをする。


「あの地獄の中で僕が僕でいられたのは間違いなくツナデの優しさがあったからだよ。ツナデだけが僕の絶望を汲み取って光を注いでくれた。だから僕は今こうしてここにいる。だから僕は今こうしてやっていける。もしツナデがいなければ僕は優しさを知らずにいただろう。そうなれば今ここでこうしてフォトンやイナフやウーニャーと一緒にはいない。僕の心の全ての因はツナデ……君にあるんだ。だから僕にとってツナデは特別だ。それだけは間違いなく言える。フォトンもイナフも恋敵ではあろうけどそれでも僕の善意だけしか知らないという意味でツナデと一線を画している。誇っていいことだと思うよ」


「では……ツナデを見捨てたり興味を失くしたり……」


 それ以上言わせないために僕はギュッと今度はこっちから強く抱きしめた。


「そんなことあるもんか。僕の最優の人よ。僕の好感は真っ直ぐツナデに向けられている。ただそれが慕情なのかはわからないけど……少なくともツナデを差し置いて他の女の子に心奪われることはないよ。こんなにも綺麗で可愛い女の子を僕は知らないからね」


「愛しては……いらっしゃらないのですね……」


「この気持ちが愛に変われば……きっといつか僕はツナデに告白するよ。だからそれまで待って。僕のツナデ」


「はい」


 ツナデは素直に頷いた。


 そうして夜は更けていく。


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