竜の国15
「で」
僕は竜王会議まで歩きながらブラックドラゴンに問うた。
「なんでウーニャー……真竜王の卵が谷の側面を転がってきたのさ?」
「一口に言えば反体制派のドラゴンの襲撃故です」
ブラックドラゴンは沈痛な面持ちで言葉を続ける。
「ドラゴン種族も一枚岩ではありません。人間にも王政に反対するテロリストがいるでしょう?」
「…………」
でしょうも何もこの世界のことはあまり明るくないのだけど。
まぁ話の腰は折るまい。
「先代の七色竜王マリア様が産みし卵……ウーニャー様ですね……は孵化しかけたウーニャー様を七竜王の竜王会議にて見届けることを告げて、その卵のお運びに私が選ばれました。そして竜王会議までウーニャー様をお送りしているところで反乱分子の攻撃を受けまして……」
「うっかりウーニャーの卵を取り落した、と」
僕は薬効煙をつくりだして火をつけると煙を楽しむ。
「そもそも真竜王の卵を送るに一匹だけってどうなのよ? 護衛とかつけなかったの?」
「反体制派は基本的に小竜によって構成されています。大竜である私には敵う通りがありません」
「敵ってるよ?」
「私も油断していました。まさか大竜に反体制派がいるとは知らずに……」
「大竜と大竜ならどっちが勝ってもおかしくない……か」
「然りです」
「で、その反体制派の大竜は? また襲ってくるの?」
くゆる煙を見ながら僕。
「それについては安心してください。既に殺していますから」
「ならいいけど」
でもさ。
「しょうがなかったこととはいえウーニャーを取り落したってなったらブラックドラゴンへの裁きは大変なものになるんじゃないの?」
「死は……覚悟しております」
ブラックドラゴンは諦観の様子でそう言った。
僕は煙をフーッと吐く。
「それはそれで後味の悪さがハンパないんだけど」
「しかしてウーニャー様の護衛をしくじったのですから責任は取らねばなりません」
「ウーニャー! ウーニャーは気にしてないよ?」
と、これは僕と手を繋いで薬効煙を吸っているウーニャー人化バージョン。
虹色の瞳にあるのは優しさ。
この虹色の幼女は無礼を無礼とも思っていないようだった。
「なんならウーニャーから七竜王に進言してあげる! 黒さんは悪くないって」
「ウーニャー様、真竜王たる御方は信賞必罰を重んじなければなりません。安易な情によってはいけないのです」
どうやらブラックドラゴンは自殺志願者らしい。
僕はスーッと煙を吸う。
「ウーニャー! ウーニャーは別にどうでもいいけど黒さんが死んだらパパが悲しい顔するの。だから黒さんは死んじゃ駄目」
「ウーニャー様……」
ゴスロリドレスを揺らして、薬効煙の煙を揺らして、ウーニャーはブラックドラゴンの罪を不問にするのだった。
主に僕のために。
「ウーニャーは優しいね」
僕はウーニャーの頭を撫でる。
それだけでウーニャーはくすぐったそうに笑うのだった。
ヤバい。
新境地に目覚めるかもしれない。
それほどウーニャーは可愛かった。
そしてウーニャーは薬効煙を吸い終るとドラゴンへと姿を変えて僕の頭の上に乗るのだった。
どうやら僕の頭の上がウーニャーのお気に入りらしい。
次の瞬間、僕は……正確には僕のオーラが、危機を察知していた。
オーラでの感覚ゆえに何色のドラゴンかはわからないけど、一キロ先からこちらに砲口となる咢を向けて今にもドラゴンブレスを吐こうとしていた。
「全員避難!」
と僕が叫び、僕はフォトンに目で合図してツナデとイナフの手を取って回避行動をとっていた。
ブラックドラゴンは人化を解いてリンドブルム級の巨体を竜王谷に顕現させると、その強固なドラゴンスケイルで不意打ちの炎のドラゴンブレスを防ぐのだった。
それだけでは終わらない。
ブレスの襲ってきた方へとドラゴンブレスを吐き出す。
吹雪のソレだ。
だがそれあるを察知していた敵ドラゴンは空中へと羽ばたいて回避する。
空を飛んで僕たち目掛けて強襲する敵ドラゴンはワイバーン級のレッドドラゴンだった。
「聖竜母マリアの御子……ここで殺す!」
そう言ってクアッと咢を開くレッドドラゴン。
対してブラックドラゴンも咢を開いてブレスにブレスで対抗しようとする。
が、次の瞬間、直線状に伸びる虹が閃いて……その虹はレッドドラゴンを消失させた。
「は?」
ポカンとしたのは僕。
だって……《僕の頭上から放たれたブレス》だったのだから。
「ウーニャー! 質量もエネルギーも空間も時間も……万象一切を滅するレインボーブレスだね。七色竜王の名は伊達じゃないよ。酔狂ではあるかもしれないけどね」
ウーニャーは僕の頭の上でそう言った。
「レインボーブレス?」
と問うたのは僕同様こっちの世界に馴染んでいないツナデ。
「要するに木火土金水光闇の属性を全て備えた吐息……七色竜王にしか使えない必滅のブレスです」
ブラックドラゴンが解説してくれる。
「すごいんだねウーニャー」
「ウーニャー! パパ! 褒めて褒めて!」
「はいはい。いい子いい子」
僕は僕の頭に乗っかっているウーニャーの頭を撫でるのだった。
「もしかしてマサムネ様……」
「もしかしてお兄様……」
「もしかしてお兄ちゃん……」
「何さ?」
「「「幼児性癖?」」」
違うに決まってるでしょ。