光の国03
現状を整理しよう。
僕は異世界に召喚された。
そこまではいい。
そもそもにしてこんな見知らぬ部屋に移されたのだとしたら、その途中で僕は必ず起きるはずである。
ということで僕が天蓋付きベッドのあるどこかの部屋まで運ばれた可能性は……まぁ無いとは言い切れないけど除外していい。
となるとやはり異世界召喚……。
そもそも、
「どうやって僕を異世界から召喚したの?」
僕は当然の問いを行なった。
「当然……」
とフォトンも当然とばかりの答えを発した。
「魔術によるものです」
「…………」
世界が……死んだ……。
僕はまた眉間を摘まんだ。
えーと……
「魔術?」
問う僕に、
「魔術」
あっさりと断言するフォトン。
いや……まぁ……ねぇ……?
だいたい予想はしていたけど、
「それは……ちょっと……」
「信じがたいですか?」
確認するようにフォトンが言う。
「さすがにね」
屈託なく僕。
「そちらの世界に魔術は無いのですか?」
「文化としては存在するよ」
「文化……?」
「最近の流行はケイオスマジックだね」
「ケイオスマジック……」
と僕の言葉を反復して、
「混沌を操る魔術ですか!?」
大層驚くフォトンだった。
「そんな大層なモノじゃないよ」
僕は否定する。
「では……」
「神話や魔術の理論の上澄みだけをかすめ取って新たな理論を構築する魔術のことを指すね……」
「つまり無秩序な魔術だと?」
「うん。まぁ」
僕は頷く。
「もっとも……」
そして言葉を続ける。
「あくまで神秘主義の域を出ないけどね」
「神秘主義……」
「そ。戦争が無い時代の最大の娯楽だ」
「娯楽……」
再度僕の言葉を反復して、
「そちらの世界の魔術は娯楽なのですか?」
「ま、詐欺の材料だね」
「つまり実質魔術は存在しないと?」
「そういうこと」
断ずる。
フォトンは僕の腹筋をツツーと撫でながら、
「こちらの世界は魔術が右往左往しているのですけど……」
そう言うのだった。
「やっぱりか」
うんざりと現実を認識する僕。
「それで、僕を魔術で召喚したってわけ?」
確認する僕に、
「そういうことになりますね」
フォトンは答える。
「もっとも……そちらの世界に魔術が無いというのなら……マサムネ様においては不可思議な現実だとは思われますが」
「ん」
頷く。
「既に理解のメーターぶっちぎり」
嘘でも誇張でもなく僕は認める。
こちらの世界には魔術があって、それが僕の世界に干渉して僕だけをこちらの世界に移した……と。
そこで僕はふと気づいた。
「こっちの世界から向こうの世界に戻す魔術ってある?」
「ありますよ?」
あるんかい!
「そうするつもりは毛頭ありませんけど」
ないんかい!
「…………」
胸中はともかく僕はうんざりと首を振った。
そして腹筋運動の要領でベッドから起き上がる。
「あん……」
と残念そうな声が漏れる。
フォトンだ。
どうやら僕の果てしなく鍛え抜かれしビルドアップ的な腕の筋肉を頭部で感じ入っていたのだろう。
それを止めて起き上がった僕に名残惜しげな表情を向ける。
そんなフォトンを無視して僕はゴシック調の部屋を見渡し、それから窓があったのでベランダに出てみた。
そこは城だった。
広大な土地を持つ厳格な建物。
日本的なモノではなく西洋のソレが正解だ。
とにもかくにも僕は名も知らぬ土地のお城に召喚されたらしい。
「あー……聞いてなかったけど……」
「何でしょう?」
「ここはどこ?」
「光の国の王城ですよ」
あっさりとフォトンは言った。
光の国なんて国名は地球には無い。
とすれば本当に異世界なのだろう。
「…………」
やれやれである。