竜の国08
「レイフェルから話は聞いておる」
十メートルを超える巨大なレッドドラゴンはそう口を開いた。
その威圧感たるや今までの経験の中でも高位に位置するものだった。
レッドドラゴンは言葉を続ける。
「それで?」
それでとは?
「どれが無限復元だ?」
興味深げにそう問うレッドドラゴンに、
「私です」
と深緑の髪をなびかせてフォトンが進み出た。
深緑の瞳がレッドドラゴンを見据える。
「ほう。若いな」
それは当然のことだったろう。
御年三十歳といえど肉体年齢は十四歳だ。
要するに女の子である。
レッドドラゴンが驚くのも無理はない。
「残りの三人が旅のお供か」
まぁそう受け取ってもらった方が都合がいいのは認めるけどね。
そんな僕の思考を無視して、
「私の旅などマサムネ様のついでに過ぎません。撤回してもらえませんか?」
攻撃的な言葉を吐くフォトン。
「それは失礼した」
レッドドラゴンは長い首を地面に接して礼の形をとる。
そして低い視線からジロリと僕を見た。
「どうやら貴公が全ての鍵を握っているようだな」
「どうでもいいでしょうそんなこと」
僕は想像創造をすると、
「木を以て命ず。薬効煙」
と世界宣言をする。
手に薬効煙が生まれた。
それを口にくわえるとさらに想像創造をして、
「火を以て命ず。ファイヤー」
と世界宣言をする。
宣言通りに世界が変質し、僕は薬効煙に火をつけるのだった。
煙をプカプカ。
「ほう。呪文暗示もせず魔術を扱うか。なるほど。無限復元がたてるわけだ」
呪文暗示?
僕が首を傾げると、
「呪文を大げさに長く発声することでイメージを確固たるものにする暗示の一種です。やけに長ったらしい魔術の世界宣言をマサムネ様も聞いたことがおありでしょう?」
なるほどね。
薬効煙を嗜みながら納得する僕。
「それで? レッドドラゴンが迎えっていうことは……」
「無論、我らの背に乗ってもらう」
やっぱりか。
そんなわけで僕とフォトンとツナデとイナフは二体の巨大なレッドドラゴンの背中に乗るのだった。
僕とフォトンがレッドドラゴンの一体の背中に……ツナデとイナフがもう一体の背中に……それぞれ乗った。
さすがに先の忠告を受け止めているらしく醜い争いは起きなかった。
そして僕とフォトンがレッドドラゴンの背中に乗ると同時に、レッドドラゴンは翼をはためかせて空を飛んだ。
遅れてもう一体のドラゴンも翼で風を打ち空を飛ぶ。
「ふわ……!」
と僕は感動した。
羽ばたくドラゴンの背中に乗って地平線や水平線の彼方まで見ることが出来たからだ。
絶景と言って言い過ぎることのない情景だった。
「すごいね……」
他に言葉はいらなかった。
「でもこの巨体で……翼だけで空を飛べるとは思えないんだけど」
向こうの世界の常識に則れば鳥くらいの体重でなければ翼で飛ぶなど無意味にすぎるはずだ。
しかしてフォトンが反論してきた。
「ドラゴンは体の内に魔術の式を埋め込まれた存在です。人化、飛行、吐息などの魔術を体内に持っています。故に世界宣言もなく魔術を行使できるんですよ」
なるほど。
たしかにその通りなのだろう。
そうでもしなければ理屈に合わない。
もっとも……異世界に理屈を持ち込むのもどうかと思うけど。
ともあれ僕とフォトンとツナデとイナフはレッドドラゴンの背中に乗って空中観光ツアーを楽しんだ。
翼を羽ばたかせるドラゴンから振動も感じない。
普通なら翼に合わせてドラゴンの体の位置も上下するはずなのだけど、そんなことは一切なかった。
当然魔術によるものだろう。
翼を羽ばたかせることが飛行の魔術の世界宣言なのだろうか?
そんなことを僕は思った。
そして山岳国家である竜の国の山々を軽く飛び越えて僕たちは山と山の間にある谷を目にするのだった。
竜王谷。
そこはそう呼ばれる谷だ。
竜の国の王都。
七竜王が統治する竜の国の心臓部。
そして僕たちを乗せたレッドドラゴンは竜王谷に向けて滑空を開始した。
それがまた風を呼んで、僕たちは空を飛んでいるという事実を認識するのだった。
そして竜王谷に着く。
バサバサと翼をはためかせてゆっくりと竜王谷の入り口に下りるレッドドラゴンたち。
竜王谷は鬱蒼とした木々に覆われた土地だった。
谷ではあるけど山岳国家特有の樹に囲まれた土地だったのだ。
レッドドラゴンの一体が言う。
「この谷に沿って北へ向かえ。そこで竜王会議と呼ばれる場所に着く。フレア様を……火竜王様を頼んだぞ」
真摯な瞳でレッドドラゴンはそう言った。
どうやら思ったより深刻な状況らしかった。
いや……まぁいいんだけどさ。
僕の問題じゃないし……。