竜の国07
「マサムネ様はフォトンのバーサスです! 当然目覚めのキスは私のモノです!」
「お兄様はツナデの愛する人です! 異世界の勝手な都合で縛るのはやめなさい!」
「お兄ちゃんはイナフがキスする~! 異論は認めない~!」
僕?
僕はといえば、
「…………」
薬効煙を嗜んでいた。
成り行き任せだ。
朝だった。
気持ちのいい朝だった。
小鳥がさえずる。
風が遊ぶ。
斜陽が窓から部屋の中を照らした。
要するに、今日泊まった安宿での朝の光景なのだった。
「私ことフォトンが!」
「ツナデが!」
「イナフが!」
誰一人として妥協しそうにない。
僕は煙を吐く。
ああ、落ち着く。
気持ちを弛緩させながらかしまし娘を見やると、
「マサムネ様!」
「お兄様!」
「お兄ちゃん!」
かしまし娘は僕にキッと視線をやった。
「ツナデとイナフをどうにかしてください!」
「フォトンとイナフをどうにかしてください!」
「フォトンお姉ちゃんとツナデお姉ちゃんをどうにかしてよ!」
「…………」
僕は煙を吸う。
「マサムネ様が甘やかすから……!」
「お兄様は博愛主義にすぎます……!」
「お兄ちゃんイナフが好きだよね……!」
答えず、
「…………」
煙を吐く。
それから沈思黙考。
ピーチクパーチク騒ぐかしまし娘を見やって薬効煙を吸い、煙を吐いて、
「君たちは僕に嫌われたいの?」
純粋な疑問を口にした。
「「「……っ!」」」
絶句するかしまし娘。
「別にキスくらいなら気持ちも込めずに出来るからフォトンにもツナデにもイナフにもしたっていいんだけどさ……」
僕は淡々と言葉を続ける。
「君たちが欲しいのはキスじゃなくて僕の慕情でしょう?」
「それは……」
「まぁ……」
「そうだけど……」
かしまし娘はしぶしぶと頷く。
「相手を蹴落として自分だけが僕を独占するなんて心の動きが僕に好かれる要因になると思う?」
「それは……」
「無い……」
「だね……」
「醜く言い争うような女の子に僕が惚れるとでも?」
「「「…………」」」
「先に言ってあげるなら……」
とここで僕はタメて煙をプカプカ。
「僕は純真な女の子が好きなんだ」
「純真な……」
「女の子……」
「というと……?」
「女の子っぽい女の子といえばいいのかな。甘えてくる。ツンと拗ねる。嘘が下手。でも僕のことが大好き。そんな女の子」
「私はマサムネ様が好きです!」
「ツナデもお兄様を愛しています!」
「イナフもお兄ちゃん大好き!」
「なら謹んで」
僕はキッパリと言う。
「別に喧嘩するなとは言わないけどさ。もうちょっと純粋な心で喧嘩してよ。他人を蹴落として僕の隣に座ったって僕の慕情はかすりもしないよ?」
「「「むう」」」
むう、じゃないって……。
僕はフーッと煙を吐く。
と、コンコンと宿の部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
僕が言うと、
「入るぞ」
と言って無遠慮に赤髪赤眼の美青年……レッドドラゴン……レイフェルが入ってきた。
「何か用?」
「迎えがついたぞ。旅の支度を整えて外に出ろ」
「迎え?」
「フレア様を再生させうる無限復元が客だ。迎えくらい来るさ」
「馬車でも用意したっていうの?」
「外に出ればわかる」
それだけを言ってレイフェルはバタンと扉を閉じた。
迎えが何なのかはわからないけど……ともあれ何かを待たせているのはわかった。
僕たちは旅支度をテキパキとする。
後に宿の食堂で朝ご飯にありつく。
黒パンに焼かれたベーコン、塩と山菜のスープ。
それらをペロリと食べ終えると宿の外に出る。
外にて僕たち待っていたのは、
「…………」
レイフェルよりも一回りどころか三回りは大きい全長十メートルを超える巨大なレッドドラゴン二体だった。
どう反応しろと?