竜の国04
「ふい~」
と安穏の吐息をつく僕だった。
場所は変わらずレッドドラゴンの護衛する村。
その安宿の浴場だ。
男湯と女湯に分かれているため僕がフォトンやツナデやイナフと同じ風呂に入る……入れる道理はない。
とは言っても男湯と女湯を分けているのは石のしきりのみでお湯としては繋がっているのだけど。
そんなわけで僕は一人でゆっくりと旅の疲れを癒すのだった。
「あとは熱燗でもあればいうことないんだけどな」
まぁ異世界に日本酒を求めるのも酷な話だろうけどさ。
僕は浴場に一人、ワーグナーのニュルンベルグのマイスタージンガー第一幕への前奏曲を口笛で吹くのだった。
そんな僕はブギーポップの大ファンだったりする。
と、
「ふむ」
納得するような声が浴場の扉から聞こえてきた。
僕は口笛を止めて振り返る。
そこには一人の青年がいた。
高校生の僕より年上だろう。
鮮やかな赤い髪に同色の瞳を持った美青年だ。
当然全裸。
当たり前だけど。
「おや、何故笛の音を止める?」
赤い髪の美青年は僕を見やる。
「いえ、まぁお耳汚しになるかと思いまして」
僕はへりくだる。
しかして赤い髪の美青年は、
「耳汚しなぞとんでもない。澄み切った良い音色だったぞ。もしかしてきさんのいう異世界の音楽か?」
「そうですけど……何故それを?」
「ああ、異世界の人間だったな。お主は」
うんうんと美青年は何度も頷く。
「自己紹介しよう。この村の護衛を務めているレッドドラゴン……レイフェルというのが我の名前だ」
「…………」
…………。
しばし沈黙の妖精が周囲を飛びかう。
そして、
「……はい?」
僕はポカンとする他なかった。
レッドドラゴン?
レイフェル?
それはこの村を管轄しているドラゴンの名前ではなかったか?
いや、事実美青年はそう述べた。
「もしかして」
ゴクリと唾を飲む。
「あのレッドドラゴン?」
「然りだ」
美青年……レッドドラゴンは頷いた。
オーラは感じない。
つまり遁術を使っている形跡はない。
変化の術の類ではなさそうだ。
「とすると……」
何なのだろう?
僕はクネリと首を傾げた。
「ああ、異世界から来た無限復元……セブンゾール……フォトン様のバーサスの騎士たる者よ。まずは自己紹介をしよう」
そう言って全裸の美青年は浴場に歩み寄り、僕に握手を求めた。
「我が名はレイフェル。レッドドラゴンだ」
僕は握手を返す。
「僕はマサムネ。よろしく」
そう言って、
「本当に先のレッドドラゴン?」
懐疑的な言葉を発してしまう。
「我々ドラゴンは人化と呼んでいるがね」
「人化……」
「つまり我々ドラゴンは、ドラゴンとしての姿と、人としての姿の、二種類の確率を持っているということだ」
「で、今は人の姿をとっていると」
そういうことかな?
「そういうことだな」
くつくつとレッドドラゴンは笑う。
それからレッドドラゴンは桶で湯をすくって自身の体を洗い、
「では失礼する」
入浴するのだった。
「どうやって人の姿になるの?」
聞かずにはいられなくて僕がそう問うと、
「元々ドラゴンとは魔術の式を内包した生物なのだよ。ドラゴン魔術と呼ばれる類のものだな。その一種として人化がある」
「ということは人の姿からドラゴンの姿に変わることも……」
「可能だ」
レッドドラゴンは頷いた。
「見せてもらえない?」
「構わんぞ」
レッドドラゴンが言うと同時に、レッドドラゴンは変形……いや、変態か……を果たした。
首が伸び、皮膚は鱗で覆われ、背中から翼が飛び出て、尾てい骨は尻尾として伸び、質量が増大する。
そうやってレッドドラゴンはレッドドラゴンとなったのだった。
ちなみにその全長は五メートルを優に超える。
浴場いっぱいいっぱいのサイズだ。
「ふわあ……」
と僕は驚愕する。
レッドドラゴンは神々しい眼でグルルと喉を鳴らす。