樹の国18
まぁそんなこんながあって僕とフォトンとツナデは山岳国家樹の国の山頂……エルフの里に来ていた。
オーラで確認するあたりエルフの数は二百人強。
全員が金髪碧眼で耳がとがっている。
そして全員が絶世の美形だった。
なるほど。
エルフを慰み者にする商売が横行するわけだ。
ちなみにエルフの里には穏便に入ったことをここに明記しておく。
三人のエルフの障害を無力化した後、フォトンの無限復元で傷を治してやり、それから誠意をみせて世界樹の観光の許可をとったのだ。
どんな誠意かって?
要するに「次もし障害となるようなら殺した後で縄で縛って動けなくしてから生き返らせて人里に売るよ」と誠心誠意お願いしただけだよ?
さらに言えばこんなところにも無限復元……セブンゾール……フォトンの名は轟いており、フォトンの気分次第ではエルフの里など一瞬にして壊滅すること必至であるとのことだった。
まぁ誰だって死にたくないよね。
そんなわけで紳士淑女的に礼節に則ってエルフの里を訪ねた僕たち。
そして、
「ふおおおおおおお」
と僕は驚嘆した。
「これは……」
ツナデも多少気圧されたようだった。
エルフの里の中心に世界樹が屹立していたからだ。
それは比較対象を探すのも面倒くさいほどの太さを持ったツルが螺旋を描きながら遥か雲の上まで伸びている……といったものだった。
連想してもらうならばアレだ……ジャックと豆の木。
どれだけの高さがあるのかは雲に阻まれてわからない。
ただ世界樹がとてつもなく大きいと言う事だけはわかった。
「さて……」
と第三者の声。
僕とフォトンとツナデは声のした方を振り返る。
途中で目にしたのは茅葺小屋の家々。
貧乏生活なのかな?
まぁ樹の国の樹には美味しい果実がなっているから飢え死には無いだろうけど。
「人間が此処を訪れるのは何年ぶりじゃろうのう」
第三者はそう言った。
老齢の人物だ。
金髪碧眼で耳も尖ってこそいるもののヨボヨボ感はぬぐえない。
「まずは名乗りなさい」
ツナデが不遜にそう言う。
「これは失敬。わしはイナイという者じゃ。この村の村長をやっておる」
「ずいぶんお年を召してらっしゃいますがいくつで?」
「もう三百年は生きておりますかな」
沈黙する僕。
それから僕とフォトンとツナデも自己紹介をする。
「無限復元……セブンゾール……フォトン様に会えるなど何と光栄なことでしょうな」
「そう持ち上げることでもありませんよ」
フォトンは照れたように言った。
「ただし誤解なきよう願います」
何をでしょう?
「わしらはあなた方を歓迎などしないということを、です」
「そうなの?」
僕はフォトンに問う。
「まぁ昔から人類とエルフは因縁を抱えているといいますか……エルフは一方的に人間に凌辱された歴史を重ねているので負の感情しか持っていないんですよ」
ふーん。
「そういうわけでわしらはあなた方を歓迎などいたしません。無論宿も食事も世話したりなどしません」
「それは構わないけどさ」
ふむ。
「あの世界樹……登ってもいい?」
僕がそう問うとエルフの村長は苦虫を噛み潰した時ような顔をした。
「あの世界樹は精霊王の宿る神聖なる樹です。一神教などという邪神を信仰する輩が登るなどとんでもない。触れることすら許しませんぞ」
「ああ、大丈夫大丈夫。フォトンはともかく僕とツナデは一神教じゃないから」
意外そうな顔をする村長。
「人間であるのにデミウルゴスを信じないと言うのか……」
「僕とツナデの世界ではね……八百万の万物には八百万の神がそれぞれ宿るとされている宗教観で育ったんだ。万物に精霊が宿るとしているエルフの精霊教とはアミニズムという点では同じじゃないかな?」
そして僕は日本における神道についてペラペラと語った。
「本当ですか?」
「嘘でも本当って言うんじゃないかな……この場合」
「ふむ。嘘をついているようには見えませんな」
「恐れ入ります」
「ではマサムネ様とツナデ様に限り世界樹に触れることを許しましょう。後は勝手にやってくだされ」
そう吐き捨てて村長は僕たちに背中を見せた。
「お兄様、殺していいですか?」
「だぁめ。戦って負けるとは思わないけどただでさえ希少なエルフを間引きしてどうするのさ」
「でもお兄様に対してあんな態度……」
「しょうがないよ。僕とツナデは違うけどこっちの世界の人類はエルフにひどいことをしたらしいし。現状を受け入れよう。それで、今夜はどこに泊まろうか?」
僕がそうぼやくと、
「だったらうちに泊まりませんかお兄ちゃん!」
また第三者の声が聞こえてきた。
今度のは老齢のソレではなく幼い子供の声だった。
声のした方を見やると、金髪碧眼で、
「おや」
耳の尖っていないエルフに良く似た人間の子どもがそこにいた。
「お兄ちゃんたち……今日泊まる場所が無いんでしょ? だったらイナフの家に泊まりなよ」
耳の尖っていない似非エルフの幼女はニッコリ笑ってそう言った。
イナフ……というのが幼女の名前なのだろう。