樹の国17
「我らは永き時を武術に捧げた」
ま、エルフが長寿なのは認めるけどさ。
「我らはこの山道に無数の血を捧げた」
ま、一般人には荷が重いだろうね。
「我らは身命を精霊に捧げた」
ま、宗教観は人それぞれだ。
「「「貴様に勝機は無いぞ」」」
「御託はいいからかかってきなよ」
両手にクナイを構えて僕は言う。
既にオーラは展開している。
相手のオーラは直径六百メートルといったところだろう。
対して僕の展開しているオーラは直径二千メートルだ。
当然エルフの里までオーラが届いている。
エルフの里は二百人強のエルフが住んでいた。
その内手練れのエルフがこうやって山道を見張っているのだろう。
オーラでエルフの膂力を察するに十分鍛えられているとわかる。
だが、まだ甘い。
それが僕の率直な感想だった。
止まる気配を見せない僕目掛けてエルフの二人が弓から矢を発射した。
僕は両手のクナイでソレを弾く。
「「「っ!」」」
あっさりと弓矢を弾いた僕に、エルフたちの動揺が伝わってくる。
「弓矢は通じないよ」
「「「然り」」」
肯定して三人のエルフは僕を包囲した。
僕を中心に正三角形を描く包囲陣だ。
そして一人が剣を、他の二人が短刀を構えて僕に問う。
「何ゆえ我らが地に土足で踏み入る」
「悪いとは思ってるよ」
「では何故?」
「あえて言うなら観光旅行者でね」
「観光?」
「そ」
僕はクナイを両手で弄びながら言葉を続ける。
「世界樹を見るのも一興だってだけの事」
「貴様が命を捨てるにはその程度の理由でいいのか?」
「いいんじゃない?」
臆せず僕。
「我々の戦闘力を安く見てもらっては困るな。こと速度の面において人間がエルフに敵うはずもないぞ?」
「じゃあ試してみなよ」
「語るに及ばず!」
僕の挑発に耐えられなかった一人が僕目掛けて襲い掛かる。
弓を捨てて短刀を手に取った二人の内の一人だ。
当然オーラでその状況は捉えている。
瞬間的にして爆発的。
縮地を用いてエルフは僕に凶事を振るう。
僕は短刀の刺突に対して身をかがめることで避ける。
それから軸回転をしてクナイを振るいエルフの短刀を弾く。
ソレを一本のクナイで行い、もう一本のクナイでエルフの膝を突き刺す。
「……ぎ……ああああああああああっ!」
膝に刺突をくらったエルフが痛みに悶える。
ま、殺さないだけ有難いと思ってもらうべきだろう。
「さっき速度について大言を吐いてもらったけど……」
僕は肩をすくめて、
「出来うるなら君たちが僕のスピードに合わせてね」
そう結論付ける。
「「上等!」」
残る二人のエルフが血気盛んに僕に襲い掛かった。
「お兄様……ツナデも手伝いましょうか?」
コルトガバメントを構えてツナデが口を開く。
対して僕は余裕綽々で返事をする。
「この程度ならツナデはいらないよ」
むう、とツナデは口を閉じる。
僕に「いらない」と言われたのが不本意なのだろう。
気持ちはわかるだけにどうにも……ね。
ともあれエルフの二人が襲い掛かる。
一般人なら驚異であろうけど僕には欠伸が出る速度だ。
まっすぐ純粋にエルフの二人は僕に襲い掛かる。
一人は剣を振り、一人は短刀を突き刺す。
それらをクナイで受け止め、受け流し、受けきる。
同時に軸回転をして二人のエルフに蹴りを打ちこむ。
「「げ……!」」
僕の膂力の入った蹴りを受けて呼吸を吐き戻すエルフ二人。
それから僕は追撃を……行わなかった。
ケンケンと地を蹴って後退すると二人のエルフを視界に収める。
「ま、悪くはないけどちょっと未熟だね」
そう論評する僕。
「それじゃあ速度の領域では忍には敵わないな」
今は忍じゃなくて忍術師だけど。
「「この程度で我らが引くとでも!」」
エルフは闘志をいささかも減じなかった。
その意気込みは買うけどさ……無茶で無謀なのは変わりない。
襲い掛かる二人のエルフの凶刃を躱して僕はそれぞれの膝にクナイを突きつける。
「「げ……!」」
それだけで呻くエルフたち。
「これでエルフ御自慢の速度も死んだも同然でしょ」
「我らを犯すか……人間……!」
「そんなつもりは無いってば。単純に観光旅行として世界樹を見たいだけだよ。本来なら君たちを害するつもりさえ無かったんだ」
「それを信じろと!」
「もし本当にエルフを害そうというのならもっと良い手があるはずでしょ? 僕はただ自己防衛で君たちに怪我を負わせたに過ぎない。魔術も使っていないしね」
そんな僕の言葉に、
「「「…………」」」
三人のエルフは沈黙した。
ま、妥協案としてはこんなところだろうね。