表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/512

樹の国15

「しっかし……」


 一日後。


 僕とフォトンとツナデは相も変わらず世界樹を目指す。


 ともあれ山道を登りながら僕は呆れた。


「まさかM1911を魔術で創りだすなんて」


「お兄様だって薬効煙を創りだしたじゃないですか。同じく異世界の技術です」


 拳銃と煙草を同列に語られてもね。


「その……コルトガバメント……? 本当に武器なんですか?」


 これはフォトン。


「なんならくらってみますか?」


 ツナデは躊躇も遠慮もなくフォトンのこめかみに銃口を当てた。


「無駄ですよ。どんな武器かは知りませんが害的情報は私には無益です」


「なら撃っても構いませんね」


「待った待った待った」


 僕がツナデを制する。


「人に向かって銃口を向けない。嫌いになるよ?」


「あう……ごめんなさいお兄様……嫌わないで……」


 瞳に慕情と哀惜をたたえながらツナデは僕に謝った。


 僕に謝ったってしょうがないでしょ。


 僕がそう言うと、


「すみませんでしたフォトン」


 殊勝にフォトンに謝るツナデ。


 ツナデにしてみれば謝る価値など無いのだろうけど、僕に嫌われたくない一心で謝っているのだろう。


 フォトンは苦笑する。


「いえ、元より不死身です故謝られることもありません」


「以後、気をつけます」


 そう言ってツナデは銃を袖に隠して、僕の右腕に抱きついてきた。


「ツナデ……歩きにくいんだけど……」


「愛の重さです」


 そーですかー。


「どうやったら止めてくれる?」


「んー」


 と悩んだ後ツナデは僕の名を呼んだ。


「お兄様」


「何でがしょ?」


「ツナデはキスを御所望です」


「だってさ。フォトン……」


「私がツナデとキスですか? 背徳的ですね……」


 目に見えて狼狽えるフォトンだった。


 可愛い可愛い。


 無論ツナデが反論する。


「ツナデはお兄様とキスしたいのです」


 そう言ってツナデは僕の右腕に頬を擦り付ける。


 まぁ……キスくらいなら。


 ねえ?


「別に僕は構わないけどさ」


「本当ですか?」


「本心」


「では愛のベーゼを」


 肯定した僕は、僕の右腕に抱きついているツナデを振り払って右腕を自由にすると、ツナデの胸ぐらを掴んでこっちへと引き寄せ、ツナデにキスをした。


 それはもう「ねっとり絡みつくようなモノ」で。


 ツナデはそれだけで幸せそうに目を細めるのだった。


 混乱したのはフォトン。


「マサムネ様……!」


「何でがしょ?」


「私もキスを所望します」


 まぁいいんだけどさ。


「よくありません!」


 叫んだのはツナデ。


「お兄様はツナデだけのものです……! 当然キスする権利を有しているのはツナデだけです……!」


 その理屈もどうかなぁ?


 とまれ、ワンコとニャンコの舌戦が繰り広げられるのだった。


「私だってマサムネ様をお慕い申し上げています!」


「しかしてツナデの愛には負けるでしょう?」


「いえ、むしろ勝っていると言えるでしょう」


「どの口がそうほざきますか!」


「だいたい兄に慕情を寄せるなんてナンセンスです!」


「以前にも言ったでしょう! ツナデとお兄様は血が繋がっていません! つまり堂々と愛し合える仲なのです!」


「その条件ならこちらも同じでしょう?」


「お兄様に一目惚れなんて一時の感情じゃないですか。ツナデはお兄様があっちの世界で排斥され続けてきたことを知っています!」


「っ!」


「ツナデだけがお兄様の味方であり続けました。即ちお兄様にとってツナデだけが味方なのだと言えます」


「それは……」


 言い負かされそうになっているフォトンの唇に僕は唇を重ねた。


 いわゆる一つのキスだ。


「ツナデの言うことはわからないでもないけどね。でもフォトンはこっちの世界で僕の味方になってくれた唯一の人なんだ。僕を排斥の世界から救ってくれた恩人なんだ。なら……僕がフォトンに感謝するのも当然じゃない?」


「うう……」


 とツナデは反論の余地をなくす。


「ツナデの気持ちもわからないでもないけどね。でもあの地獄から僕を救い出してくれたのはフォトンなんだ。だから僕はフォトンに……!」


 感謝しているよ、という言葉は言えなかった。


 それより先に僕とツナデが異変を察したからだ。


「お兄様……これは……!」


「うん。だね」


 僕とツナデは目と目で通じ合う。


「?」


 一人フォトンだけが状況を理解していない。


 僕たちが山道の途中、展開されたオーラの中に取り込まれたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ