光の国01
「ん……むに……」
僕はまどろみから意識を切り離そうとして失敗した。
「……ん……」
眠い。
眠たい。
でも……、
「起きなきゃ……」
そう呟いて少しだけ意識を覚醒させる。
「…………」
横に伸ばした腕が重い。
そう言えばツナデと一緒に寝たんだっけか。
そしてツナデに腕枕をしてあげたのだった。
「ん……」
と呼気を発して、
「……くあ……」
と欠伸。
目をこすって、
「おはようツナデ……」
と僕の隣で寝ていた女の子に声をかけると、
「おはようございます異世界の騎士様」
ツナデではない女の子の声が聞こえてきた。
「ん?」
まだ意識がはっきりしない。
違和感は泡と消えるのだった。
「ん……むに……」
独特の呼吸法を行ない、もう一段階意識を覚醒させる僕。
目に映ったのは深緑。
深緑の髪。
現実世界ではありえない髪の色である。
まぁ染めれば話は別だろうけど。
とまれ、
「…………」
僕は現実を認識して、
「…………」
僕の腕を枕にして寝転がっている深緑の髪の少女を視界に捉えたのだった。
「…………」
言葉を失う僕。
「おはようございます騎士様」
深緑の髪の美少女がそう言う。
目鼻立ちはっきりとした美少女が僕の腕を枕にして、その双眸は僕を捉えて離すことはなかった。
「…………」
えーと、
「誰?」
問う僕。
それも仕方あるまい。
僕は昨夜ツナデと一緒に寝たはずである。
腕枕しているのはツナデに他ならない……はずである。
しかして今僕が腕枕をしているのは深緑の髪の美少女である。
「誰!?」
僕は意識を完全に覚醒させると同時に誰何した。
それに対して、
「……ふふっ」
深緑の美少女はくつくつと笑う。
「まぁ驚かれるのも無理はありませんね」
美少女は、
「ああ、おかしい」
と笑う。
答える気がなさそうな深緑の美少女を無視して僕は現状を確認する。
そこは加当の屋敷の僕の私室では……、
「……っ!」
なかった。
天蓋付きのダブルベッド。
畳ではない床。
ゴシック調の黒いテーブルに黒い椅子。
大きく張られたガラスの窓。
それら全てがここが僕の私室でない事を告げていた。
「何だ……?」
何が起きている?
困惑する僕。
そんな僕の腕に寄り添って、
「ああ、騎士様の腕は鍛え上げられていて、うっとりしてしまいますね」
深緑の美少女はそう告げる。
それから深緑の美少女は僕の腹筋へと手をやる。
「鍛え抜かれた体。これもまた愉悦です」
僕の腹筋を撫でて変態的なことを言う深緑の美少女。
「…………?」
僕は混乱していた。
多少……いや……かなり。
天蓋つきのベッドの中で僕は情報を処理する。
そして聞くべきことを聞いた。
「ええと……君は誰?」
そんな僕の問いに、
「私はフォトンと申しますわ」
深緑の髪の美少女……フォトンはそう言った。
「フォトン……」
「ええ。フォトンです」
ニッコリと笑ってフォトンは僕の鍛え抜かれた腹筋をなぞる。
「異世界の騎士様……あなたの名を聞かせてもらえますか?」
フォトンが誰何する。
「ええと……マサムネだけど……」
「マサムネ様ですね」
フォトンは承ったとばかりに言う。
「ええと……フォトンでいいの?」
「いいですよ」
「フォトン、君は何だ? 僕はツナデと寝ていたはずなのに……」
「ツナデ……という方を私は知りませんが……マサムネ様は私が異世界から召喚した騎士様ですわ……」
「異世界? 召喚?」
「はいな」
そう言ってニッコリとフォトンは笑う。
「私が魔術を使って異世界から召喚した騎士様……それがマサムネ様です」
「は……?」
何を言っているんだろう、この子は。