樹の国13
打算と妥協が締結した後、蓄音機に似た電話は使用人によって運び去られた。
そしてウッド王がフォトンに頭を下げる。
「フォトン様におきましては先の無礼……まことに申し訳ありません」
フォトンはというと、
「構いませんよ」
と王に対して上から目線。
そして紅茶を一口。
「ありがたきお言葉恐れ入ります」
ウッド王はどこまでも低姿勢だった。
それほどの格をフォトンに感じているのだろう。
ライト王やバミューダ王とは大違いである。
いやまぁ王としての在り方をいえばウッド王の方がおかしいのだろうけどさ。
「ところで陛下」
これはフォトン。
「何でしょうか?」
「私はブラッディレインを探しているのですけどそちらの耳には何か情報が入ってはいませんか?」
「ブラッディレインですか……一番新しい情報でも数年前になりますね……」
「ですか。答えてくださってありがとうございます」
「フォトン様はブラッディレインを探しておいでで?」
「色々ありまして」
紅茶を一口。
ほふ、と吐息をついた後、フォトンは僕に視線をやる。
「ではマサムネ様、そろそろ出ましょうか」
「もう? 別の国に行くの?」
「いえ、樹の国最大の観光スポットに……です」
「…………」
ツナデは平然と紅茶を飲む。
焦ったのはウッド王。
「フォトン様……!」
「何でしょうか?」
「まさか世界樹に……!?」
「まぁアレを見ずに樹の国を去るのはもったいないでしょう?」
「危険です!」
「承知しています」
「いえ……フォトン様はわかっておりません!」
「何を……どう……?」
「何故樹の国の王都が山の五合目にあると思います?」
「頂上に作る意味が無いからでしょう?」
「それは側面的な一つの答えにすぎません」
「では?」
「山の上部がエルフによって占拠されているからですよ」
「話には聞いていますが……」
「エルフ?」
と僕は口を挟んだ。
「はい」
とフォトンが頷く。
「金色の髪に長い耳を持ち総じて麗しい外見故に人間の慰み者として有名な希少種です。その分値は張りますが……」
「ちなみに長寿だったりする?」
「何故知っているのです?」
ベタやなぁ……。
異世界にもほどがある。
本当に異世界に来たのだなぁと再確認。
ウッド王はフォトンを諌めようと口を動かす。
「エルフは独特のエルフ魔術を使います。理屈も何もかもが不明の魔術です。いくら無限復元のフォトン様といえど無事でいられる保証はありません!」
「大丈夫ですよ。私の無限復元はその上をいきますから」
「しかしてマサムネ様とツナデ様はそういうわけにも参りますまい」
「それも大丈夫でしょう」
何を根拠に……。
「要するに私に触れていれば無限復元は適用されますから手でも握っていればオールオッケーです。更に言えばマサムネ様やツナデは相当の手練れですしね」
それは……そうだけどさ。
そもそも、
「世界樹って何さ?」
そんな僕の疑問に、
「樹の国の頂上にたっている巨大な樹を指します」
フォトンが答える。
「その高さ約八千メートル。エルフにとっての御本尊となっているんですよ」
「エルフは一神教じゃないの?」
「精霊教と呼ばれる世界に普遍的に存在するとされる精霊に敬意を払う宗教観です。人類の一部もこの精霊教信者はいますが」
なるほどね。
僕は紅茶を一口。
「その世界樹を拝もうというのですか?」
これはツナデ。
「そういうことです」
「しっかし……エルフね」
僕は後頭部を掻く。
「お兄様、ここは異世界ですよ」
わかっているつもりではあるけど、さ。
「ちなみにエルフ一人で金貨二十枚の価値がつきますよ」
フォトン……そんな悪党の理論を持ちだされても。
「本当に行かれるのですか……?」
心配やるかたないとウッド王。
「観光旅行ですから」
フォトンは譲らない。
「蓄えになるモノを見ないで観光もないでしょう?」
「それは……そうですが……」
ウッド王はどこまでも僕たちの身を案じた。
「忠告は真摯に受け止めます。ですが世界樹というモノがあるのなら見ずに通り過ぎることは出来ないというものでしょう」
僕がそう言い、
「ま、お兄様が誰かに後れをとることはないでしょうしね」
ツナデが保証した。
そんなこんなで世界樹を観光することが決まった。