表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/512

樹の国12

 ウッド王はコンコンコンと三回だけ蓄音機のボタンの一つを叩いた。


 そして世界宣言。


「我が闇の気を持ちて世界に……そして蜘蛛巣の魔術師に命ずる。光の国に対して弁論の是非を問う」


 直後に蓄音機にしか見えない伝達機とやらはザザザと砂嵐の音を鳴らして、


「あ……あ……」


 と人声を発した。


「つながったようです」


 ウッド王が言う。


 フォトンは苦虫を噛み潰したような表情だ。


 しょうがない。


 光の国を脱したというのに今更関わることになるのだ。


 同じ立場なら僕でも同じように振る舞うだろう。


 ともあれ伝達機が繋がった以上、会話はしなければならない。


「聞こえますか?」


 とフォトンは言った。


 深緑の瞳は鬱陶しさをたたえている。


「聞こえるぞ」


 と伝達機からライト王の声が聞こえた。


 中々に懐かしい声だ。


 そういえば王属騎士にならないかとか言われたっけ?


 今じゃ極刑モノの存在だろうけど。


「まさか伝達機を使って樹の国に防衛線を張るとは思いませんでしたよ」


 皮肉だろう。


 それくらいはわかる。


「で? 用件はなんでしょうか?」


「光の国に戻ってこい。今すぐだ」


 当然の言葉だった。


 そして、


「今はまだ帰れません」


 フォトンの言葉もまた当然だった。


 ここはそりが合わないと言うべきだろう。


「すでに刺客を放った。マサムネを殺されたくなければ早急に光の国へと戻れ。それが余にとってもお前にとってもマサムネにとっても最善の行動である」


「刺客?」


 フォトンは首を傾げる。


 その疑問にライト王が答える。


「ツナデという異世界の武芸達者だ。王属騎士すら相手にならぬ手練れだぞ」


「ダークに召喚させたのですか?」


 フォトンが確認すると、


「そういうことだな」


 ライト王は認めた。


「ツナデの実力は折り紙つきだ。繰りかえすがマサムネを暗殺されたくなければ光の国に帰順せよ」


 そんなライト王の言葉に、


「それなら無益ですよ」


 フォトンはそう言った。


 当然である。


 既にツナデはこちら側で、ふてぶてしくも紅茶を飲んでいる。


 が、声だけでは伝わらないだろう。


 故にライト王は問うた。


「何が無益なのだ?」


 当たり前の質問だ。


 対してフォトンはあっさりと、


「ツナデはこちら側に与しましたから」


 そう言ってのけた。


「…………」


 一時、沈黙の妖精がウッド王の私室を飛びかう。


 それからライト王の言葉が聞こえる。


「もうツナデと接触したのか?」


「はい」


「そちら側に引きこんだのか?」


「はい」


 フォトンに遠慮というものはなかった。


 ライト王にしてみれば悪夢だろう。


 だが事実でもある。


「ツナデ……」


 とライト王はツナデに話をふる。


「何ですか?」


 問い返すツナデ。


「裏切ったか……!」


「そもそもにして勝手に異世界に召喚して命令するのが不自然というものでしょう?」


「仕方あるまい。他国に紛れ込んでいるフォトン一人のために騎士団を派遣するわけにもいくまい。貴様のような背景の無い人間が必要なのだ!」


 答えたのはツナデではなくフォトンだった。


「それなら異世界召喚は意味が無いですよ?」


「どういうことだ?」


「私が刺繍した魔法陣……ウィッチステッキは《フォトンに都合のいい人間を召喚する》ために作ったものです。つまりそのウィッチステッキを使って異世界召喚をすると私に都合のいい人間が召喚されるだけですから」


「……っ!」


 ライト王は絶句したらしい。


 それくらいは僕にもわかった。


「まぁマサムネ様が空間破却を覚えたのでいつでも光の国には帰れますよ。ですから私の自由を許してください」


「むう……」


 どうやらライト王は脳内でそろばんを弾いているらしい。


 聞くにフォトンは妥協案を探っているらしい。


 ふてぶてしく応答できるのにライト王をたてようとしているのがわかった。


 律儀な奴である。


「本当に空間破却で帰ってこれるのだな?」


「保証しましょう」


 肯定するフォトン。


 なんの裏付けも無いけどね。


 言葉にせず皮肉る僕。


「確かか?」


「確かです」


 きっぱりとフォトンは言う。


 僕はフォトンの顔の筋肉の動きをつぶさに観察した。


 これは嘘をついているときの顔だ。


 だが声だけの伝達ではライト王には通じまい。


「フォトン……お主は光の国の財産だ。故に手放すわけにはいかない」


「了解してますよ」


「しているなら何ゆえ城を出た」


「こちらにも都合があるんです」


 フォトンは譲らない。


「ふん。まぁそう言うのなら構うまい。しかして再度確認だ。本当に空間破却でいつでも光の国に帰ってこれるのだな?」


「そう言ってるじゃないですか」


「ならばいい」


 ライト王は断じた。


「では各国を巡るにあたって王に謁見することだけは忘れるな。事情は大陸全土の王に伝えておくゆえ」


「首輪みたいですね」


 フォトンのその言葉に僕も同意する。


「ともあれ……」


 とフォトンは言った。


「ライト王に何かあると知ればすぐにでも光の国に戻りますのでご心配なく」


 まぁ落としどころとしてはそんなものだろう。


 ライト王も不承不承ながら納得する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ