樹の国11
ちなみに山岳国家である通り樹の国の王都も山の中にある。
馬鹿と煙と貴族は高いところが好きだが、山頂に王都を建てようものなら商人がスルーすることうけあいだろう。
そういう事情があってか王都は山の中腹にあった。
だいたい五合目の辺りだ。
僕たちでさえ軽く足を運んだ通り、商人もこの程度の高さなら馬車で寄っても問題ないと判断しているらしい。
王城門前市は活気に満ち溢れていた。
そんな市場を通り過ぎて僕とフォトンとツナデは王城の門を叩いた。
僕とフォトンの目的は二つ。
一つ、異世界の観光旅行。
一つ、ブラッディレインことラセン……つまりフォトンの魔術の師匠を探すこと。
各国の王都に寄り、王に謁見するのはブラッディレインの動向を探るためだ。
そんなわけであつかましくも予約も紹介もなく王に謁見したいと門番に提議する僕とフォトンだった。
ツナデはどちらでもいいというスタンスを示している。
まぁ元々がフォトンの都合だ。
付き合う義理が無いのだろう。
最初は渋っていた門番だったけど無限復元にしてセブンゾールのフォトンとわかると顔色を変えて王への確認に走った。
待つこと十数分。
ちなみにこの世界でも一分は六十秒である。
念のため。
そして走って戻ってきた門番は僕とフォトンとツナデを最上級の賓客として迎え入れてくれた。
恐縮しきる門番だったけど無用なモノではないかと僕には思えた。
こちとらただの観光旅行者だ。
そもそも王に謁見が叶うことすらふてぶてしいにもほどがある。
まぁ遇されるというのならそれに越したことはないけどね。
そんなわけで王城に入り、騎士によって城内を案内される。
着いた先は一つの私室。
謁見の間ではない。
私室。
多分待機のための部屋か何かだろう。
王への謁見の間ここで待てと。
まぁそう云うところかな?
そんな風に僕が思っていると騎士が私室の扉に向かって直立して、
「失礼します。陛下。フォトン様をお連れしました」
そう言った。
盛大にずっこける僕。
いや……だって……ねぇ?
なんで謁見の間じゃなくて王の私室に呼ばれるっていうのさ。
「…………」
僕が憮然としている間にも状況は進行する。
「構わん。入れ」
王の言葉が聞こえてくる。
「失礼します」
そう言って騎士が扉を開けて、僕とフォトンとツナデは私室に入った。
待っていたのはウッド王。
ウッド王は老齢の男性で、老けてはいるが衰えは感じられない風格だった。
威厳を感じないのは老いているからか謁見の間ではないからか。
一概には何とも言えない。
ともあれ礼を失してはいけないのだろう。
フォトンが慇懃に一礼する。
「陛下。お時間を頂きまして、まずは恐縮です」
「ああ、ああ、フォトン様……そのような形式はいりません。無限復元にしてセブンゾールのフォトン様にあらせられましては厚く遇せねばこちらの一分がたちませんゆえ」
ウッド王も恐縮する。
「恐縮です」
「フォトン様、マサムネ様、ツナデ様、どうぞお席に。こちらの事情も押し付けねばなりませんゆえ楽に構えてください」
そんなウッド王の言葉に緊張を解いて僕とフォトンとツナデは王の私室の……その中央のテーブルの席についた。
使用人によって茶菓子と紅茶が振る舞われ、それらを口にしながら一時が過ぎる。
「まずはフォトン様……こちらの事情を斟酌してもらっていいでしょうか?」
王であるのにフォトンに恐縮しきっているウッド王。
「なにかしら私に用事が?」
「はい」
とウッド王が頷くと同時に使用人が蓄音機に似たアンティークを持ってきて広いテーブルの中央においた。
「それは……!」
とフォトンが驚愕する。
僕とツナデには意味不明だ。
「だいたいの事情はこの伝達機を通して光の国から聞き及んでおります。光の国の財産にして宮廷魔術師……フォトン様が城に訪れたら連絡を取るようにと光の国から伝達を受けているのです」
「伝達機って何ぞ?」
僕がフォトンに問うと、
「蜘蛛巣と呼ばれた魔術師が大陸中に張り巡らせた闇魔術のネットワークによって声を専用の機械に通して遠くにおいても会話ができるように仕向けた機構です」
「遠くと会話できるってこと?」
これはツナデ。
「そういうことです」
フォトンが頷く。
つまり電波ではなく空間魔術を使った電話か。
こちらの世界ではまれにこういうことがある。
不便だと思ったモノが魔術によって解決されるという案件だ。
空間破却もその一つだろう。
でも不便が魔術で補えるのならこちらの世界の文明は僕やツナデの元いた世界と違って文明の発達が無いのではないか?
そんなことすら思う。
いやまぁ別にいいんだけどさ。
僕は使用人の淹れてくれた紅茶を飲みながら考察を止める。