樹の国10
要するに犬猿の仲ということだろう。
「マサムネ様は私のバーサスの騎士です!」
「お兄様はツナデの恋人です!」
樹の国の王都に着いてまでフォトンとツナデは言い争っていた。
僕はといえば、
「…………」
無言で薬効煙を吸っていた。
落ち着くなぁ……。
山岳国家故か王都もそこまでの広さを持ってはいなかった。
樹の国というくらいだから樹は沢山あって開拓するのも一苦労だろう。
というわけで繰り言になるけど樹の国の王都はそこまで広くは無かった。
無論王城はあり、賑やかしい市場もある。
それだけでも一般的な村や町とは一線を画しているけど、しかして下手すれば光の国や魔の国の商業都市と同じ程度かもしれないのだった。
僕は煙をプカプカ。
「あなたなんかにお兄様が守れますか!」
「ツナデよりよっぽど守れます!」
無言で薬効煙を吸う。
それからポカリとフォトンとツナデに拳骨を落とす。
「何するんですマサムネ様」
どうせ痛みを感じてないだろうけど……フォトンが抗議してきた。
「何をするのですお兄様……」
ツナデは頭を押さえながら僕に言葉をかけてきた。
「喧嘩するなとは言わないけど見苦しい真似は避けて」
そんな僕に、
「むう」
「うう」
互いを睨みあって、不可侵協定を結ぶフォトンとツナデだった。
ちなみに王都まで歩いて着いたとはいえ日は沈んでいる。
「それぞれの国の王都に行くのがフォトンの目的だったよね?」
「そうですけど」
「やっぱり謁見するの?」
「今日は無理ですね」
はっきり言った。
「時間が時間ですし」
ごもっとも。
「じゃあ今夜は宿に泊まるということで」
「ええ、そうですね」
フォトンは頷く。
「一緒の布団で寝ましょうねお兄様」
ツナデが僕の右腕に抱きついてくる。
「私と寝てくださいマサムネ様」
フォトンが僕の左腕に抱きついてくる。
「三人一緒の部屋だね」
僕は折衷案を提示した。
「フォトンにも異論はありません」
「お兄様がそう言うのでしたら……」
不承不承とフォトンとツナデ。
可愛い可愛い。
そしてさすがに山岳国家といえど腐っても王都ゆえか立派な宿に僕とフォトンとツナデは泊まることにした。
一人につき金貨一枚。
計金貨三枚。
こんなに浪費していいのかとも思うけど、この程度でフォトンの懐は痛まないらしいということを僕は聞いた。
さらに僕を驚かせたのは四次元ポケットの皮袋をツナデも持っていたことだ。
異空間に百枚近い金貨を入れているとのことらしい。
ブルジョアジー……。
元々フォトンと僕とを王都に連れ戻すための支度金だったらしいけど、そんな役目をさっぱりと忘れて僕とフォトンの観光旅行に同行しているのはどうなのさ?
僕がそう問うと、
「まぁいいじゃないですか。ツナデはお兄様が行くところに無条件でついていきます」
ニコリと笑ってツナデは言った。
……気持ちはありがたいけどさ。
そんなこんなで樹の国の王都でも最高ランクの宿に泊まる僕とフォトンとツナデだった。
パスタに生肉にスープといった旅の途中では口にできないもてなしを受けた後、僕らは風呂に入るのだった。
助かったのは決めた宿の浴場が男湯と女湯に分かれているということだった。
さすがは金貨を払ってまで泊まった宿。
この辺りは徹底している。
「うう……お兄様の背中を流して差し上げたかったのに……」
とはツナデの言。
勘弁してほしい。
とは言っても今後の推移によってはそうなることもあるだろう。
その辺は覚悟を決めなくちゃいけない。
どうせまたフォトンとツナデが喧嘩することになるのが目に見てとれる。
「やれやれ」
僕は薬効煙を吸った。
煙を吸いながら肩まで湯に浸かる。
「ツナデが僕たちに合流するなんて光の国は思ってもみないだろうね」
煙をフーッと吐く。
「オルトの一件以来追跡者はいないし……つまりそれだけツナデが信頼されているってことなのかな?」
煙をフーッと吐く。
それから吸い終わった薬効煙を燃やして消失させ、魔術で新たな薬効煙を創りだすと火をつけてまた吸う。
煙を吸いながら僕は思考を巡らす。
フォトンの事。
ツナデの事。
それから僕の対応。
気が重くなる思考だった。
「やれやれ」
生産的ではないと結論付けて僕は思考を放棄するのだった。
翌朝……僕と「おはようのチュー」をすることでフォトンとツナデが争ったことを明記しておく。