樹の国09
「マサムネ様は私のもの!」
「お兄様はツナデのものです!」
「何の権利があってそんなこと言うのです!」
「それはこちらのセリフです!」
「私はマサムネ様を必要としたから異世界から召喚したんです! 即ち私にはマサムネ様が運命の相手ということです!」
「違いますね!」
「何が違うって!」
「お兄様はツナデの想い人です! あっちの世界では何度となく愛し合った仲です! 即ちあなたは勝手にツナデからお兄様をかすめ取っただけの野盗にすぎません!」
「兄と妹で恋が出来るとでも!」
「ツナデとお兄様は血が繋がっていません!」
「たまたまこっちの世界に流れてきた流浪人が偉そうな口を!」
「それこそこっちのセリフです!」
そんなこんなでワイワイガヤガヤ。
フォトンとツナデは意地を張りあっていた。
僕は薬効煙を吸いながらそれらの舌戦を右から左に聞き流す。
「魚釣れないなぁ」
ぼんやりとそう言ってみせる。
煙を吸って吐く。
「ああ……」
やっぱり薬効煙は落ち着く。
精神的依存性はあるものだから当然かもしれないけど……これが無くちゃ僕は僕足りえない。
禁煙など以ての外だ。
煙をプカプカ。
さらさらと流れる川。
流される水流。
世界は平和だ。
誰かが言った。
人は二人いれば対立し、三人いれば派閥が出来ると。
悲しいかな。
実に的を射た言葉だと言わざるを得ない。
フォトンが僕をキッと睨む。
ツナデが僕をキッと睨む。
「マサムネ様!」
「お兄様!」
「はいはい」
なんでしょうか?
「勘違いしているツナデに何か言ってやってください! マサムネ様は私の運命の人なのだと……!」
「お兄様! フォトンに何か言ってやってください! お兄様はツナデの唯一無二の理解者にして恋人なのだと!」
お互い言いたいことはわかるけどさ……。
「やれやれ」
僕はそう言わざるを得ない。
そして僕は、
「…………」
薬効煙を嗜む。
それだけで僕の気持ちは落ち着く。
「マサムネ様!」
「お兄様!」
フォトンとツナデが激昂する。
「ん~?」
と僕は言葉を伸ばすと、
「僕を好きな人が僕の傍にいればいいと思うよ?」
そう結論付けた。
そして釣竿に手応え。
「よっ……と」
僕は勢いよく釣竿を引っ張る。
川魚が一匹釣れた。
「これで三人分だね」
先に焼けている二匹に続いて、もう一匹を火に晒す。
パチパチと枝が焼ける音がする。
塩でもあればいいんだけど……無いものを欲してもしょうがない。
あるいは簡単に魔術で作れるのかもしれないけど……そこまでするほどのものでもないだろう。
ちなみに、
「ガルル……!」
「フシャー……!」
フォトンとツナデは納得していないようだった。
互いに互いを牽制しあう。
まるでワンコだ。
僕は先に焼けた二匹の川魚をフォトンとツナデに差し出す。
「よく焼けてるよ? どうぞ」
「ありがとうございますマサムネ様」
「感謝しますお兄様」
そして串に刺さった川魚を食いちぎる美少女二人。
深緑の美少女が言う。
「私はマサムネ様と一緒にお風呂に入ったこともあるんですから!」
黒の美少女が言う。
「ツナデはお兄様と寝たこともあるんですから!」
本当にやれやれだ。
どうやらフォトンとツナデは相いれないらしい。
「マサムネ様と寝た!? 事実ですかマサムネ様!」
「寝具を共有しただけだよ」
「フォトンとお風呂に!? 事実ですかお兄様!」
「水着着用だけどね」
ワーワーギャーギャー。
フォトンとツナデは僕の所有権をめぐって舌戦を競っていた。
僕?
僕は三匹目の川魚が焼けるのを待っていたよ。
「…………」
黙ってね。
だってどっちの味方にもなれそうにないからね。
やれやれ。
痛むこめかみを押さえる僕だった。