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樹の国08

 山賊退治が終わると、僕は、


「ツナデ……?」


 とツナデに声をかける。


 ツナデは黒く艶やかで長い髪を振り乱し、


「お兄様!」


 と僕に抱きついてきた。


 しかも縮地を使って、だ。


 骨法の無駄使い。


 とまれ、


「お兄様! お兄様! お兄様!」


 ツナデは僕を呼びながら僕に抱きつき、僕の胸板に頬を擦り付け、それから、


「お兄様……! ん……!」


 と僕にキスをしてきた。


 ツナデの舌が僕の口内を凌辱する。


 いわゆる一つのディープキス。


「あ……ん……お兄様……」


 僕の唇を存分に味わいながら恍惚とするツナデ。


 僕はそれを受け入れた。


 ツナデのディープキスに身を任せる。


 と、


「駄目ぇ!」


 と第三者が割り込んできた。


 言わずともわかろう。


 フォトンだ。


 フォトンは僕の腕に抱きつくと、僕を引っ張りツナデから遠ざけ、


「マサムネ様はフォトンのモノ!」


 シャーッとツナデに威嚇した。


「深緑の髪……あなたがフォトンですか……」


 最大限の敵意を以てツナデはフォトンを睨んだ。


 黒と深緑の視線がバチバチと火花を散らす。


 僕は意外に思ってツナデに問うた。


「フォトンのこと……知ってるの?」


「ええ、まぁ型通りの情報と経験による偶像くらいは」


 頷くツナデ。


 いきなりのディープキス故に思考がすっ飛んでいたけど……それよりなにより聞かねばならぬことは他にあった。


「そもそも」


 と僕は言う。


「なんでツナデがこっちの世界にいるのさ?」


「ツナデも異世界に召喚されたんです」


 それはそれは。


「すごい偶然もあったものだね」


「偶然ではないようですよ?」


 ツナデが言う。


「偶然じゃないでしょうね」


 フォトンも追従する。


「どゆこと?」


 僕が問うと、


「ツナデはウィッチステッキと呼ばれる布に刺繍された魔法陣の力を借りた闇魔術によって異世界に召喚されました」


「やっぱり……」


 とこれはフォトン。


「召喚者の名を当ててあげましょうか」


「わかるというのですか?」


「ダークでしょう?」


「大凡は掴めているみたいですね」


 ツナデは納得していた。


 僕にはわからないことばかりだ。


「ダークって言うと……光の国で僕に喧嘩をふっかけてきた騎士兼魔術師だっけ?」


「ええ、縮地……限定的な空間破却能力を持つ闇魔術の使い手です。ダークほどの魔術師なら私のウィッチステッキ……魔法陣を使ってうまい事やるでしょう」


 フォトンが述べる。


「でも異世界の知識なんてダークには無いんじゃない?」


「だからそれを補完するためのウィッチステッキじゃないですか」


「それを使ってツナデをこちらの世界に呼び込んだ……と?」


「そういうことですね」


 頷くフォトンに、


「そういうことですお兄様」


 肯定するツナデ。


「ダークねぇ……」


 記憶おぼろげに思い出す僕だった。


「それで? 光の国からマサムネ様を追ってきたということでいいんですか?」


「ええ。その通りです。お兄様こそツナデの全て。お兄様を連れて帰れば貴族にしてくださるとライト王は言いました」


 王族にさえ敬語を使わない辺りツナデは徹底している。


「まぁそんなことはどうでもいいのですけど……ですから……ね? お兄様? ツナデと一緒に暮らしましょう? そして蜜月を過ごすのです。ここは異世界で……魔術があるとか亜人がいるとかはこの際どうでもいいです。でもこの世界ならツナデとお兄様を分かつ隔たりは存在しません。お兄様を侮蔑する父や兄もいません。つまり正々堂々愛し合えるんです……ツナデたちは」


「それは駄目。マサムネ様は私のバーサスだから」


 反論したのはフォトンだった。


 ムッとするツナデ。


「人の想い人を連れ去っておきながらよくも大きい口を叩けるものですね。お兄様がこちらの世界に来て一ヶ月。ツナデがどれほどの絶望に身を染めたかも知らないくせに」


「それでも駄目。マサムネ様は私のモノ」


「違います。お兄様はツナデのものです」


「むぅ」


「ふーん」


 バチバチと視線の火花を散らすフォトンとツナデ。


 僕はというと、


「…………」


 フォトンの抱きつきを離して釣り具を手に持ち釣りを始めるのだった。


 無論、ツナデの分の川魚を釣るためである。

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