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樹の国07

 僕は狼狽して為すところを知らなかった。


 オーラである。


 即ちこちらは感知されている……!


「……っ!」


 僕も対抗してオーラを広げる。


 オーラとは言ってしまえば感覚だ。


 そして遁術とは自身の感覚で他者の感覚を上書きする行為だ。


 世界に対して事象を上書きするのが魔術なら人間に対して感覚を上書きするのが忍術といってもいいだろう。


 そして半径一キロ……直径にして二キロメートルのオーラを広げると、


「な……っ!」


 僕は十一人の存在を確認した。


 そして十人の山賊が木々の陰から姿を現す。


 背後は川。


 逃げ場はない。


 山賊たちに半包囲されている。


「な……な……」


 僕は驚いたように言った。


「何で……っ!」


 そんな僕の反応に、


「ひゃは! ブルってるぜそっちの兄ちゃん」


「そんなに俺たちが意外か?」


「大丈夫だよ~? 優しく殺してあげるから」


「そっちの緑髪の女は上物だな~」


「殺す前に犯すかぁ」


 山賊たちはまっこと《的外れ》のコメントを寄せた。


「なんでさ……なんで……」


 狼狽えるしかない僕に、向かって最後の一人が走り寄ってきた。


 そして川を背後に半包囲された僕とフォトンと、それから山賊目掛けて十一人目が飛びかかる。


 最初の犠牲者は山賊の一人だった。


 十一人目は山賊の一人の首に、手に持ったクナイを突き刺した。


「ご……ぱぁ……!」


 血を噴いて倒れる山賊の一人。


 死んではいないが重傷。


 そして十一人目は山賊の半包囲網の中に入り込み、隙無くクナイを構えて、僕の隣に立った。


 もうオーラを展開しなくても十一人目は知覚できる。


 当然だ。


 隣に立ったのだから。


 その黒く長い髪はブラックシルクのようで……その肌はほどよく白くハリがあり……その瞳は慕情に揺れるほど麗しく……その唇は桜の花弁のように美しい。


 纏う服装は僕とフォトンと同じ黒いスーツ……ちなみに男のもの。


 これはフォトンと同じだけど。


 ともあれ……僕の義妹……ツナデがそこにいた。


「ツナ……デ……?」


 恐る恐る問う僕に、


「はい。ツナデですよ? お兄様……」


 自身を証明してみせるツナデだった。


「どうしてツナデが此処に?」


「それについては後ほど。今は危機に対処するのが先でしょう」


 そりゃまぁそうなんだけど……。


「あなたたち……」


 とツナデはクナイを構えて宣言する。


「お兄様を害そうとした罪は極刑に値します。死になさい」


 それは死神の宣言だった。


 力ある言葉という意味では世界宣言にも匹敵する。


「なんだぁ姉ちゃん。不意打ちで一人倒したくらいでいい気になってんじゃねえぞ」


「ひゃは。犯す嬢ちゃんが一人増えたな」


「黙れ下郎」


 ピシャリとツナデが緊張で場を支配する。


「女と愚弄するのならそれも良し。無駄口ばかり叩いていないでかかってきなさい臆病者ども」


 確かにツナデだ。


 間違いない。


「「「「「上等!」」」」」


 と九人の山賊は手に持った刃物を振りかぶって襲い掛かる。


 しかしてその速度は僕……そしてツナデにとっては欠伸を噛み殺してしまうほどに遅すぎた。


 ツナデは縮地を使って半包囲している山賊の端から順に攻めた。


 となればもう片方はがら空きになるわけで……僕もクナイを構えるとツナデとは反対の方向から迫りくる山賊を相手した。


 一人目の山賊の首を浅く切り、次の山賊の胸を刺し貫く。


「てめ……!」


 と逆上して襲いかかる山賊目掛けて瀕死の山賊の体を投げつけ、受け止めた山賊目掛けて神速で間合いを潰す。


 クナイを水平に振る。


 それだけで山賊の両目から光を奪うのだった。


 そして四人目に疾駆する。


「ひぃ……!」


 と四人目は恐怖に捕まっていた。


 いいカモだ。


 僕は一瞬で間合いを詰めると四人目の山賊の鳩尾に肘を埋め込み、


「げ……あ……!」


 と呼吸を逆流させる山賊の首の後ろをクナイで切り裂く。


 それからツナデを見やると、ツナデの方も四人の山賊を無力化していた。


 さすがにやる。


 最後の一人が恐怖故にその場から逃げ出した。


 しかしてそれを見逃すツナデではない。


 ツナデは両手のクナイを捨てると、さっきから常に展開していたオーラをそのままに、複雑な印を両手の指で結んで術名を放つ。


「刃遁の術」


 そしてツナデの感覚によって山賊の感覚が上書きされた。


 斬撃の幻覚を体験して山賊はショックで倒れるのだった。


 ちゃんちゃん。

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