ブレインイーターは乙女を喰らう15
神在月。
神秘の秘匿と行使を旨とする秘密結社。
ま、魔術結社なんてそんなものだろうけど。
ブレインイーターの遺体は残らなかった。
全てが灰となって散り、春の夜風に吹き散らされて、寿命の短い桜の花のように消え失せてしまう。
「お兄様は大丈夫で?」
「怪我もしてないしね」
そゆ問題でもなかろうけども、皮肉の一つも言いたくなる。
何せ被害者は皆菱の御令嬢。
葬式には参加せざるを得ない。
ツヅラが死んだことは会長にも伝えてある。
もちのろんで混乱されたし、責任も追及されたけど、はっちゃけて言えば僕の負う義務でもないのだ。
そもブレインイーターが悪く、そこに「守れなかった罪」は自虐の最上級であって、心の栄養にも良くはない。
もちろんその点を鑑みても、不条理はツヅラにあろうけど、死んだ人間を墓場から呼び戻しても……ね。
可不可なら可だ。
一般的な死の絶対性を僕はこれっぽっちも信じていない。
無限復元の例もあるしね。
――単に其処までの労力を必要とする案件じゃない。
言ってしまえばそんなところ。
「このたびはご愁傷様でした」
香典を包んで葬儀に出る。
喪服は着慣れていないけど、嫁根性のツナデが既に揃えてもいた。
こういうところでは僕は妹に敵わない。
「ツヅラは最後に何と?」
状況の説明。
因果の構築。
「僕に恋していると」
サラリと述べた。
遺体のない葬式の角で。
「それで尚殺したのか……っ」
「むしろ娘さんが怪物に取り込まれて、これからも罪を重ねる方が良かったと?」
「それは――っ!」
「ああー。いいです反論しなくて。気持ちは分からないけど想像は出来ますし。不条理は承知していますけど、一言文句が言いたくなる親心も無いわけでは無いのでしょう。そこに負い目を持つ僕じゃ在りません。然れどもこっちとしても命を狙われたので、そこはヒフティヒフティで行きましょうぞ」
「殺さずに済む方法はなかったのか……」
「そうですね……」
葬儀の場の天井を見上げて思案。
「完全なツヅラの肉体を用意して、ブレインイーターの人格ミックスジュースからツヅラの人格だけを抽出して、その抽出した人格を肉体の脳にUSB接続みたいに移植できれば可能性はありますね」
つまり無理だと言いたいのだ。
もう一個解決策はあるけどね。
「お疲れでしょう。お兄様。憎まれ役を演じなくても」
葬儀を退出して家に戻る。
ツナデが労いの言葉を掛けてきた。
「嫌味でも言われましたかぁ?」
カノンはいつも通り。
一千万とちょっとの金額がツナデの口座に振り込まれていた。
代わりにブレインイーターを倒した名誉は神在月へ。
メリット同士の関係。
「もしかしてこれからも神在月に?」
フォトンが首を傾げる。
「可能性は……ありますね……」
リリアも不安げだ。
「コッチの世界にも魔術があれば……それはね」
ジャンヌは苦笑していた。
「それにしてもツヅラお姉ちゃんが標的になるなんて……」
イナフとしても堪えがたいのだろう。
「ウーニャー! パパじゃ生き返らせられないの?」
「出来るけど意味ないでしょ。葬式もしちゃったし」
「えー。出来るんですか?」
フォトンが半眼で睨んできた。
無限復元が何を言うのだろう?
「そーですけどー。マサムネ様は規格外に過ぎます」
「ツナデも出来るよ?」
「似たもの同士ですね」
「似たもの夫婦だなんて……」
やんやんと照れるツナデだけど、そんなことを誰も言っていない。
「結局、魔導災害を倒して金を得れば、当面は大丈夫なのかな?」
薬効煙に火を点けながら僕は問う。
「ですね。もちろんお姉様が宜しければ、ですけど」
「お兄様を危険にさらすのは本意でないのですけど……」
「ま、そこはね。僕も同意だけど。けれど副業は在って良いんじゃない? 諜報活動だけじゃツナデを振り回すことになるし。そうじゃない解決手段もしかるべし。此度のブレインイーターが今後再現されないとも限るなら良いんだけど、そんな保証もないしね。その点を加味すれば、神在月との金銭取引は悪いことじゃないと思うよ」
「私としてもマサムネは戦力になり申しますよぅ」
カノンも同意見のようで。
「ツヅラに関しては振り切ったの? マサムネちゃん?」
「フィリアが思うほど意識を仮託はしてないけども」
「あう……でも……大切な……ハーレム……」
「誤解を招くことを言わないの。リリアは。魔術は覚えた?」
「万全……です……」
「なら宜し」
「普通に魔術使ってきますよねぇ、お姉様方はぁ。私はコレを覚えるのに遠い年月を掛けたんですけどぉ?」
「修行が足りませんね」
素っ気なくツナデの言う。
「結局最後まで恋愛だったんですね。ツヅラは」
「君らが言いますか」
「でも好きな人には……振り向いて欲しいですし」
そのためなら……魔導災害、ブレインイーターに取り込まれて良しと? ……そういうのだろうか。
「お兄様はどう思われます?」
「かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根し枕きて死なましものを……かな。その気になれば迎えが寄越されるんじゃない?」
「恋心は認めるのですね……」
ツヅラのモノも、ブレインイーターのモノも、ね。
単純に殺す理由とは別次元と言うだけで。
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆへにみだれそめにし我ならなくに……なんてね。
とりあえずここまで。
現代編突入と言うことで、またアイデアがあれば書きます。
異世界物だったはずなのに、なぜマサムネは現代世界で暴れているのか。
コンセプトブレブレなのにここまでお付き合いくださった読者様には無尽蔵の感謝を。
続きはまた後日と言うことで一つ。




