ブレインイーターは乙女を喰らう14
――ホテルの部屋でゴーレムが造れるか?
超質量を造れば床が抜ける。
一種の命題だけど、あまり悲観的にもなれない。
「それが何を意味するのか……はまぁこの際自分の問題として、さてツヅラの供養は一体全体どうしたものか?」
ふむ、と悩む。
結果だけ語れば滅ぼすんだけど、皆菱の父親にどう説明すべきかも……まるで宿題のようではあった。
ヒュンと鋼糸が空間を切り裂く。
「さすが」
あっちもある程度見切っているらしい。
絡め取ってグイと引っ張る。
「フィクシング」
こっちの防御を真似された。
「中々に器用な奴ですな」
「パウダーフィールド」
次の瞬間、ホテル内が爆ぜた。
あくまで結界の中で。
「さて……」
灼光に目を細めながら、僕は次なる魔術を繰り出す。
「空間破却」
ホテル外に出た……それも地面に高度を合わせて。
「あーあ。鋼糸が……。これ高いんだけど……」
普通なら無敵だけど、相手方が熱を操るのは、まぁ自然。
金属と言えど細い糸なので、高熱を浴びせれば溶けてしまう。
そのためのパウダーフィールドなのだろう。
――なるほど対策は立ててきたわけだ。
嘆息。
ブレインイーターの方も、ホテルを飛び出した。
パウダーフィールドで破れた窓ガラスから、夜気冷える空中に身を置く。
これで墜落死してくれれば御の字だけど、流石にソレは楽観論。
「ウィンドブラスト」
爆風が発生した。
それが自身……この場合のブレインイーターに向かって爆ぜたモノだから、落下速度は中和され、無事地面に着地する。
「パンツ見えたよ?」
「あら。光栄ですわ」
ブレインイーターはツヅラのアイデンティティを活用するらしい。
「ま、これでヒフティヒフティか」
「何がですの?」
「一人一般人だったからね。ツヅラは。これで全員揃って人外と言えるわけだ。中々に人外魔境と相成ったね」
「マサムネは自分を人外だと?」
「ちょっとしたコンプレックスでね」
殊更自慢にもならない弱み……コンプレックスとはそう云う意味だ。
「わたくしと同化しませんこと?」
「却下。レゾンデートルは別にある」
「例えば?」
「此処で教えても意味ないし」
飄々応えて、想像創造。
「ウィンドブレイド」
「メタルゴーレム召喚」
金属塊が風の斬撃を差し止める。
「空間破却」
「パウダーフィールド」
全方位への攻撃。
たしかに…………この未来対処は厄介だ。
「フォーリンウォーター」
滝の如き大質量の水を生みだして、叩きつける。
ここでチェックメイト。
「この――!」
「アイシクルフィールド」
叩きつけられた水が凍る。
春には辛い冷気だ。
「超振動超高熱刀」
「わたくしを殺すんですの?」
下半身が凍り漬けになったブレインイーター……ツヅラが心の悲鳴をあげる。
それは傾聴に値したけど、やることは変わらない。
「二度も殺されるんですの? そんなにもこの世界は地獄だったんですの? 全ての生存が許されないままに?」
「だから生命は発展してきた」
「マサムネに同情の気持ちはないんですの? たとえこの身がブレインイーターだとしても、今この人格はツヅラなんですのよ?」
「知ってる」
殊更再確認することでもない。
「別にツヅラを何とも思っていないわけじゃない。ブレインイーターを悪だと断じるほどでもない。殺す理由は……そんなに無いかもね?」
「では何故!」
「僕さえ襲わなければ無事に済んだはずなんだよ。カノンは敵に回したろうけど、少なくとも僕を敵に回すことはなかった」
「神在月がそんなに大切ですの?」
「カノンはね」
僕は別段なんともはや。
「さて何人の人格を取り込んだのやら。想像も付かないけど、在る意味で人格の保存にはうってつけだよね」
しかも寿命無き怪物と来る。
「人格保存はお手の物。私はソレだからね」
こんどは少女の人格になった。
市立図書館で出会ったままの。
「マサムネは本当にドライだね」
「まさか。僕ほどの人情家はいないよ?」
「そういうところが」
「皮肉にも相当する……か。何か言い残すことは?」
「恋していますわ。マサムネ。コレは本当に」
「だろうね。ツヅラを完全に再現したなら、その気持ちも真なりし」
パン、と空気が爆ぜた。
不可避の死刑執行。
ブレインイーターの首が横一文字に切り裂かれた。
「容赦ないですわね」
「まぁね」
そして首から落ちた頭部を更に超振動超高熱刀で切り裂く。
あらゆる異能を獲得しているのだ。
首だけから再生されても厄介なので、脳も焼き切っておくべきだった。
「これで給料が入る……ね」
とりあえずは神在月への手土産には為ったわけだ。




