ブレインイーターは乙女を喰らう13
『マサムネ……今会える?』
そんなコメントがラインから来た。
ツヅラだ。
『会えるも何も帰ってくればいいだけでは?』
居候の身分だ。
別段出禁もしていない。
『もう!』
何か?
『他の乙女が居ない場所で会いたいの』
『さいでっか』
そしてホテルを指定される。
高級ホテルだった。
少なくとも「泊まる気にも為らない」と言わしめるほどには。
時刻は丑三つ時。
草木も眠る何とやら。
「……ま、別に夜更かしもいっか」
スマホを握ってそんな自己弁護。
というか大体分かっていた。
スマホでホテルの位置を確認。
そっちに向いて歩く。
ジャンヌかツナデを寄り添わせるべきだろうけど、今回に関しては邪魔の一言で、遠慮してもらう形と相成った。
スマホで通話して、夜道を歩きながら。
「こんな時間に何の用?」
「夜遅くにはゴメンあそばせ。でもマサムネに会いたいのは事実ですわ。こっちとしては身分もあるからホテルに誘うのは勘弁してほしいところでして」
「ハーレムに弑されるよ?」
「あははー。ですわね。あの連中、普通に有り得ないですし」
一応――乙女たちが何なのか?
それは把握しているらしい。
そして僕はホテルに着いた。
「マサムネ~」
抱きつこうとしたツヅラに回し蹴りを浴びせる。
頭部に突き刺さって、ズザザーッと吹っ飛ぶ彼女。
「何するの!?」
「こっちの話。ブレインイーターは食したソフィアを再現出来るんでしょ?」
「――――――――」
瞬間、ツヅラの表情がのっぺらぼうになった。
「わかるの?」
「そりゃ特性を考えればね」
今更だ。
こっちに帰ってくれば幾らでも会えるツヅラ。
なのに外で会おうとする。
要するに、カノンの結界を越えられないわけで……その点を吟味すればツヅラがブレインイーターに食された――は論理的な帰結だ。
「それで尚来たんだ?」
「別に遠慮する仲でもないでしょ」
「わたくしはツヅラですわよ?」
「知ってる」
「殺すんですの?」
「金銭的な理由で」
「そんな俗事的な理由で……っ!」
「今のツヅラはブレインイーターだし」
「けれど確かにツヅラですわ!」
「それも知ってる」
要するに、人格的な再現で、ブレインイーターはツヅラを前面的に押し出し、僕の憂慮を狙っているらしい。
あまりに無意味に過ぎるけど。
「で、殺せばいいの?」
「殺せるんですの? わたくしを? マサムネを想っているわたくしを? 本当に……ブレインイーターの保護下に入るのは愉悦ですのに?」
「興味ないかな」
それが僕の本音だった。
想像創造。
後の言霊解放。
「フレイムブラスト」
灼熱がブレインイーターを襲う。
「フォーリンウォーター」
魔術で対抗するツヅラ。
「やはり……か」
僕は納得した。
「何がでしょう?」
「ブレインイーターは食した人間の能力を取り込める」
「ですわね」
ツヅラは頷く。
今はブレインイーターだ。
「その中に直感に長けた能力者が居るのでは?」
「そこまで見切りますの?」
「そうでもなければ空間破却に対応できないし」
僕は肩をすくめた。
「第六感か未来視か。どちらにせよ厄介には違いないね」
「そこまでわかって此処に来たんですの?」
ツヅラはむしろ呆れたようだ。
「これ以上付き纏われるのも面倒だし」
本当にそれだけ。
「面倒?」
「そう。面倒。他に言うべきなら厄介事とも評せるかな? つまるところここで滅却しないと何時までもグズグズに状況が流される。なら此処で早々に私怨を断つのもまた人情……そうは思わない?」
「失礼さんです」
「ツヅラを食したのは良いカードだったろうけどね。生憎と自己同一性に於いては既に結論が出ているんだよ」
「それがわたくし…………ツヅラじゃなくても?」
「それはこれから滅ぶ君が知ることじゃないかな」
僕は想像創造を練り上げる。
言霊解放は同時。
「フレイムスフィア!」
「アクアワールド!」
火と水がせめぎ合う。
それは異界反動。
その極致でもあった。
世界同一仮説。
ただ神秘たりしモノ。
故に、僕は僕で、ブレインイーターはブレインイーターで……それぞれに各々の欲望と義務を果たすために此処に居る。
それだけは間違いなかった。




