ブレインイーターは乙女を喰らう06
砲撃には爆音が伴った。
超絶的な破壊はアスファルトを粉砕し、あたりを地獄に変えていた。
「流石にシャレにならんな」
その破壊領域から逃れた僕たちは唖然とするほかない。
「僕の脳が欲しいんじゃなかったっけ?」
「多分私のせいですねぇ。まずはご当地魔術師を排除しようとしたのかぁ」
僕に首根っこを掴まれているカノンが、ボンヤリと……それはもうボンヤリと……何気なく述べ奉った。
「さてどうする?」
「滅ぼすだけですぅ」
カノンは言う。
「ジャンヌお姉様ぁ。支援をお願いしますぅ」
「承りました」
承っちゃったよ……。
良いのかソレで?
「火は原初。その全ては空洞に在り。よりて全ては熱に祝福されしならば、我はその終を知る者。吠えろ!」
「――――――――」
カノンの言霊解放と、ジャンヌの灼熱がマッチする。
「ダブルフレイム!」
灼熱がアハトアハトを襲った。
その超爆撃から逃げるために、ジャンヌとカノンの首根っこを掴んで、僕は避難する……というかせざるを得ない。
閃光。
熱波。
衝撃。
爆音。
爆風。
悉くが破裂した。
「うわお」
さすがに呆れざるを得ない。
それこそ威力的に過ぎた。
「もっともフォトンのファイヤーボール程じゃないけど」
あれはまた別世界。
とりあえずは、
「大丈夫か? ジャンヌ?」
「ええ、一応」
「マサムネは私を心配しないんですねぃ」
「必要ないでしょ」
「然りですねぇ」
お互い通ずるところがあった。
「で、アハトアハトは……」
灼熱の煙が晴れると、其処にはグズグズに滅んだ金属と、脳を抉り取られた死者が存在した。
チャイルド……。
「チャイルドですねぇ」
正解のようだ。
「それにしても何なんだ……ブレインイーターは……」
「ま、今更ですけどねぇ」
「マサムネ様はどう思われているので?」
「タチが悪い。コレに尽きるかな?」
「致し方ない結論だと存じます」
そんなやり取り。
「――――――――」
そんな僕らに……脳を抉り取られ、喰われてしまった被害者が襲いかかる。
チャイルド。
ブレインイーターの使い魔。
というか家畜だろう。
使用方法を考えると。
「さてそうなると……」
話は簡単だ。
ピンと糸の音がした。
蜘蛛の巣。
夕立。
鋼糸術の一端だ。
獲物を巻き取る蜘蛛の巣。
唐突に降りすさぶ避けようのない夕立。
その名を冠した鋼糸の使い方。
天井から降り注いだ鋼糸が、夕立となってチャイルドを濡らし、その絡みつきが蜘蛛の巣の如く彼我を固定した。
「――――――――」
吠えるチャイルド。
その瞳に焦燥を見た。
「?」
カノンの困惑。
見ているはずだけど、半ば不安だったのだろう。
別に弁明を必要とする場面では無いし、こっちとしても此処で事細かに詳細を説明する義理も無いものだけど。
「それじゃ」
まぁ。
「――――っ!」
グッと鋼糸を弄んでいる指を握る。
次の瞬間、チャイルドはバラバラに成った。
鋼糸術。
糸を絡めて斬殺する暗殺術。
忍の家系では珍しくもない。
「いい加減不条理ですねぇ。マサムネはぁ」
「いやぁ」
お褒め預かり恐悦至極。
「そんなつもりではないのですけどぉ」
知ってる。
「こうなると」
「ブレインイーター本体の警戒も強くなりますね」
ジャンヌが僕の言葉を引き継いだ。
「ふむぅ」
カノンが思案気な顔をする。
「何か患うモノでも?」
「いえ、これで別の魔術師の管轄に逃げ延びれば話は早いかな……とぉ、そう思っただけですぅ。ブレインイーターの性質上……あり得ないとも言えませんしぃ」
「漂流タイプ……だったっけ?」
「さいですさいですぅ」
コクリとカノンが頷く。
「相手方はゴーレムに一家言あるのかな?」
「でしょーねぇ」
そこは違えていないわけだ。
それにしても厄介な……。




