ブレインイーターは乙女を喰らう03
「どう思う?」
「カノンが言ってましたね。今まで食べた被害者をチャイルドとして保管していると。その内の二体ではないでしょうか?」
なにも人を襲うためだけが結界ではない。
もっと単純に、チャイルドを大量に保管する貯蔵庫としても機能する……とは確かにカノンの説明にあった。
そこから新しい結界に移送して、アスファルトで武装……か。
「良く出来てるね」
素直に賞賛に値した。
「で、どうしますか」
「死者は火葬しよう」
「ですよね。脳を喰われてソレでも生かされるなんて……ブレインイーターの趣味をさえも疑いますし」
意見は一致した。
「では私が」
「大丈夫?」
「応援してください。それが何より私の力になります」
「じゃあ」
コクンと頷く。
「頑張れ」
「委細承知」
灼熱が蛇と為ってチャイルドを襲う。
くりぬかれたように後頭部を失った死体は機敏に動いて、熱を避ける。
「機動力はそこそこか」
僕はジャンヌの戦いを見ながら、分析していた。
「――――――――」
ジャンヌはノーモーションで炎を操る。
想像創造も言霊解放も必要としない。
元より予め定められたバッチ処理。
フォトンの無限復元がリアルタイム処理で、ちょうど相反するとも言えるかもしれない。
なにせ結局のところ神の……超常存在の「那辺にあるか?」だから……かち合う理屈もまた違うのだ。
「まるで狼ですね」
チャイルドを指して、ジャンヌはそう表現した。
「向こうがコッチを狙っているのに距離を詰めようとしない……か」
「疲労を待っているんでしょうか?」
「だとしたら計算外も良いところだけど」
それよりジャンヌの炎が捉える方が早い。
「――――――――」
こんどはテーブルクロスを掛けるように、広く浅い炎がブワッと広がった。
広範囲殲滅。
避ける間もない。
炎によって焼ける。
けれどチャイルドは滅びなかった。
「範囲より局所ですか」
少し悩むようなジャンヌ。
「勝てる?」
「勝てはしますよ」
そこは自負が裏切らないようで。
「ただ死者を燃やし尽くすには火葬に匹敵する威力が必要です。熱量さえ調達すれば可能ではありますけど」
「問題は那辺に?」
「いえ。死者は何も感じないので、浅い火傷では怯ませることも出来ないな……と」
「それは向こうのアドバンテージだね」
「申し訳ない」
「とは言っても浄化の炎だから効いているみたいだよ?」
「それはそうなんですけど」
実際チャイルドの四肢が崩れ落ちていた。
「後は任せよう」
「承りました」
ボッと手の平に炎が点る。
「フレイムサンクチュアリ」
珍しく言葉を発するジャンヌ。
全方位灼熱地獄。
ジャンヌと僕を台風の目に、その他一切を焼き尽くす。
なるほど。
結界内だから出来る大技だ。
骨となるチャイルド。
ここで漸く、チャイルドたちは「人として死ねた」のだ。
「さすがにこんなのが蔓延っているのは憂慮に値するね。カノンが焦る理由も分かった気がするし……こういうことを防ぐためにカノンはこの街の魔術師として奮闘していたんだろう」
「至極同意です」
ジャンヌも同意見のようで。
「さて、じゃあ帰って冷しゃぶを食べよう」
二体のチャイルドは火葬した。
結界が崩れる。
元の世界に帰還。
車のエンジン音と、人々のざわめき……ついで春風による木の葉の合唱が……それを僕たちに教えてくれたのだった。
「にしてもゴーレムか」
その発想は無かった。
魔術で生命を創る。
錬金術で言うならホムンクルスか。
「まだまだ知らない世界だなぁ」
「それは仕方在りませんよ」
それも分かってはいるんだけどね。
どうにもこうにも。
「屋敷に戻れば大丈夫だし、次の一手を考えるならカノンを待とう。食事をしなけりゃ戦力も目減りするしね」
「ですね」
クスッとジャンヌは笑った。
「面白いことでもあった?」
「いえ、マサムネ様の頼もしさを改めて実感しました」
「そんなこと言ったかな?」
「冷しゃぶは楽しみです。ツナデ様の料理は本当に美味しいですから」
「にわか嫁だからね」
「私は愛人で構いませんよ?」
「そういう卑屈さも好きだね」
「本当ですか?」
本当です。
ついでに穏当です。
「肉を茹でて、冷やす……ですか」
「冷しゃぶの基本だね」
「氷が調理室で造れるのも驚きですけど。冷凍庫……でしたか?」
さいです。




