ブレインイーターは乙女を喰らう02
「似合ってますか?」
「抜群に」
春らしい格好のジャンヌでした。
腰紐付きのワンピースに、薄手のジャケット。
赤い髪を少し隠す、つばの広い帽子。
どこか高原のお嬢様を思わせる。
で、昼食の材料を買いに、僕はジャンヌと外に出る。
今日の昼食は冷しゃぶの様で。
主に豚肉が狙い。
「屋敷は結界を張られているのですよね?」
「カノンはそう言っていたね」
神秘関連がまたげないような異世界の敷設。
しかも竜穴での事だから、これっきりでもないらしい。
こと魔導災害に対しては、鉄壁の守りとのこと。
何処までを信じれば良いのかはわからないけども。
春風が心地よく、空は澄み渡っている。
「ちょっとしたデートだね」
「えへへ。役得です」
ジャンヌには珍しい遠慮のない意見。
いつもは他のヒロインとの距離を案じているのは知っていたけど、こうやって二人になると別の側面も見つけられる。
ソレがちょっと嬉しい。
近場のスーパーに着く。
「いつ見ても壮観ですね」
「慣れてないとそうだよね」
僕にとっては今更だけど。
「ジュースなんて高級なモノを銅貨一枚程度で売ってるなんて……」
「そこはまぁ薄利多売の産物かな?」
他に述べようもない。
「大根と……豚肉と……」
ヒョイヒョイと籠に入れていく。
ついでに冷凍食品も。
便利な世界になったモノだ。
あっちの世界では野宿が当たり前で、干し肉とパンと……後は釣った川魚を食べることが多かった。
よくもまぁと言った御様子。
アレはアレで悪くなかったけどね。
魚はちゃんと美味しかったし、干し肉だってサバイバル風で冒険心をかき立てられた。
「あの……」
「何か?」
「その……」
「遠慮せずに申してみなさい」
「アイスを……食べたいです」
「……………………」
幾らでもどうぞ。
そんなわけでレジを通って、外へ。
ジャンヌはアイスを食べながらご満悦。
僕は買い物袋を両手に提げて、歩いていた。
鍛えているのでこれくらいはどうにでもなるし、「私が半分持ちます」とのジャンヌの意見には「君はブレインイーターの要警戒」で説き伏せた。
そして屋敷に帰ろうとすると、
「――――――――」
ふと雑音が消えた。
一瞬で覚る。
結界。
神秘が神秘たらしめる要素の一つ。
超常検閲だ。
それなりに広い道路の歩道。
四車線のアスファルトは隆起していた。
いや……それを隆起と呼んでいいものか。
アスファルトは巨大な人型になっていた。
全長は十メートルを超えるだろう。
それが二体。
「……………………」
ジャンヌは言葉もないのかと思えば、冷静にアイスを食べていた。
とりあえずオーラで状況確認。
僕とジャンヌ……それから巨大な二体のゴーレム(しかもアスファルト製)……他にはなし。
「なるほど異世界ね」
スマホも通じないらしい。
これではカノンに連絡を取りようもない。
「どうします?」
「ジャンヌに任せる」
僕は買い物袋を持っている。
玉子も買ったので慎重に扱いたいところ。
「では燃やしてみましょうか」
ボッとジャンヌの手の平から烈火が生まれた。
再確認だけど便利な魔術。
「とはいえ相手はアスファルト」
「アスファルトって何です?」
そりゃ知りませんよね~。
「要するに泥と砂を捏ねて作った化合物?」
僕もよくは知らない。
烈火がアスファルトゴーレムを襲う。
「これはチャイルドとは違うんだろうか?」
少しそんな懸念。
思うことは幾つかあれど、僕としては魔術に明るいわけでもない。
まして結界による待ち伏せも、魔術生命の自律型も。
多分カノンが一番よく知っていて、次にリリアだろうね。
一応異世界の魔術学院の出身だし。
「燃えはしますけど、浸透が遅いですね」
それはそうもなる。
「襲ってくる……にしては鈍重だしね」
単純に質量の問題だろう。
十メートルのアスファルトの人型だ。
普通に重力に負けるだろう。
「もうちょっと温度を上げましょうか」
「え? 出来るの?」
「上限はありませんよ?」
…………ガチかい。
ちょっと不穏な気配も感じる。
それほどパイロキネシスの威力は凄まじかった。
「――――――――」
燃え尽きるゴーレム。
その中からチャイルドが現われた。
あ、操縦者は居るのね。




