アナザーカウンター05
「非常識極まりないですぅ」
カノンはジト目でコッチを見た。
「何が?」
「こっちが魔術を覚えるのにどれだけ掛かったとぉ? ふつ~一足飛びで越えるようなものですかぁ?」
それこそ知ったこっちゃないんだけどな。
「お兄様を否定なさるのですか?」
ニコッと笑うツナデ。
表情が笑っていない。
正確にはその筋肉が。
「あぅ」
首をすぼめるカノンでした。
「お姉様も使えるとはぁ……」
「それなりに慣れたモノですよ。異世界でも使っていましたし」
「ソレなんですよねぇ」
何が、かは聞かなかった。
「ウーニャー!」
ウーニャーは尻尾ペシペシ。
「そうなると、お姉さんたちの魔術はどう映るのかしら?」
それね。
「お兄様はどう思われます?」
「イラストソフトの違い」
「イラスト……絵ですか?」
「そ」
茶を飲む。
別段何が在るわけでも無いけど。
「要するにウーニャー、フィリア、ジャンヌの魔術はイラストとして完成した画像ファイル……とでも呼べば良いのかな?」
我ながら仮説だけど。
「つまり画像ファイルとして出力されているので異世界……つまりこっちの世界という名のイラストソフトでも色彩の後追いが可能と?」
「本当に仮説だけどね」
「ではフォトンの無限復元は……」
「正解」
僕は頷いた。
「システムファイル」
そういうことになる。
神様……超常存在がパソコンという世界に於けるイラストソフトなら、フォトンの無限復元は確かにシステムファイルだろう。
画像ファイルと違って、専用のイラストソフトでしか起動できない。
それそのものがヤルダバオトの副産物だ。
「なるほど」
対して画像ファイルは別のイラストソフトでも使える。
単純な残骸なので、まぁそれは良しとしても。
「?」
異世界組は、揃ってポカンだった。
たしかい比喩に於いては難しいけども。
「じゃあこっちでも魔術が」
「使えるわけだね」
フォトンの言葉を取り上げる。
「あー」
ホケッと述べて、冷や汗を流すフォトン。
うん。
気持ちは分かる。
「フォトンは魔術を使わない方が良いね」
多分ソレだけで、破滅する。
あらゆる意味で規格外。
神秘の隠匿も在ったモノじゃない。
「自重します」
「それがよかれ」
僕も頷いた。
正味な話、フォトンの魔術を此処で行使されれば、僕やツナデどころか屋敷が……というかここら一帯が壊滅する。
その威力については、既に僕らは覚っていた。
「はた迷惑な乙女ですね」
「ツナデ自重」
別にフォトンが魔術を使わなければ良いだけで。
「さてそうなるとぉ」
「何か?」
「お姉様方は魔術を普遍的に使えるということでぇ」
まぁそうだね。
「ブレインイーターの格好の的ですねぇ」
「そうかな?」
「ブレインイーターは希少な才能を欲しますのでぇ」
「それはそれは」
あながち間違いでもないけど、それにしたって趣味の悪い……いや、アナザーカウンターとしては自然なのか。
「それにしても言霊解法をこうも鮮やかにぃ……」
「慣れですね」
「ドラゴンが居るので否定はしませんけどぉ」
困惑。
それがカノンの感情だった。
「結局ソレをどうにかしたいと」
「なわけで神在月に所属をぉ~」
「いいけどさ」
「いいんですか?」
ツナデがむしろ掣肘した。
「単純に所属しなくても既に巻き込まれているし。それなら理解のある組織に居た方がコッチとしてもメリットはある」
「それは……そうですね……」
「ついで異界反動を倒せばお金が手に入る。さすがに諜報だけでは身も縛られるけど、こっちの商売なら地を動かすこともないしね」
「オーキードーキー。お兄様がそう仰るならツナデは止めません」
「ではぁ」
とはカノン。
「此方に所属するで宜しいですかぁ?」
「はい。よろしく御願いします」
僕は頭を下げた。
「お姉様は宜しいのでぇ?」
「お兄様第一主義ですので」
軽やかな、ソレは宣言。
「あうぅ」
「何故僕が睨まれるのかな?」
分かってはいるんだけど……乙女の恋模様に理屈を点けるのはスマートでないし、何より別段、僕はカノンが嫌いではない。




