アナザーカウンター04
「フィジカルネメシス?」
ウーニャーが首を傾げる。
「神在月が最も危惧すべき可能性ですぅ」
「?」
カノン以外の全員がついていけていない。
「ゴッドゲイザーについては述べましたけどぉ」
だね。
「つまり基準世界の神……超常存在は、ゴッドゲイザーが観測すれば、基準世界での総数が目減りすることに繋がりますぅ」
神を観測した準拠世界が生まれる。
結果として、基準世界は、
『その神を観測しなかった世界』
と定義されるわけだ。
「だから魔術や魔導災害……要するに異界反動は神秘なんですぅ」
「ウーニャー?」
「何で~?」
ウーニャーとイナフには分からないらしい。
「これで全ての超常存在がそれぞれ観測された異界に肯定されると、此方の世界には超常存在が存在しないのに、世界同一仮説が強引に適用されますぅ」
「あー」
「なる」
「ほど」
フォトン。
フィリア。
ジャンヌ。
此方は聡く悟ったらしい。
「神が居ないのに、世界のエネルギー総量が、破綻するぅ。魔術も魔導災害も起こりようがなぃ。なので、エネルギーの総論として決定的パラドックスが起きるわけでぇ……結論を申せば世界の命題が論理的に破綻するんですぅ」
だから、
「魔術や魔導災害は神秘」
「そう相成りますねぇ」
「これ以上ゴッドゲイザーが増えないように、神在月は異界反動……アナザーカウンターを秘匿して、基準世界の超常存在を保護しているってワケだ」
「百点ですぅ」
「ふむ」
つまりそうなると、
「こちらでも魔術が使えるってことだよね?」
「それはまぁ」
異界での反動の分が許す限り、熱力学無視の現象は起きるわけだ。
それが、
「魔術」
か、
「魔導災害」
か、の違いだけで。
「となると」
僕は新たに薬効煙をくわえて、呪文を唱える。
「ファイヤー」
手の平から炎が生まれ、僕の薬効煙に火が点く。
「は?」
カノンは両目と口で三つの円を作った。
「なるほど。理屈上で言えば、こっちもあっちも原理は変わらないわけだね」
想像創造。
世界宣言。
神は確率でしか存在しないけど、たしかに居はする。
後は異界反動の結果か。
「想像創造と言霊解放を何故使えるのでぇ?」
「向こうで慣れたし」
他に言い様もない。
おそらく、
「言霊解放」
が、あっちの世界での、
「世界宣言」
に繋がるのだろう。
幾ら神とは言え、あくまで――カノンの言葉を借りれば――元々は超常存在と呼ばれる……いわゆる超越者だ。
であれば、適応される法則も一緒だろう。
そう思って、試してみたんだけど、
「当たりみたいだね」
そゆことだ。
「想像創造はぁ?」
「精神の律し方なら慣れてる」
「じゃぁ」
「お兄様?」
「何か?」
「こちらの超常存在に願ったので?」
「だね」
そこはOSの問題だ。
「何ゆえぇ!?」
カノンは狼狽えていた。
然程かね?
少し疑問に思うも、たしかに向こうの世界でも、魔術を運用するためのハードルは大きかった気もする。
単純に僕やツナデが規格外なだけで。
「要するに、拝む神を変えれば良いんでしょう?」
ヒュンと、ツナデが人差し指を振るう。
「ティータイム」
茶のお代わりが魔術で注がれた。
「お姉様までぇ!」
「これくらいは基礎教養ですね」
忍。
精神を律すること地獄の如し。
遁術が使えるのだ。
脳の酷使は平然たるもの。
「どうやって?」
ツヅラが眉をひそめていた。
「ま、そこそこにね」
「お姉様方も……もしかして……」
「使えますね」
「あう……ですね……」
フォトンとリリアもそう述べた。
異世界での魔術に慣れた身では、たしかに想像創造は簡単だし、ついでに祈る神様が違うという認識を持てば、あまり難易度として難しいとは呼べない技術でもあることは、あまり間違いもないだろう。
「どゆ理屈ですの?」
ツヅラだけが場から置いていかれていた。




