アナザーカウンター02
「結構稼げるんだね」
「場合が場合ですしねぇ。そもそも派遣社員……というか人材がそこまで多いわけでもないので、魔術師は希少価値を持ちますぅ」
それはそうだろうけど。
「魔術は神秘ぃ。神性の秘匿ですぅ。ですからあまり手が回らないのも現状の問題ではありますねぇ」
「人員を増やそうとは考えないのかしら?」
フィリアにしてみれば、そこが不思議らしい。
「先述したフィジカルネメシスを引き起こす可能性を防ぐためにも、魔術は秘匿されるべきモノですぅ」
――まぁ。
そうカノンは肩をすくめる。
「もとより現象矛盾が異界反動の結果ですから、そもそも人類……というか文明に明るくならないのも必然なんですけどねぇ」
「現象矛盾」
「異界反動」
「結局そこに行き着くわけですぅ」
「さっきから何の話をしていますの?」
ツヅラは、まぁ、スルーの方向で。
「お姉様方は異世界から来たんですよねぇ?」
「今更ですね」
フォトンがクスリと笑う。
深緑のおさげが揺れた。
「では異世界の成り立ちはぁ?」
「聞きましたよ」
「誰からぁ?」
「巫女」
「巫女ナース」
ジョークのセンスが古い。
「ゴッドゲイザーと言っていましたか」
ツナデが思い出す。
日本の女子高生。
突発的に神を観測する。
そして、
『神の居る世界』
と、
『神の居ない世界』
の二つに世界を分けた存在。
この場合はエヴェレット解釈だ。
そして、前者の世界から、後者の世界へ……空間破却を用いて、僕とツナデは魔術的に帰ってきたわけだ。
異世界ヒロインズも同行して。
「ゴッドゲイザーに会ったんですねぇ」
「ウーニャー。知ってるの?」
「パーソナルデータとしては知りませんよぅ」
ハンズアップ。
そりゃそうだ。
「けれどもゴッドゲイザーの存在自体は知っていますぅ。っていうか在る意味で……世界破滅の因子ですしぃ」
「異世界が?」
「ですねぇ」
ツナデが食後の茶を淹れる。
僕は薬効煙に火を点けた。
煙を吸う。
「ヤルダバオトが世界を破滅させると?」
「ヤルダバオト……ぉ?」
「異世界の神だよ~」
イナフが簡潔に。
「いえ、まぁ」
――ヤルダバオト。
巫女はそう言っていた。
「神在月の字面の意味は知っていますかぁ?」
「出雲大社の旧暦十月だっけ?」
「ですぅ」
その時期になると、八百万の神様が出雲大社に勢揃い……とのこと。
宗教は金になるね。
「要するに神様はいっぱいいるんですよぉ」
「神様?」
ジャンヌの首傾げ。
「神在月では超常存在と呼んでいますぅ」
「ちょうーじょーそんざい」
ツヅラのポカン。
「神じゃダメなの?」
僕が興味本位百パーセントで尋ねた。
「結構居ますので、神……と呼ぶには有り難みも無くぅ」
「つまり」
煙をフーッと吐く。
「異世界のヤルダバオトと同格が、この世界には多数いると?」
「そう相成りますねぇ」
軽やかにカノンは頷いた。
「で、その超常存在を崇めるのが魔術師と云うわけですぅ」
「ふーむ」
茶を飲みながら、ツナデが思案。
「結局異世界にしてもこっちの産物と?」
「ですねぇ」
飲茶。
「で、神在月としては、あまり超常存在を確定観測して欲しくないんですよぅ。ぶっちゃけはた迷惑な行為には違いないんですからぁ」
確定観測。
要するに、
「量子的に不安定な神様を観測することで確定」
並びに、
「エヴェレット解釈による世界の複数化」
を無くしたいわけだ。
「ウーニャー。何でー?」
ウーニャーも不思議らしい。
「まず以て、世界の超常存在を減らす事が脅威ですのでぇ」
「?」
僕らは揃って首を傾げた。
――何かマズいことをしましたか?
「その反動を異界反動……アナザーカウンターを呼ぶんですよ」
さっきも聞いたね。
異界反動。




