ようこそ神秘の世界へ10
「えぇ?」
困惑のカノン。
今日の夕餉は肉じゃが。
ツナデのお手製。
さすがに家庭料理に於いては、一日の長と言いますか……頭一つ抜けているツナデであって……お兄様としても万々歳。
「はぐはぐ」
米をかき込む。
この幸せよ。
「チャイルドを退けたんですかぁ?」
「そうなるね」
チラリとジャンヌを見やった。
「あはは」
社交的な笑い。
大人な感じだ。
「どうやってぇ?」
「魔術」
端的に述べた。
別に他の言い方もなかったし、何よりジャンヌのパイロキネシスは十分に魔術の範疇に属している。
否定する方がどうなのだ。
「見せて貰えますかぁ?」
「マサムネ様?」
「構わないんじゃないかな?」
そんなわけでお披露目。
「まぁこの様に」
とジャンヌは炎を操る。
手の平からボッと炎を点す。
その炎は火球となって、ダイニングをふよふよと浮かんで、まるで人魂の様に自在に動いて宙を舞った。
「――――――――」
パチンとフィンガースナップ。
火球は霧散する。
「こんなことがぁ……」
カノンは瞠目していた。
いや……僕だって瞠目してるけど。
「一体何なんだ?」
って話ではあるよね。
正直なところを語れば。
炎を自在に操り、チャイルドすらもモノともせず、尚且つ詩使いのカノンと違って、ノータイム無詠唱で灼熱を発露するのだ。
破格と言って過言ではない。
「それで大丈夫なの?」
「いえぇ……そのぅ……」
何か歯に物が挟まったような声。
「有り得ません」
その気持ちは分かる。
「魔術の下地も無しに、これだけの神秘を扱えればぁ」
他にも居るんだけどね。
ここでいうことでもないか。
「ウーニャー!」
尻尾ペシペシ。
此奴も此奴で何だかな。
「魔術の行使を可能とする……ぅ」
まず、
「魔術って何よ」
って話になるんだけど。
「神秘ですぅ」
それは知ってる。
「……………………」
肉じゃがホロリ。
ツナデ……グッジョブ。
グッとサムズアップ。
返礼もサムズアップだった。
ほとほとツナデには敵わない。
「美味しかったなら良かったです」
「嫁候補だしね」
「お姉様は渡しませんぅ!」
「それは後刻として」
「ぐ……ぅ」
痛いところでも突いたかな?
少し疑念。
「異世界の魔術ですかぁ?」
「そうなるのかな?」
あまり実感もないものだけど……それにしてもウーニャーとフィリアとジャンヌの魔術はこっちの世界でも通用するのも事実で。
「南無三」
カノンは十字を切った。
「一神教?」
「いえぇ。神に抗議するときに使いますぅ」
それはまた不敬罪で。
「他にもぉ?」
「いえ。私は炎を操るだけですね」
熱と光も含めてね。
ジャンヌの謙遜もわからないじゃないけど、それにしたってその魔術……異能か……ソレはあまりに破滅的だ。
「むうぅ」
何か唸るようなカノン。
「魔術が使えるぅ……」
「何か大変なことなのでしょうか?」
ジャンヌに自覚は無いようで。
「大変なことですよコイツァ」
あ。
やっぱり?
「正味な話、此方の組織に所属して貰いたいほどですぅ。一応そっちの方が金銭的にもバックアップできますしぃ」
「金銭? バックアップ?」
「ソレについてぇ」
カノンの嘆息。
「これから話そうと思いますぅ」
どこかジャンヌの暴露……爆弾発言にてストッパーが外れたような……覚悟完了の声色でカノンは語り出した。
此方の世界の魔術。
その根幹について。




