樹の国03
「ふ~ん。要するに山岳国家ってわけだ」
樹の国の説明をフォトンから受けた僕はそう結論付けた。
道は上り坂。
しかも山道だ。
つまり山を領域とした国ということである。
樹の国というだけあって全周囲が樹に囲まれていた。
そしてそれらの樹はそれぞれ多種多様な果実を実らせているのだった。
どれもこれもが美味しそうである。
そうフォトンに言ってみると、
「実際美味らしいですよ」
私も聞いた話ですが、と前置きの後にそう答えてくれた。
「ん~」
呻く僕に、
「何です?」
訝しがるフォトン。
「いや、ねえ?」
事前に聞いておかなければならないことがある。
「毒とか無いの?」
「中毒死したなんて情報を聞いたことはありませんが……」
「そうなんだ」
「そうです」
フォトンは頷く。
「じゃあ樹の国の住人って食べ物に困らないの?」
それは純粋な疑問。
「まぁ一様に美味なより取り見取りの果実を食べられるのですから餓死する人間はいないでしょうね」
「冬とかはどうするのさ?」
「冬にも実をつける樹もありますから」
「ほえ~」
自分でもよくわからない感嘆の吐息をつく僕だった。
「特に山頂に近付けば近付くほど成っている実は美味しいとされています」
そう補足するフォトン。
「ということはこの辺の実はまだ美味しくないと?」
「いえいえ……樹の国に成っている実は総じて美味らしいですよ? ただランクが違うだけで……」
「ランク」
「そうです」
フォトンは頷く。
「要するに……美味しいことには変わりありませんがクオリティが違ってくるということですね。実際樹の国の実は貿易をする商人にとっては資金が無くても換金できる商品になるそうですから」
「そっか」
なるほどである。
「商人が樹の国の果実を別の国に持っていくだけでお金になるんだね?」
「そういうことです」
フォトンも首肯する。
「でもさ。樹の国の政治家たちはそれでいいの? 要するに樹の国の果実って樹の国の財産じゃないのかな?」
「一応取り締まる法律はあるみたいですよ?」
なんだ。
あるんじゃないか。
「ただし有名無実化しているみたいですが」
「…………」
それもそうだね。
こんな山の全部を見渡す力などないのだろう。
良くて国境の砦で検挙されるくらいか。
そんな僕の思考を読みとったのだろうフォトンが、
「だから輸出の際にも賄賂が駆使されるようですね」
そう付け足してきた。
「それもなるほどだ」
僕はそう言う他ない。
そして僕は提案してみる。
「そこら辺の果実を食べてみてもいいかな?」
「いいんじゃないですか?」
言われると同時に、僕は十メートルほどジャンプして多数あるソレの一つである樹の果実をもぎ取った。
取ったのは二個。
一つは僕の分で、もう一つはフォトンの分。
「ありがとうございます」
と言ってフォトンは一礼する。
そして僕とフォトンは果実を齧る。
駄洒落じゃないよ。
念のため。
そして、
「へえ……」
「ふわ……」
と同時並行に僕とフォトンは驚愕した。
軽やかな甘みとスパイスのような酸味が見事に両立している。
とった果実はそんな味だった。
「まるでパイナップルだ」
と僕は評論した。
「たしかに」
とフォトンが同意する。
うん。
まぁ……。
理解できないではないけど。
「こっちの世界にもパインはあるんだね」
「ありますよ。もっと南に行かないと味わえませんが」
ちなみに僕とフォトンは北に向かっている。
本当のパイナップルを味わうのはもっと後のことになるのだろう。
そんなこんなで樹の国の木々に成っている果実を食べながら、僕とフォトンは次の村まで旅をする。
食べ物は無数にあった。
果実は飽きたら備蓄している黒パンや干し肉を食えばいいだけだ。
そうやって山道をえんやこらさと歩く僕らだった。