ようこそ神秘の世界へ09
「今のところ気配は無し……か」
スーパーでのこと。
昼食の素材を買いながら、僕はオーラで索敵していた。
怪しい人影は無い。
「そもそも人の姿をしてるのかな?」
そこもちょっと疑問。
まず順当にしてるだろうけども。
「前にも思いましたけど、スーパーマーケットって色々あるんですねぇ。ちょっと感心と言いますか……何処でコレだけのモノを?」
「産業革命」
「?」
「その内分かるよ」
懇切丁寧に教えるほどのものでもない。
「イナフにコーラを買っていきませんか?」
「ジュースなら幾らでも買って良いから」
「冷蔵庫で保管できるからですか?」
「それが第一義」
「えと、その……この前飲んだライチのジュースが美味しかったんですけど……ダメでしょうか?」
だからダメじゃないって。
「さっさーい」
買い物籠に放り込む。
「ありがとうございます!」
良きに計らえ。
そんな感じで買い物。
すると、
「――――――――」
ヒュッと涼風が襲った。
「結界……」
すぐに感じた。
「これは……っ!」
ジャンヌも同じらしい。
一気に人の気配が消え失せる。
静寂があたりを包み、静謐が場を支配し、生命のカケラも残らない無音が、この場に於ける……あらゆる全てだった。
そこに害意が奔る。
「――――――――」
咆吼。
不吉を孕んだ。
チャイルドが三体現われた。
虚ろな目。
涎を垂らす口元。
各々のファッション。
そして脳を抉り取られている。
「これがチャイルド……」
「だね」
ジャンヌの確認に僕は頷く。
「殺っても?」
「構わないよ」
別段、元手もかからないものだ。
「コレも不思議ですよね」
ボッとジャンヌの掌から炎が点る。
パイロキネシス。
その真髄だ。
しかもノーアクション。
たしかに反則染みている。
発火能力に於いては、ある意味で一種の究極であり、しかも威力は無尽蔵とくれば、さすがに適当な言葉を探すにも苦労する有様だ。
「で、いける?」
「はぁ。まぁ」
灼熱がチャイルドを襲った。
メラメラと燃える。
その炎を纏いながら、
「――――――――」
それでも此方を襲おうと、チャイルドたちは歩み寄ってきた。
痛覚が無いのか。
炎に包まれても痛痒を覚えないらしい。
けれど確かに燃えていて、肉体――この場合は細胞か――はジャンヌの炎によって焼け黒ずみ、劣化して、酸化し、その為り形を維持できなくなる。
「うーん」
「何か?」
「ホラーだね」
「恐怖」
然り。
燃えながら此方に歩み寄るゾンビが滑稽のようで、あるいは戦慄を覚えるようで、何とも言えない気分になる。
瞬く間に炎はチャイルドを灼き消して、場を元に戻した。
「結界が消えた」
さっきまで無かった人の雑談が復活する。
「戻って来られたみたい」
「ですね」
互いにホッとする。
「じゃあ買い物でも続けようか」
「でもあらかた籠に入れたのでは?」
「イナフにポテチを買ってあげたくてね」
「ああ」
それは納得らしい。
「ジャガイモを揚げたんですっけ?」
「さいですさいです」
コクリと頷く。
「脂分が多いのでは?」
「イナフは身体鍛えてるから大丈夫だよ」
ゲームばっかりしている印象はあるけど、一応こっちでも近接格闘戦の訓練はまったく怠っていない。
素晴らしきかなエルフ。
いや。
ハーフエルフですけども。
「こんなに色んな味があるのも新鮮ですね」
「そこは企業努力かな」
他に述べようもなく。
「コンソメパンチでいいか」
僕はポテチを買い物籠に入れた。




